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魔物たる所以 その4
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「くっ、化け物め・・・」
魔物のような動きでバットン達を翻弄する魔物じじいは、苦々しい顔をするバットンを余所に猫のような仕草でペロリと手を舐めている。
従業員達はすっかり戦意喪失して壁際に寄り添って震え、その様子を見ながら魔物じじいは不敵に笑う。これではどちらが悪かわかったものではなかった。
「・・・ふっ、数年ぶりに火がついちまったよ」
唐突に、フッと何だか吹っ切れたかのようにバットンが笑みを浮かべて言った。
「思い出したぜ。冒険者だった頃の、あの血が騒ぐようなこの命のやり取りの緊張感をよ」
腕から血を流しながらも、それを治療するでもなくバットンは再び大剣を構える。
上段に構え、やや体を捻る体制になってから、ピタリとその体勢のまま静止する。
「ほぉ・・・」
それまでとは空気の変わったバットンを見て、魔物じじいが感嘆の声を上げる。
バットンは追い詰められて本人の言う通りに心に火が付いたのか、先ほどまでとは目が違っていた。
「あれは・・・オーナーの本気の構えだ」
従業員の一人が言った。
「本気の構え?」
いつの間にか近くにいたフローラが訊ねると、従業員が思い出すように言った。
「俺は昔、冒険者時代のオーナーのファンだったんだ。あの構えは、オーナーが冒険者時代に強敵を相手にするとき見せる本気の構えなんだよ」
バットンは大剣を構えたまま動かない。
身体をひねってすぐにでも横薙ぎに振るえるような体勢だが、そのままの状態を維持しており、魔物じじいに攻撃を仕掛ける様子はない。
「オーナーはここぞというときには、先の先ではなくて後の先を突くスタイルになるんだ。あの状態から、敵が間合いに入れば瞬時に斬る。今そこに神経を集中させている」
動かないように見えても、よく見るとじりじりと摺り足で魔物じじいに寄っていくバットン。
後の先とは言うが、魔物じじいが下手な動きをすれば瞬時に先手を打つほうへスタイルを切り替えることも出来るのがバットンのこの構えだった。
この状態のバットンに迫られれば、相手は蛇に睨まれた蛙のように動けない。そしてやがてゆっくりと迫るバットンの間合いに入り、なすすべもなく剣の餌食になる。
「あのスタイルになったオーナーなら負けはない。昔に戻ったあの人なら、あんな怪物には屈しない」
そう言う従業員とて不安なのか、自分に言い聞かせているようだった。
「だが、相手はあの怪物だぜ・・・いくらなんでも・・・」
他の従業員がそう言うと、横からフローラが言った。
「魔物じじいも警戒しています・・・が、膠着状態は恐らく長くは続かないでしょう。勝負は一瞬で着きます。ですが、今の目をしたバットンさんなら、きっと魔物じじいにも勝てるはずです」
「え、うん・・・」
魔物じじいのおぞましさのせいか、いつの間にかバットンの側になって解説しているフローラに、従業員達は困惑しながらもバットン達の対峙を見守っていた。
ジリジリと両者が詰め寄る。
そして動きがあった。ただし、思いもしない形で。
「カァァァァァァ!」
魔物じじいが突然口を開き、何から霧のようなものを吐いた。毒霧である。
「ぐっ!?」
そして、視界を閉ざされたバットンが怯む隙をついて、一気に迫った魔物じじいのラリアットが炸裂した。
「グァーッ!」
バットン、沈黙。
これにて勝負は決した。
「えぇ・・・」
ギャラリー達はドン引きである。
まさか土壇場で飛び道具を仕掛けてくるなど興覚めも良いところだからだ。
真剣勝負だからなんでも有りといえば有りだが、それはないだろう?と誰もが思っていた。
「ひ、ひどい・・・」
