聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

束の間の平和

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「ハルト!」


クリスに袖にされ、釈然としない気分のああとぼとぼと歩いていたハルトはまた声をかけられた。
しかし声をかけられたハルトの表情は少し明るくなった。その声は、自分の最愛の人のマーサのものであったからだ。
マーサは聖騎士ハルトのパートナーである聖女、そして恋人であった。


「やぁマーサ」


「ハルト・・・どうしたの?何か考え事?」


ハルトの表情に影がかかっていることを察したマーサは、心配そうに訊ねた。


「いや、別に大したことじゃないんだ。どうでもいいことさ」


ハルトはそう言って頭を振ると、頭を切り替えることにした。考えていても仕方がないことだと割り切ったのだ。いずれわかるときが来るだろうと。



「そうなの?ならいいんだけど・・・」


少しだけ気がかかりそうな表情を見せたマーサだったが、特にそれ以上は聞いてはこなかった。


「さっきね、お父様から私達の結婚式のことについて話があったの」


空気を変えようと、マーサが話題を変える。


「お父様が、その、やはり私達の結婚式は盛大に祝うべきだと主張してて・・・その、ハルトが希望していたような、あまり派手にやらない・・・というわけにはいかなくなったみたい・・・」


何とも気まずそうに、マーサは苦笑いを浮かべながらチラチラとハルトの顔色を伺うようにそう言った。


「えっ・・・どういうことだい?」


マーサの父は大司教であり、祖父は枢機卿まで務めたことのある者である。そんなマーサの結婚式となると、やはり地味なもので済ますわけにはいかないと、マーサの父が前のめりになっていると彼女の口から聞かされ、ハルトは顔色が蒼くなった。


「国を挙げての大規模なものにしてみせるって・・・それに、ハルトは救国の英雄である聖騎士だし、私は聖女だから、権威を示すためにもって、派手なものにはしたくなって言ってもどうして聞き入れてくれないの」


長時間父とやり取りしたのだろう、マーサは疲労に色を浮かべながらそう言って溜め息をついた。
ハルトは苦笑いを浮かべながら、マーサの肩を抱いた。


「・・・そういうことなら仕方がないね。僕達も覚悟を決めよう。本当は・・・あまり派手にはしたくないんだけどね。ちょっと恥ずかしいから」


「いいの?ハルト・・・」


不安そうに問いかけてくるマーサの顔を見つめながら、ハルトは満面の笑みで答えた。


「あぁ、どうせならパーッとやろう」


ハルトのその言葉にマーサが破顔する。


(そうだ。今、僕には何よりも大事な人マーサがいる。彼女さえいれば良いじゃないか・・・余計なことを考えるな)


ハルトはマーサを抱きしめながら、苦労の末に手に入れた自身の幸せを噛みしめ、頭から雑念を振り払った。


しかし平穏の破滅の足音は、すぐそこに迫っていた。
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