37 / 203
反逆
選民意識
しおりを挟む
カイが中心街を出、郊外エリアへと戻ったときだった。
「助けて!」
誰か女の悲鳴を聞き、カイは声をした方へ顔を向ける。そこは廃屋が立ち並ぶ、人気のないところであった。
「おや・・・」
カイが声のした所へ足を運ぶと、そこには屈強な数人の男と、その中に一人に腕を掴まれている少女の姿があった。どうやら女が無理矢理男達に迫られているようだとカイは察した。
「うるせぇな!黙ってろや!!」
腕を掴んでいる男が少女に平手打ちをかます。乾いた音が辺りに響き、少女は痛みと恐怖で顔を歪ませる。
「お前、ユーライ国民だろ?このサンクレアでお前に人権なんかあると思ってるのか?スパイだって突き出せば、お前牢屋に行くことになるんだぜ?」
男はそう言って少女に顔を近づける。
「私の両親は確かにユーライ人ですが、何十年の前からこちらに移住してきて、私はここで生まれてるんです。私はれっきとしたサンクレア人です!」
少女は反論するが、男は小ばかにしたように笑う。
「関係ねぇよ!両親がそうならお前もユーライ人なんだよ。そしてユーライ人にゃ今となっては人権は無ぇ」
ガシッと、男が少女の口元を手で塞ぐ。
少女は恐怖で震え、目からは涙がとめどなく溢れていた。
「俺はサンクレアの騎士だ。将来は聖騎士候補とだって言われてる。そんな俺がお前はスパイ活動をしていると訴えるとどうなると思う?今のように自由を謳歌したいなら、ここのところはどうすれば良いかわかるよな?ちょっと体を好きにさせてくれるだけでいいんだよ」
そう言っていやらしく笑う男の顔を、少女は涙を流しながら呆然と見つめていた。
自分に降りかかった不幸と、これから訪れる理不尽に愕然としているようである。
「おぅ、お前らちゃんと見張っとけよ?」
「おぅ任せろ」
男が周囲にいるはずの仲間に振り向いてそう言ったが、答えたのは男の知らぬ者・・・カイ一人だった。
「あ・・・?」
数人いた仲間が姿を消し、代わりにローブに身を包んだ見知らぬ男が立っているこの状況が一体何なのか男には理解できなかった。
「・・・っ!?」
だが、一瞬にして男は理解する。
よく足元を見ると、自分の仲間が血を流しながら地面に横たわっているのだ。
「お前ら!一体どうした!?」
男は慌てて叫ぶが、仲間達は既に絶命しているようで何の反応も示さない。
男は少女から手を離し、腰元の剣に手をかけた。
「わかっちゃいたけど、この国の人間の選民意識ってのはほんと高すぎて見ていてヒクわ。まったく自分がおめでたいわ。お前らみたいな屑を守るために命をかけて戦ったんだと思うとよ」
カイは呆れ顔でそう言った。
「だ、誰だてめぇは!?」
「自分に殺意を向けている相手に悠長に話か?お前みたいな愚図、アドル騎士団長が目をかけてくれているとは思えないけどな」
言うや否や、カイは手に持った短刀で男の首筋を切り裂く。
大量の血が男の首から流れだした。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
恐慌状態に陥り、男は首を抑えて蹲る。
「街中だと思って回復アイテムも持ってないのか?剣は持っているのに?ほんと、お前みたいな準備の悪い愚図はアドル騎士団長が一番嫌うタイプだよ?来世ではよく覚えておきな」
次にカイは短刀を喉笛に一閃。
男は声を発することも出来なくなり、止められるはずもない流血を両手で必死に止める仕草をしていた。遠からず彼は死ぬだろう。
カイは男から視線を外すと、恐怖でガタガタと震える少女に言った。
「この国はもうすぐ亡びる。死にたくなかったら、荷物をまとめて出て行ったほうが良い。それこそユーライのが遥かにマシだと思うよ」
言うことを言うと、カイは踵を返してその場から立ち去った。
