追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ

文字の大きさ
142 / 504

回想中

しおりを挟む
バロウ元ルーベンス伯爵は呆然としながら、ふとこれまでのことを回想していた。

バロウ・ルーベンス伯爵。子爵位の三男だった彼は、幼少の頃から人と仲良くするのが得意であると周りからは見られていた。
どれだけ人見知りで、どれだけ偏屈でも、バロウは相手の警戒心を解き、打ち解ける能力を持っていた。
三男ではあったが、子爵家を発展させるにはバロウのような能力こそが必要だと思い、子爵はバロウを嫡男に据えることを決める。
兄弟とも仲の良かったバロウは特に反対されることも揉めることもなく次期子爵として道を歩むことになったが、このとき実は親である子爵ですらバロウのことを見誤っていた。

バロウは人だけでなく、動物も・・・果ては魔物とも心を通わせる超特殊な能力を持っていたのだ。

世には魔物を使役するビーストテイマーと呼ばれている冒険者がいるが、それとはまるで次元の違うものだった。
魔物と使役するビーストテイマーは基本的に魔物とは主従関係であるし、彼らの力を持ってしても従えることの出来ない魔物も多くいる。

だが、バロウは種類関係なく、あらゆる魔物と心通わせることが出来た。生物であれば何とでも打ち解けることの出来る極めて非凡なる能力を持っていたのだ。

バロウは自身の能力を自覚して以来、これを世の役に立てたいとずっと考えていた。
能力を生かして人脈を作り、領地運営を円滑にするだけでも子爵家には十分に貢献できる。
実際バロウは子爵位を継いでから領地を先代以上に発展させ、外交面でも帝国に大きく寄与し、その功績から伯爵位を賜ることになる。父からの期待に十二分に応えたと言える快挙だった。
だが、バロウはそれだけでは満たされなかった。より大きいことがしてみたいと思ったのだ。

そしてそんなバロウに目を付けたのが、『魔族共生派』と呼ばれる人間達だった。

人間と魔族は長きに渡って争い続けているが、従来通り魔族を殲滅し、人による人のための完全なる世界の統治を目的とする『魔族殲滅派』。それに異を唱え、魔族と共生していく道を模索すべきと提唱しているのが『魔族共生派』だ。

人類と魔族の戦争は両軍に毎年多くの犠牲が出る。
だが戦況は一進一退の膠着状態と言えるもので、いつまで経ってもどちらが勝利するわけでもなく、両軍ともに多大な血を延々と流し続けている。
ならば争いは一旦やめ、両者とも折り合いをつけて和睦すべきだと言うのが『魔族共生派』と、その亜流である『停戦派』だった。

バロウは『魔族共生派』の主張に同調した。
自分の能力をもってすれば、魔族の長・・・魔王と交渉し、停戦と実現させることが出来ると信じていた。

元々は『魔族共生派』の勢力はとても小さなものだった。何故なら魔族と交渉など、とても現実的とは言えなかったからだ。
魔族からの完全勝利も諦めムードがあったが、それでも和睦など理想でしかないと言われていた。

だが、生物なら何とでも心を通わすことが出来ると知られ、一部から注目されていたバロウが『魔族共生派』に付くと、情勢はじわじわと変わり出した。
元々人に取り入るのが得意であるバロウは、続々と賛同者を増やし、『魔族共生派』は一気にその勢力を拡大していった。

バロウ・ルーベンスの名は、『魔族殲滅派』の脅威となり、血で塗られた対魔族戦に終止符を打つ・・・間違いなく伝説となる。
バロウはそう期待されていたし、彼自身もそう思っていた。

だが、ある時からバロウは体調を崩すようになった。
毒スライムによる影響だったが、当時は原因不明の病とされ、治療することも出来ずついには領地運営をすることすらままならなくなり、領民に混乱させまいとバロウは爵位に執着せず、手放すこととなった。

バロウを慕っていた使用人達は彼に尽くしたが、それでもバロウに期待を寄せていた者達は彼から離れ、『魔族共生派』は一気に弱体化した。和睦に必要なバロウ自身が使い物にならなくなってしまったからだ。

バロウは妻にも逃げられ、普通なら絶望しても良いくらいの不幸に遭ったが、それでも彼の中にあった最大の心残りと言えば、『魔族との和睦を実現出来なかったこと』であった。
他の誰にも出来ない、最大限自分の存在意義を示せる機会を失ってしまったことが悔しくて仕方が無かった。


「私ならば、誰とでも話ができる。仲良くなれる。魔族とて例外ではない。私ならば世界に平和を取り戻せる」


自分の能力とそれが築ける可能性について絶対なる自信を持っていたバロウは、その身が病によって滅ぶのを何より悔いていた。

だが・・・


「飛んだ思い上がりだったかもしれん」


バロウはそう考えるようになった。
まずはバフォメットとジャヒーの裏切り。
ずっと自分を慕い、尽くしてきてくれたと信じていたが、シュウの話によるとどうやら彼らがバロウ達親子に毒スライムをけしかけていた。そしてそれを本人らは否定していない。
この事実は大きな衝撃となり、バロウを打ちのめした。

共に過ごしてきたバフォメット達ですらが裏切ったというのに、見たことも話したこともない魔王と和睦など結べるのだろうか?と。

そして、もう一つ・・・シュウが自分の話を聞いてくれない。
話せば誰とでもわかりあえると思っていたバロウだが、同じ人間であるはずのシュウはバロウの制止も聞かず、ジャヒーを打ちのめし続けている。


「どうしました?誇り高い魔族が、人間相手にいつまでも地に這いつくばって恥ずかしくはないのですか!?」


一体何がシュウをそこまでさせるのか。
バロウが懇願しても、シュウはその手を止めることがない。

一体何だこの暴れん坊は?
よほど酷い育ちなのか?
というか果たして同じ人間なのか?
魔人であるというバフォメット達のほうが話がもう少し出来そうだったが?


誰とでもコミュニケーションを取れ、その能力が世界を変えることが出来ると確信していたはずのバロウは、一度に襲って来たこの二つの挫折に、ただただ打ちひしがれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

処理中です...