48 / 203
反逆
仕組まれた呪い
しおりを挟む
クリスは当時を思い出しながら語る。
『最後の抵抗』
魔王を倒し、後は衰退していくだけだと思っていた魔王軍は、全世界の戦力を集結し、ある日神国サンクレアに総攻撃を仕掛けた。人類対魔族最後の決戦である。
魔族の長であり、崇拝していた魔王を倒された魔物達の恨みは凄まじく、まさに強大な肉の壁となって蹂躙すべく波のように全方向から神都へヒステリックに押し寄せる。
戦術も何もない正面からの総力戦に、サンクレア側に出来ることはただ耐えるだけ、であった。指揮をする者がいない、となると誰を先に潰したところで魔物が引くことはない。
サンクレアは聖騎士を四手に分けた。
アドル率いる精鋭部隊を主軸とした騎士団本隊が北を。西をクリスが、南をハルトが、東をカイ達が率いる騎士団が受け持ち、防衛に当たった。
聖騎士は強力な火力で何十、何百と一人で魔族を殺す。聖女は疲弊した聖騎士を癒す。騎士団はそれをサポートする。作戦はこれだけ。ただただ押し寄せる魔物を殺し、殺し尽くして神都への魔物の侵入を断固防ぐ。
地獄絵図であったが、その地獄をどの部隊よりも先に乗り越えたのは、クリス率いる西の隊であった。
西からの魔物の勢いが落ち、やがてほとんど魔物が現れなくなると、一先ずの防衛の成功に騎士達は安堵した。だがまだ戦いは終わりではない。
「クリス様。我ら西の隊は余裕があります。苦戦しているという東に応援を送りましょう」
クリスの指揮化にある西の大隊長は進言した。
西の勢力は沈静化。しかし東は魔物が特に多く大激戦と聞いており、すぐにでも増援が必要な状況であった。
「んー・・・そうねぇ」
クリスは考えた。
すぐに増援を出し、カイに恩を売るのは悪くない。だが、それよりももっと面白いことをこのときの彼女は思いついてしまっていたのだ。
「東はカイが守っているから持ちこたえるわ。それよりも南のハルトのほうが不安ね。騎士の数は多いけど、少しでも拮抗が崩れると調子を乱しちゃうと思うから」
「南・・・ですか。東ほどの苦戦はしていないようですが」
「えぇ。東は大丈夫。けど、南は心もとないわ」
「・・・はっ、それでは南を中心に増援を手配します」
大隊長はクリスの言葉通り、南を重点に増援を送り、東には少数のみ送った。
「そう、カイはきっと大丈夫」
クリスは笑う。
カイが魔物に後れを取るようなことはない。何があっても生き残る。
だが、聖女イリスはそうである必要はない。
クリスは討伐した魔物の死体の山の中にいる、あえて半殺しの状態で生かしておいた魔物の方へ向かう。
それは『大呪術師』と呼ばれる、古来より伝わる極めて強力な呪術を駆使する魔物である。大昔の呪術師人間のミイラに悪魔が乗り移ったのが生誕のきっかけと言われている。
「ぁ・・・・ぁぁ・・」
半殺しの状態であえぐ大呪術師の頬をクリスは両手で掴む。
そしてジッと目を見るのであった。
本人と聖女アルマ以外は誰も知らぬことだが、クリスの魅了の魔眼は魔物ですらも魅了する。元は人間の魔物であるなら尚更だった。
「貴方の呪術を使ってイリスを呪ってきなさい。いいわね?」
クリスは魅了の魔眼を使って、大呪術師を操った。
そして、激戦区であった東にはドタバタに紛れて簡単にその魔物を送り込むことが出来、見事狙い通りにイリスに死の呪術をかけることに成功したのだ。
『最後の抵抗』
魔王を倒し、後は衰退していくだけだと思っていた魔王軍は、全世界の戦力を集結し、ある日神国サンクレアに総攻撃を仕掛けた。人類対魔族最後の決戦である。
魔族の長であり、崇拝していた魔王を倒された魔物達の恨みは凄まじく、まさに強大な肉の壁となって蹂躙すべく波のように全方向から神都へヒステリックに押し寄せる。
戦術も何もない正面からの総力戦に、サンクレア側に出来ることはただ耐えるだけ、であった。指揮をする者がいない、となると誰を先に潰したところで魔物が引くことはない。
サンクレアは聖騎士を四手に分けた。
アドル率いる精鋭部隊を主軸とした騎士団本隊が北を。西をクリスが、南をハルトが、東をカイ達が率いる騎士団が受け持ち、防衛に当たった。
聖騎士は強力な火力で何十、何百と一人で魔族を殺す。聖女は疲弊した聖騎士を癒す。騎士団はそれをサポートする。作戦はこれだけ。ただただ押し寄せる魔物を殺し、殺し尽くして神都への魔物の侵入を断固防ぐ。
地獄絵図であったが、その地獄をどの部隊よりも先に乗り越えたのは、クリス率いる西の隊であった。
西からの魔物の勢いが落ち、やがてほとんど魔物が現れなくなると、一先ずの防衛の成功に騎士達は安堵した。だがまだ戦いは終わりではない。
「クリス様。我ら西の隊は余裕があります。苦戦しているという東に応援を送りましょう」
クリスの指揮化にある西の大隊長は進言した。
西の勢力は沈静化。しかし東は魔物が特に多く大激戦と聞いており、すぐにでも増援が必要な状況であった。
「んー・・・そうねぇ」
クリスは考えた。
すぐに増援を出し、カイに恩を売るのは悪くない。だが、それよりももっと面白いことをこのときの彼女は思いついてしまっていたのだ。
「東はカイが守っているから持ちこたえるわ。それよりも南のハルトのほうが不安ね。騎士の数は多いけど、少しでも拮抗が崩れると調子を乱しちゃうと思うから」
「南・・・ですか。東ほどの苦戦はしていないようですが」
「えぇ。東は大丈夫。けど、南は心もとないわ」
「・・・はっ、それでは南を中心に増援を手配します」
大隊長はクリスの言葉通り、南を重点に増援を送り、東には少数のみ送った。
「そう、カイはきっと大丈夫」
クリスは笑う。
カイが魔物に後れを取るようなことはない。何があっても生き残る。
だが、聖女イリスはそうである必要はない。
クリスは討伐した魔物の死体の山の中にいる、あえて半殺しの状態で生かしておいた魔物の方へ向かう。
それは『大呪術師』と呼ばれる、古来より伝わる極めて強力な呪術を駆使する魔物である。大昔の呪術師人間のミイラに悪魔が乗り移ったのが生誕のきっかけと言われている。
「ぁ・・・・ぁぁ・・」
半殺しの状態であえぐ大呪術師の頬をクリスは両手で掴む。
そしてジッと目を見るのであった。
本人と聖女アルマ以外は誰も知らぬことだが、クリスの魅了の魔眼は魔物ですらも魅了する。元は人間の魔物であるなら尚更だった。
「貴方の呪術を使ってイリスを呪ってきなさい。いいわね?」
クリスは魅了の魔眼を使って、大呪術師を操った。
そして、激戦区であった東にはドタバタに紛れて簡単にその魔物を送り込むことが出来、見事狙い通りにイリスに死の呪術をかけることに成功したのだ。
0
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる