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終焉

偽女神の最後

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「ちいっ・・・!」


ラビスはわかりやすいほどに表情を歪めてみせた。
明らかにカイに苛立っている。これまであった、絶対的強者の傲り故の余裕が消え去っていた。


「裁きの時間だ。偽神ラビス」


カイの言葉に、ラビスは怒りとともに焦りも感じていた。
ラビス自身、自分は神に等しき存在、いや、いずれ神そのものになれると思っている。事実、その試みは順調に進んでいた。
神罰によってサンクレアの地に枷をつけられ、そこから動くことが出来ないでいたが、それでもラビスは信徒の信奉を集めることによって着実に力を蓄えていた。

神の力は偉大だ。だが、人の信じる心というのも大きなエネルギーを産んでいた。
紛いものであるはずの『女神ラビス』は、抑えつけられていながらも、信心から得られた膨大なエネルギーをもって神への下剋上を果たせるその日が近づいていた。


人の信奉の力を侮っていた神は、行動を抑えることには成功しても、それ以上の罰を加えるとなると手をこまねいていた。
直接ラビスを倒すには、既にラビスは力をつけすぎており、神としてもリスクのある状態だったのだ。
ラビスは神ではない。だから奇跡を起こすことはできない。だが、単純な戦闘力だけは神に匹敵するところまで来ていた。
そして、遠からずそれは超えようというところまで差し掛かろうとしていた。



それを、今カイに潰されようとしている。
カイはラビスの信徒を切って力を蓄えた『聖剣』で迫ってくる。
ラビスの戦闘力をもってしても、『聖剣』と戦闘のセンスを極限まで磨いたカイを倒すことは困難だった。


ラビスは明確に脅威を覚えていた。
後少しで本物の神になれる。いや、それ以上の存在になれる。そんなところまで来ていたのに、ただの一人の人間の躍進によって全部台無しにされようとしているのだ。

この場に味方はいない。
唯一味方になりそうなハルトは、既に真実を知って意気消沈しているし、そもそも深手を負って戦力的に役に立たない。

だからラビスは、ここに来て方針を転換させた。


「何が望みだ人間。なんでも叶えてやろう」


ラビスはカイを排除することを諦め、懐柔することにした。
だが、カイは口角をあげ、即座に斬って捨てた。


「望みか?今の俺の望みはお前の死だ。俺が欲しいものはそれで手に入る。偽物のお前なんかには絶対にかなえられねぇもんだ」


カイがそう言った次の瞬間、彼の一刀によりラビスの首は胴体から離れていた。
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