あまりに卑劣な勝利に、フローラは瞳を潤ませ手で口元を押さえながら呟いた。
魔物のような動きでバットン達を翻弄する魔物じじいは、苦々しい顔をするバットンを余所に猫のような仕草でペロリと手を舐めている。
従業員達はすっかり戦意喪失して壁際に寄り添って震え、その様子を見ながら魔物じじいは不敵に笑う。これではどちらが悪かわかったものではなかった。
「・・・ふっ、数年ぶりに火がついちまったよ」
唐突に、フッと何だか吹っ切れたかのようにバットンが笑みを浮かべて言った。
「思い出したぜ。冒険者だった頃の、あの血が騒ぐようなこの命のやり取りの緊張感をよ」
腕から血を流しながらも、それを治療するでもなくバットンは再び大剣を構える。
上段に構え、やや体を捻る体制になってから、ピタリとその体勢のまま静止する。
「ほぉ・・・」
それまでとは空気の変わったバットンを見て、魔物じじいが感嘆の声を上げる。
バットンは追い詰められて本人の言う通りに心に火が付いたのか、先ほどまでとは目が違っていた。
「あれは・・・オーナーの本気の構えだ」
従業員の一人が言った。
「本気の構え?」
いつの間にか近くにいたフローラが訊ねると、従業員が思い出すように言った。
「俺は昔、冒険者時代のオーナーのファンだったんだ。あの構えは、オーナーが冒険者時代に強敵を相手にするとき見せる本気の構えなんだよ」
バットンは大剣を構えたまま動かない。
身体をひねってすぐにでも横薙ぎに振るえるような体勢だが、そのままの状態を維持しており、魔物じじいに攻撃を仕掛ける様子はない。
「オーナーはここぞというときには、先の先ではなくて後の先を突くスタイルになるんだ。あの状態から、敵が間合いに入れば瞬時に斬る。今そこに神経を集中させている」
動かないように見えても、よく見るとじりじりと摺り足で魔物じじいに寄っていくバットン。
後の先とは言うが、魔物じじいが下手な動きをすれば瞬時に先手を打つほうへスタイルを切り替えることも出来るのがバットンのこの構えだった。
この状態のバットンに迫られれば、相手は蛇に睨まれた蛙のように動けない。そしてやがてゆっくりと迫るバットンの間合いに入り、なすすべもなく剣の餌食になる。
「あのスタイルになったオーナーなら負けはない。昔に戻ったあの人なら、あんな怪物には屈しない」
そう言う従業員とて不安なのか、自分に言い聞かせているようだった。
「だが、相手はあの怪物だぜ・・・いくらなんでも・・・」
他の従業員がそう言うと、横からフローラが言った。
「魔物じじいも警戒しています・・・が、膠着状態は恐らく長くは続かないでしょう。勝負は一瞬で着きます。ですが、今の目をしたバットンさんなら、きっと魔物じじいにも勝てるはずです」
「え、うん・・・」
魔物じじいのおぞましさのせいか、いつの間にかバットンの側になって解説しているフローラに、従業員達は困惑しながらもバットン達の対峙を見守っていた。
ジリジリと両者が詰め寄る。
そして動きがあった。ただし、思いもしない形で。
「カァァァァァァ!」
魔物じじいが突然口を開き、何から霧のようなものを吐いた。毒霧である。
「ぐっ!?」
そして、視界を閉ざされたバットンが怯む隙をついて、一気に迫った魔物じじいのラリアットが炸裂した。
「グァーッ!」
バットン、沈黙。
これにて勝負は決した。
「えぇ・・・」
ギャラリー達はドン引きである。
まさか土壇場で飛び道具を仕掛けてくるなど興覚めも良いところだからだ。
真剣勝負だからなんでも有りといえば有りだが、それはないだろう?と誰もが思っていた。
「ひ、ひどい・・・」
あまりに卑劣な勝利に、フローラは瞳を潤ませ手で口元を押さえながら呟いた。
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