聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

文字の大きさ
201 / 203
終焉

幸と苦しみ

しおりを挟む
『あの家に戻ると良いでしょう。彼女はいずれ目を覚まします。あの家は好きなように使っていただいても構いませんよ』


ベルスがそう言うと、そこで強い突風がカイを襲う。
あまりの強風に一瞬視界を奪われたが、視界が戻った次の瞬間にはベルスの姿は無かった。
まるで元々そこには誰もいなかったかのように。


「・・・あれ?俺は・・・どうしていたんだっけか」


ベルスの姿と共に、カイの頭の中から記憶の一部が消えていた。
直前まで誰かと話していたような気がするが、記憶がおぼろげで、まるで夢を見ていたかのように徐々に曖昧になっていく。



「・・・ありがとうございます」


カイは思わず自然とそう口にしていた。
誰に言ったのかはカイ自身にもわかっていない。だが、そう言いたくなってしまったのだ。

そして、カイは愛しの人イリスがいる家へと歩いて行った。
詳しいことはわからないが、何故だかそこにイリスがいるような気がしてならなかったのだ。

ここ最近、サンクレアに対して反逆してから・・・いや、イリスが呪いにかかってからずっと、カイの表情は曇っていた。時折見せる笑顔にも、闇や影が潜んでいた。
だが、今のカイにはそれが無い。心からの晴れやかな笑みが自然に浮かんでいた。


彼が死に物狂いで戦い、掴み取ろうとした幸せがすぐ手元にまで来ている。
そのために斬り捨ててきた者達のことなど、カイの頭からは消えてしまっていた。

これはベルスが神としてカイに与えた褒美の一つであった。
自分がかつての仲間を斬って来た泥臭い記憶を抱えたままでは、イリスと一緒にいても罪悪感を感じるかもしれない。だから今後の幸せな生活のために不必要な記憶を消去したのだ。

地上から姿を消したベルスは、天空からカイのことを見つめて慈愛の笑みを浮かべていた。


「素晴らしき人よ。幸有る人生を」


ベルスはそう言い、フッと顔の向きを変える。
次の瞬間、ベルスの表情は無機質な何の感情もないものに変わっていた。


「愚かなる人よ。終わらぬ苦しみを」


ベルスはそう言いながら手をかざすと、とあるラビス教の拠点に雷が降り注いだ。
ラビス教に対する、神の裁きが始まったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...