「助けて!」
誰か女の悲鳴を聞き、カイは声をした方へ顔を向ける。そこは廃屋が立ち並ぶ、人気のないところであった。
「おや・・・」
カイが声のした所へ足を運ぶと、そこには屈強な数人の男と、その中に一人に腕を掴まれている少女の姿があった。どうやら女が無理矢理男達に迫られているようだとカイは察した。
「うるせぇな!黙ってろや!!」
腕を掴んでいる男が少女に平手打ちをかます。乾いた音が辺りに響き、少女は痛みと恐怖で顔を歪ませる。
「お前、ユーライ国民だろ?このサンクレアでお前に人権なんかあると思ってるのか?スパイだって突き出せば、お前牢屋に行くことになるんだぜ?」
男はそう言って少女に顔を近づける。
「私の両親は確かにユーライ人ですが、何十年の前からこちらに移住してきて、私はここで生まれてるんです。私はれっきとしたサンクレア人です!」
少女は反論するが、男は小ばかにしたように笑う。
「関係ねぇよ!両親がそうならお前もユーライ人なんだよ。そしてユーライ人にゃ今となっては人権は無ぇ」
ガシッと、男が少女の口元を手で塞ぐ。
少女は恐怖で震え、目からは涙がとめどなく溢れていた。
「俺はサンクレアの騎士だ。将来は聖騎士候補とだって言われてる。そんな俺がお前はスパイ活動をしていると訴えるとどうなると思う?今のように自由を謳歌したいなら、ここのところはどうすれば良いかわかるよな?ちょっと体を好きにさせてくれるだけでいいんだよ」
そう言っていやらしく笑う男の顔を、少女は涙を流しながら呆然と見つめていた。
自分に降りかかった不幸と、これから訪れる理不尽に愕然としているようである。
「おぅ、お前らちゃんと見張っとけよ?」
「おぅ任せろ」
男が周囲にいるはずの仲間に振り向いてそう言ったが、答えたのは男の知らぬ者・・・カイ一人だった。
「あ・・・?」
数人いた仲間が姿を消し、代わりにローブに身を包んだ見知らぬ男が立っているこの状況が一体何なのか男には理解できなかった。
「・・・っ!?」
だが、一瞬にして男は理解する。
よく足元を見ると、自分の仲間が血を流しながら地面に横たわっているのだ。
「お前ら!一体どうした!?」
男は慌てて叫ぶが、仲間達は既に絶命しているようで何の反応も示さない。
男は少女から手を離し、腰元の剣に手をかけた。
「わかっちゃいたけど、この国の人間の選民意識ってのはほんと高すぎて見ていてヒクわ。まったく自分がおめでたいわ。お前らみたいな屑を守るために命をかけて戦ったんだと思うとよ」
カイは呆れ顔でそう言った。
「だ、誰だてめぇは!?」
「自分に殺意を向けている相手に悠長に話か?お前みたいな愚図、アドル騎士団長が目をかけてくれているとは思えないけどな」
言うや否や、カイは手に持った短刀で男の首筋を切り裂く。
大量の血が男の首から流れだした。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
恐慌状態に陥り、男は首を抑えて蹲る。
「街中だと思って回復アイテムも持ってないのか?剣は持っているのに?ほんと、お前みたいな準備の悪い愚図はアドル騎士団長が一番嫌うタイプだよ?来世ではよく覚えておきな」
次にカイは短刀を喉笛に一閃。
男は声を発することも出来なくなり、止められるはずもない流血を両手で必死に止める仕草をしていた。遠からず彼は死ぬだろう。
カイは男から視線を外すと、恐怖でガタガタと震える少女に言った。
「この国はもうすぐ亡びる。死にたくなかったら、荷物をまとめて出て行ったほうが良い。それこそユーライのが遥かにマシだと思うよ」
言うことを言うと、カイは踵を返してその場から立ち去った。
0
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる