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忘れかけた顔 その2
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森の中に通っている狭い道の中を、トラヌドッグの駆る馬車は凄まじい速度で駆け抜けていた。
「すみません、助かりました」
思わぬ救いの手を差し伸べてくれたトラヌドッグにシュウは礼を言う。
助かったというにはまだ気が早いが、少なくとも屋敷から自分達の足で逃げ出すよりはずっとマシな状況になった。
「何か屋敷にいたらいろいろあった上に、ついには白金の騎士団がやってきたなんて流石にワシも目を疑ったよ」
あ、やっぱ屋敷にはいたんだ。本当に存在のことを忘れていた・・・なんてことはシュウは言い出せるはずもなく黙っていた。
「しかし、良いのですか?私達の逃亡を手助けすれば、貴方の商売にも何かしら悪影響があるかもしれない」
シュウ達は白金の騎士団のお訪ね者だ。そんな彼らを匿えばもしかしたら帝都では仕事が出来なくなるかもしれない、そんなリスクをシュウは懸念していた。
「なぁに、ワシだってこのまま捕まれば面倒なこ・・・いや、若者が困っているのを見て見ぬふりはできぬよ。ワシのことは心配するな!万が一のときはお主らに脅されてやったことにするわい!」
ん?今、最初に何か言いかけたよね?とシュウはツッコミそうになったが、あえて黙っていることにする。
「後はこの進行方向に騎士団がいなければそれで良いのですが・・・」
「ほほっ!もし騎士団と鉢合わせしたところで、そのときは強行突破してみせるわい。これまで何度ワシが憲兵から逃げおおせるために修羅場をくぐってきたと思っておる。場数が違うわい!」
不穏な失言を繰り返すトラヌドッグに「もしかしてツッコミ待ち?」と言いたくなるのをグッと堪えるシュウ。
シュウ達はお尋ね者だが、トラヌドッグもそこそこに悪行を積んでいるのではないか?との疑惑が少なからず湧いて来る。シュウ達を乗せてくれるのも、もしかしたら自分も逃げなくてはならない立場だからかもしれない。
だが、そのことは今のシュウ達にはこれ以上ないほど好都合であることは間違いないので、特にそれを指摘するつもりはなかった。
(とはいえ、実際に強行突破をするのは難しいだろう・・・)
白金の騎士団は並ならぬ強さを持つ騎士団だ。
トラヌドッグが何をやらかしていたのかはわからないが、彼などとは比較にならぬほどの巨悪と戦うのが専門である白金の騎士団と鉢合わせした場合、そう易々と強行突破させてくれるとは思えなかった。
何しろホワイトキングのような並外れた巨体の馬でも、白金の騎士団の包囲を突破できる気がしなかったのだから。
(本隊と鉢合わせないことを祈るしかない!)
シュウがそう考えながら拳を握りこんでいると、そこにスッとフローラの手が添えられた。
「心配しないでくださいシュウ様。私が何とかしますから」
「・・・いや、普通こういうとき立場が逆なんですけどね」
安心させようと微笑を浮かべて言うフローラに、シュウは苦笑いをしてそう返し、彼女の手をそっと握った。
添えられたフローラの手が、ほんの僅かに震えているのをシュウは察している。
自分も怖くて堪らないのに、それでも案じてくれるフローラにシュウは何とかして安心させてやりたいと思った。
しかし、この緊迫した状況で何を言えば安心してくれるのか。良い事が何も思い浮かばないシュウは
「フローラ。ここのところ私もすっかりご無沙汰でしたので、うまく切り抜けた際にはいつもより多めにおたのしみしましょう」
思わずこんなことを口走っていた。最低だ。
「しゅ、シュウ様・・・はい・・・」
そしてシュウのこんなセリフに頬を赤らめて乗せられるフローラもフローラだ。
「な、なんなんだこいつらは・・・」
そんなシュウ達をトラヌドッグは呆れて見ていた。
「すみません、助かりました」
思わぬ救いの手を差し伸べてくれたトラヌドッグにシュウは礼を言う。
助かったというにはまだ気が早いが、少なくとも屋敷から自分達の足で逃げ出すよりはずっとマシな状況になった。
「何か屋敷にいたらいろいろあった上に、ついには白金の騎士団がやってきたなんて流石にワシも目を疑ったよ」
あ、やっぱ屋敷にはいたんだ。本当に存在のことを忘れていた・・・なんてことはシュウは言い出せるはずもなく黙っていた。
「しかし、良いのですか?私達の逃亡を手助けすれば、貴方の商売にも何かしら悪影響があるかもしれない」
シュウ達は白金の騎士団のお訪ね者だ。そんな彼らを匿えばもしかしたら帝都では仕事が出来なくなるかもしれない、そんなリスクをシュウは懸念していた。
「なぁに、ワシだってこのまま捕まれば面倒なこ・・・いや、若者が困っているのを見て見ぬふりはできぬよ。ワシのことは心配するな!万が一のときはお主らに脅されてやったことにするわい!」
ん?今、最初に何か言いかけたよね?とシュウはツッコミそうになったが、あえて黙っていることにする。
「後はこの進行方向に騎士団がいなければそれで良いのですが・・・」
「ほほっ!もし騎士団と鉢合わせしたところで、そのときは強行突破してみせるわい。これまで何度ワシが憲兵から逃げおおせるために修羅場をくぐってきたと思っておる。場数が違うわい!」
不穏な失言を繰り返すトラヌドッグに「もしかしてツッコミ待ち?」と言いたくなるのをグッと堪えるシュウ。
シュウ達はお尋ね者だが、トラヌドッグもそこそこに悪行を積んでいるのではないか?との疑惑が少なからず湧いて来る。シュウ達を乗せてくれるのも、もしかしたら自分も逃げなくてはならない立場だからかもしれない。
だが、そのことは今のシュウ達にはこれ以上ないほど好都合であることは間違いないので、特にそれを指摘するつもりはなかった。
(とはいえ、実際に強行突破をするのは難しいだろう・・・)
白金の騎士団は並ならぬ強さを持つ騎士団だ。
トラヌドッグが何をやらかしていたのかはわからないが、彼などとは比較にならぬほどの巨悪と戦うのが専門である白金の騎士団と鉢合わせした場合、そう易々と強行突破させてくれるとは思えなかった。
何しろホワイトキングのような並外れた巨体の馬でも、白金の騎士団の包囲を突破できる気がしなかったのだから。
(本隊と鉢合わせないことを祈るしかない!)
シュウがそう考えながら拳を握りこんでいると、そこにスッとフローラの手が添えられた。
「心配しないでくださいシュウ様。私が何とかしますから」
「・・・いや、普通こういうとき立場が逆なんですけどね」
安心させようと微笑を浮かべて言うフローラに、シュウは苦笑いをしてそう返し、彼女の手をそっと握った。
添えられたフローラの手が、ほんの僅かに震えているのをシュウは察している。
自分も怖くて堪らないのに、それでも案じてくれるフローラにシュウは何とかして安心させてやりたいと思った。
しかし、この緊迫した状況で何を言えば安心してくれるのか。良い事が何も思い浮かばないシュウは
「フローラ。ここのところ私もすっかりご無沙汰でしたので、うまく切り抜けた際にはいつもより多めにおたのしみしましょう」
思わずこんなことを口走っていた。最低だ。
「しゅ、シュウ様・・・はい・・・」
そしてシュウのこんなセリフに頬を赤らめて乗せられるフローラもフローラだ。
「な、なんなんだこいつらは・・・」
そんなシュウ達をトラヌドッグは呆れて見ていた。
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