20 / 203
反逆
束の間の平和
しおりを挟む
「ハルト!」
クリスに袖にされ、釈然としない気分のああとぼとぼと歩いていたハルトはまた声をかけられた。
しかし声をかけられたハルトの表情は少し明るくなった。その声は、自分の最愛の人のマーサのものであったからだ。
マーサは聖騎士ハルトのパートナーである聖女、そして恋人であった。
「やぁマーサ」
「ハルト・・・どうしたの?何か考え事?」
ハルトの表情に影がかかっていることを察したマーサは、心配そうに訊ねた。
「いや、別に大したことじゃないんだ。どうでもいいことさ」
ハルトはそう言って頭を振ると、頭を切り替えることにした。考えていても仕方がないことだと割り切ったのだ。いずれわかるときが来るだろうと。
「そうなの?ならいいんだけど・・・」
少しだけ気がかかりそうな表情を見せたマーサだったが、特にそれ以上は聞いてはこなかった。
「さっきね、お父様から私達の結婚式のことについて話があったの」
空気を変えようと、マーサが話題を変える。
「お父様が、その、やはり私達の結婚式は盛大に祝うべきだと主張してて・・・その、ハルトが希望していたような、あまり派手にやらない・・・というわけにはいかなくなったみたい・・・」
何とも気まずそうに、マーサは苦笑いを浮かべながらチラチラとハルトの顔色を伺うようにそう言った。
「えっ・・・どういうことだい?」
マーサの父は大司教であり、祖父は枢機卿まで務めたことのある者である。そんなマーサの結婚式となると、やはり地味なもので済ますわけにはいかないと、マーサの父が前のめりになっていると彼女の口から聞かされ、ハルトは顔色が蒼くなった。
「国を挙げての大規模なものにしてみせるって・・・それに、ハルトは救国の英雄である聖騎士だし、私は聖女だから、権威を示すためにもって、派手なものにはしたくなって言ってもどうして聞き入れてくれないの」
長時間父とやり取りしたのだろう、マーサは疲労に色を浮かべながらそう言って溜め息をついた。
ハルトは苦笑いを浮かべながら、マーサの肩を抱いた。
「・・・そういうことなら仕方がないね。僕達も覚悟を決めよう。本当は・・・あまり派手にはしたくないんだけどね。ちょっと恥ずかしいから」
「いいの?ハルト・・・」
不安そうに問いかけてくるマーサの顔を見つめながら、ハルトは満面の笑みで答えた。
「あぁ、どうせならパーッとやろう」
ハルトのその言葉にマーサが破顔する。
(そうだ。今、僕には何よりも大事な人マーサがいる。彼女さえいれば良いじゃないか・・・余計なことを考えるな)
ハルトはマーサを抱きしめながら、苦労の末に手に入れた自身の幸せを噛みしめ、頭から雑念を振り払った。
しかし平穏の破滅の足音は、すぐそこに迫っていた。
クリスに袖にされ、釈然としない気分のああとぼとぼと歩いていたハルトはまた声をかけられた。
しかし声をかけられたハルトの表情は少し明るくなった。その声は、自分の最愛の人のマーサのものであったからだ。
マーサは聖騎士ハルトのパートナーである聖女、そして恋人であった。
「やぁマーサ」
「ハルト・・・どうしたの?何か考え事?」
ハルトの表情に影がかかっていることを察したマーサは、心配そうに訊ねた。
「いや、別に大したことじゃないんだ。どうでもいいことさ」
ハルトはそう言って頭を振ると、頭を切り替えることにした。考えていても仕方がないことだと割り切ったのだ。いずれわかるときが来るだろうと。
「そうなの?ならいいんだけど・・・」
少しだけ気がかかりそうな表情を見せたマーサだったが、特にそれ以上は聞いてはこなかった。
「さっきね、お父様から私達の結婚式のことについて話があったの」
空気を変えようと、マーサが話題を変える。
「お父様が、その、やはり私達の結婚式は盛大に祝うべきだと主張してて・・・その、ハルトが希望していたような、あまり派手にやらない・・・というわけにはいかなくなったみたい・・・」
何とも気まずそうに、マーサは苦笑いを浮かべながらチラチラとハルトの顔色を伺うようにそう言った。
「えっ・・・どういうことだい?」
マーサの父は大司教であり、祖父は枢機卿まで務めたことのある者である。そんなマーサの結婚式となると、やはり地味なもので済ますわけにはいかないと、マーサの父が前のめりになっていると彼女の口から聞かされ、ハルトは顔色が蒼くなった。
「国を挙げての大規模なものにしてみせるって・・・それに、ハルトは救国の英雄である聖騎士だし、私は聖女だから、権威を示すためにもって、派手なものにはしたくなって言ってもどうして聞き入れてくれないの」
長時間父とやり取りしたのだろう、マーサは疲労に色を浮かべながらそう言って溜め息をついた。
ハルトは苦笑いを浮かべながら、マーサの肩を抱いた。
「・・・そういうことなら仕方がないね。僕達も覚悟を決めよう。本当は・・・あまり派手にはしたくないんだけどね。ちょっと恥ずかしいから」
「いいの?ハルト・・・」
不安そうに問いかけてくるマーサの顔を見つめながら、ハルトは満面の笑みで答えた。
「あぁ、どうせならパーッとやろう」
ハルトのその言葉にマーサが破顔する。
(そうだ。今、僕には何よりも大事な人マーサがいる。彼女さえいれば良いじゃないか・・・余計なことを考えるな)
ハルトはマーサを抱きしめながら、苦労の末に手に入れた自身の幸せを噛みしめ、頭から雑念を振り払った。
しかし平穏の破滅の足音は、すぐそこに迫っていた。
0
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる