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反逆

カイとイリス

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「あんたさぁ、ぶっ倒れるまで訓練するのやめな!自分の残り体力を把握しておくのだって必要なスキルでしょうが」


アドルに引き取られ、騎士団の訓練とは別に個別練習で無理をして倒れたカイを介抱するのは、専らイリスであった。
イリスは孤児で神都郊外の孤児院にいたが、聖魔法の資質を見出されて聖女候補として中央の神殿に引き取られていた。二人とも同い年の平民出身で、恩に報いようと無理をしてでも期待に応えようとしている似た者同士だった。


「んだよ、ぶっ倒れた俺を回復すればイリスだって修行になってウィンウィンだろ?」


「そういう問題じゃないんだよ!ったく、他の訓練生は訓練が終われば泥のように眠って大人しいのに、どうしてアンタってばそうなんだろうね」


「イリスこそこんな問題児になんで構ってんだか。聖女候補ってお高く止まって騎士のひよっこなんて相手にしないのばっかりなのにさ」


サンクレア中央部において、騎士団の地位は低い。見習いともなれば尚更だ。翻って神官達の地位は高く、聖女候補生はいっぱしの騎士よりも格上の扱いである。
だから聖女候補のイリスが見習い騎士のカイに気安く声をかけるのは、極めて異例的なことであった。
似た者同士であるが、サンクレア内の立場が大きく異なっている。


「私は所詮平民だからそういうのは別に気にしないからねぇ。それに、私には神殿で威張り腐ってるだけで無能な神官よりも、アンタのように馬鹿でも一生懸命なやつのほうが話してて面白いさね」



聖女候補の立場でありながら、見習い騎士と接していれば指導役の上司からの忠告くらいは普通はあるだろう。だが、イリスは聖女候補ではあるが郊外育ちの平民であったため、特にそうした注意をされるようなことはなかった。
イリスは今は聖女候補でもいずれ脱落すると皆に思われていたからである。


ラビス教は人に上下はなく、差別は悪とされている。
だがしかし、サンクレアでは実際のところ形式上は差別はないものの、やはり教団の関係者とその血筋、そして貴族の人間が持て囃されていた。
平民出身のカイが騎士の中でも最高位である聖騎士に、そしてイリスが聖女になるということなど、この時は誰もが考えてなどいなかった。サンクレアの風潮的に考えればあり得ない話だったからである。

だがこの二人は、サンクレアのその因習に大穴を空ける暴風であった。
そのことをサンクレア上層部を思い知ることになるのは、彼らが15歳になる頃だった。
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