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終焉

指導者の逃亡

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「いやいやいや・・・まさか本当にやりおるとはな、あの男」


ラビス教の最高指導者である法王ランスは、法王城の隠し通路を歩いていた。
この隠し通路は歴代法王のみが知り、他の誰であっても存在すら認知されていない有事の際に使われる脱出口だった。
ランスは荷物をぎゅうぎゅうに積まれた鞄を背負いながら、十代半ばの見た目麗しい少女を連れて法王城を脱出するつもりだった。
ちなみにこの少女はランスの『世話役』の中でも特にお気に入りにしている子である。


「女神ラビス・・・彼女そのものがこの国を維持するための核だったわけだが、まさか本当に神を殺したとはな。いやいや、あの男は聖騎士よりは魔王になるべきだった器を持っているな」


ランスはカイの顔を思い出しながら、そう呟く。
カイのことは只者ではないと思ってはいたが、それでも元聖騎士だけあってある程度の分別はつくと考えていた。
崇拝していた女神ラビスを目の当たりにすることで、自分の中にある復讐心だのそういったものは隅に置き、膝をつくことになるだろうと決めつけていたのだ。

それがまさか、神を前にしてもそのまま自分を曲げずに行動し、神殺しを達成してしまうとは。
ランスは法王に就任した際、『サンクレアの心臓』の真相に関する知識を継承することで、それはもう驚きに驚いたが、今の驚きのはそのときのものに勝る。

女神ラビスが死んだとき、彼女の庇護を失った法王城・・・いや、神国サンクレアにはその衝動が伝わっていた。魔術や法術を極め、ある程度その手の気の流れに敏感なものにしか気づかない程度の衝動だが、ランスには女神ラビスに異常があったのだとすぐにわかった。

ランスは法王としての地位にしがみ付くことはせず、すぐに頭を切り替えた。

この国は亡びる--

ラビスの庇護を失えば、もう神国サンクレアはその力を維持することは出来ない。ランスにはそれがわかっていた。
だからお気に入りの少女を連れ、この地を脱することに決めたのだ。

幸い金だけはたんまり持っているので、世界のどこに逃げても暮らしていける自信があった。
有事の際には誰よりも率先して国を導いていかねばならないはずの法王ランスは、さっさとサンクレアを見限った。
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