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終焉

尊い時間

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「・・・あれ・・・?ここは・・・?」


聖女イリスは、長い眠りから覚めた。
まだ意識が覚醒し切っておらず、ゆっくりと見覚えのない部屋を見回す。


「・・・え!?」


ようやく意識が覚醒すると、イリスは違和感に気付き声を上げる。


「えっ・・・私、死んだはずじゃ・・・」


朧気ながら自分は確か死んだはずだ・・・とイリスは考える。
最愛の人のカイに全てを託し、息絶えたはず・・・だが生きている。
思わず自分の体をあちこち触ってみるが、特に怪我があるようでもない。

そして体が軽いことに気付く。
イリスは呪いにかけられて以来、ずっと苦しい思いをしてきた。それがなくなり、体調が正常そのものに感じられたのだ。


「い、一体何が・・・?」


イリスは自分の身に何が起こったのかを考える。
だが、考え出してややもしないうちに、また更なる違和感を感じることになった。


「えっと・・・あれ?何だっけ・・・?」


イリスは混乱した。
自分が何に違和感を感じていたのかを、思い出せないのだ。
自分が死んだはずであること、呪いを受けたこと、それらがまるで醒めた夢の内容のように、徐々にイリスの記憶から溶けてなくなっていく。


「・・・あれ?」


そしてついに、イリスはここ最近自分に何があったのかすら思い出せなくなってしまった。
それはベルスの残した置き土産。
カイとイリスの新生活を祝福し、弊害となるような忌まわしい記憶を忘れるように処置していったのだ。

トントン

イリスが困惑していると、部屋の戸を優しくノックする音が聞こえ、イリスは目を向ける。


「・・・誰?」


イリスが声をかけると、ゆっくり扉が開かれた。


「カイ・・・」


部屋に入って来た最愛の人カイを見て、イリスは目を見開く。


「え・・・?」


自然と涙があふれていた。
自分の異変にイリスが呆然とするが、それはカイも同じだった。
二人して見つめ合い、涙を流している。

なんだか可笑しいね、と言いあいながら、二人は強く抱擁し合った。

二人ともイリスが呪いを受けてからの記憶が無くなっていたが、それでも二人がこうしていられるのは、とても尊いことであることだけはわかっていた。

世界は神の裁きにより混沌を極めていたが、二人には関係のない話である。
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