追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ

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無傷の女

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結局、屋敷についた火が完全に消火されたのは世が明けた頃だった。
決死の消火作業が実を結び、火災は屋敷の一部を焼いただけで済んだわけだが、ようやく消火が完了したと思った頃には出火場所であるシュウ達が使っていた部屋は全焼し、屋根も壁も崩落して元の形を留めていなかった。


「屋敷の者達の被害はないらしい。誰も使ってなかった場所だったからな」


「こう言っちゃなんだが、それは幸いだ・・・だが・・・」


消火に当たっていた使用人達は火事が消し止められたというのに表情は浮かない。何故なら火元である部屋にはフローラがいたはずだからだ。


「あの子は・・・無事じゃないだろうな・・・」


「・・・そうだな・・・」


フローラは爆発に巻き込まれて瓦礫に埋もれた上に、火事に巻き込まれてしまっているはずだと予測され、生存は絶望的だった。

ガラッ

重い空気が流れ、使用人達が居た堪れない表情で沈黙している中、突如として近場にあった瓦礫が崩れだし、彼らは突然のことにぎょっとする。
だが、彼らが本当に度肝を抜かれるのはこれからだった。


「あぁー・・・良く寝た・・・」


悲惨なことになっていると思われていたフローラが、呑気な台詞とともに瓦礫から姿を現したのだ。それも火に焼かれているどころか、肌も服も綺麗なままである。


「え・・・」


「ば、化け物・・・?」


怪我どころか服に煤のよる汚れも見られない、正真正銘『無事』な姿に、使用人達は信じられないものを見たとばかりに目を丸くして唖然とする。


「・・・?」


当のフローラは不思議そうな表情を浮かべながら、キョロキョロと周囲を見回してから


「あれ・・・なんだかお部屋の雰囲気が随分変わりましたね・・・?」


などと間が抜けたことを言い、使用人達は一斉にずっこけた。



-----



「シュウ様!おはようございます!」


全てが終わり、皆がやつれた顔をして休憩している中、一人飛びぬけて明るい声でシュウに挨拶をするフローラは明らかに浮いていた。

床に着くまでは数日分の寝不足でやつれていたフローラは、がっつりと睡眠を取ることですっかり元通りの美貌を取り戻しており、一晩中ハプニングに翻弄されやつれていた他の皆とは実に対照的である。


「えっと・・・何かありました?」


流石に自分以外の人間が満身創痍、屋敷も自分が寝ていた部屋が焼けて崩落し、またシュウの戦闘の跡で壁や床がどころどころボコボコになっているのを目にして、寝ぼけていた頭が覚醒したフローラは自分が寝ている間に何かが起こったのであろうことを理解した。


「まぁ、ちょっといろいろと立て込みまして。ちょっと落ち着いたらお話しますね」


ゲッソリした顔でそう言いながら、使用人が煎れてくれたコービーを口にするシュウ。


「あの、どうしてフローラさんはあれだけ無傷でいられたのでしょうか」


ルーシエもフローラが寝ていた場所が酷いことになっていることは知っている。なのにそこから平気な顔で生還してきたフローラのことが、不思議で不気味でならなかった。


「ああ、フローラは『セイントガード』で護られていますから」


「セイントガード?」


「ええ。寝ている間に自動展開される防御魔法です。非常に強力な結界が彼女を包うので、よほど強力なエネルギーをぶつけない限りは肉体に震動すら与えません。巨象が踏んでも壊れませんよ。寝ている間はどうしても無防備になるので、護身用にとアレを展開させるのが習慣になっているのです」


セイントガードは、聖女が暗殺などから己の身を守るために習得必須とされている防御魔法の一つだ。
フローラはこれがあったために爆発でも火事でも無傷だったし、シュウも安心して彼女のことを放置していたのである。
非常に強力な防御魔法だが、消費する魔力は大きく、『聖女』認定されるほどの膨大な魔力がなければ習得したところで実用することは敵わない。
シュウとて使おうと思えば使えるが、フローラと同じだけのものを展開すれば10分もたずいて魔力が尽きる。

ちなみに下世話な話であるが、聖女の暗殺を防ぐためという意味合いもあるが、不届き者による夜這いなどから身を守り、スキャンダルを防ぐというのが『習得必須』とされている主な理由である。


「凄いですね。でも、どうしてそんな大層な防御魔法を彼女は身に着けておられるのですか?」


「えっと・・・」


シュウ達は追われる身である以上、フローラが『聖女』であるということは出来るだけ伏せておきたかった。どうしたものかと眉を寄せて、やや視線を彷徨わせるシュウを見たルーシエは、そのことについて興味がないのか、それともシュウの様子から何かを察したのか、それ以上追及しなかった。


「ところで、それだけ強力な魔法が使えるなら、フローラさんがいればアモンという者に対してもシュウ様一人がヘイトをぶつけられることなく、もっとスムーズに制することも出来たかもしれませんね」


ルーシエに何気ない一言に、シュウは「それは言わないでください」と項垂れるのだった。
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