新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

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今やろうとしてたのに

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昨晩は王城のほうで何か騒ぎが起きているなと感じたが、街は街で騒ぎがあったと知ったのは朝になってからだった。
どうやら局地的ではあるが魔族の襲撃があったらしい。俺の住んでいたところは何もなかったらしく、昨晩は本当に襲撃については気付くことはなかった。



「こんなことは20年ぶりくらいか?」

「そうねぇ。そういえば勇者様が魔王を退治してくれて以来かしら」


両親によると太平が始まる前の昔はたまにこんなこともあったらしい。
魔王が退治されたことによって統率力を失った魔族は大人しくなり、これまであった平和が訪れていたのだという。
長く平和が続いたのと、過去に勇者が平和をもたらした経験のせいか、両親はいまいち危機感を持っていないように見える。

「もしや魔王が復活・・・?」

俺は魔王山のほうへ目をやった。
幼い頃からの景色。平和である人間界と違い、あそこは恐ろしいところだから決して近寄るなと昔から言われていた。
目で見える範囲にあり、徒歩でも半日で到達してしまう距離。魔族が襲撃する気になればどれだけ警戒網を張っていてもたちどころに侵入されてしまう。
これまで長きに渡ってそれが起きなかったのは、魔族が弱体化した、定期的に行われてきた討伐によって魔族の数を減らすことができていた、そう言われていた。
だが昨夜の話を聞くに、そうではなかった。襲撃できるだけの力はあったが、実行してこなかっただけだというのが判明した。
敵は無数のリトルドラゴン。実は俺やディオが力試しと修行を兼ねて対峙したことのある種族だ。魔王山にしかいないというので、民間人立ち入り禁止のそこまでこっそりと行ったことがあるのだ。
確かに強力な相手ではあるが、それでも俺達の敵ではなかった。だが、記憶の中では群れを成して行動をするタイプではなかったと思う。
とすると

指示を出した者がいる。つまり魔王が復活した可能性がある。

俺はそう考えていた。
これから騎士団による討伐が行われるのだろうか。それとも・・・


「そういえば昨晩はディオ君が大活躍したらしいぞ」


物思いにふける俺は父のその言葉にピクリと反応した。
そういえば忘れていた。ディオは今、王城住みなのだ。昨晩は王城に最も多くのリトルドラゴンの襲撃があったというので、間違いなくディオも対峙しているはずだ。


「無数に湧いてくるリトルドラゴンをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、100体は屠ったというじゃないか」

「私は1000体って聞きましたよ。やっぱり強いのねぇ。彼が国王になるなんて、この国は安泰だわ」


正確には俺だって知らないが、両親の話は過剰に盛られているところがあるだろう。だが、それを考慮してもなお非凡といえる戦果はあげたのだろう。
くそっ、俺だってその場にいればそれなりの結果を出すことができるはずなんだ。そういえば騎士団や宮廷魔術師への勧誘が来ていたな・・・俺の名の轟かせて、決してディオにそう引けを取るものではないということを知らしめてやろうか?
んー、でもそうするとディオの下で働くということになるな。んー

そんなふうに再び思考の海に流されつつお茶に口をつけたところだった。


「おい、大変だぞ」

近所のおじさんが慌てた様子でやってきた。

「昨晩の襲撃で王女様が魔族に攫われたらしい。それをディオが一人で助けに行くんだとよ!」

思わず口の中のお茶を噴き出してしまった。
濃い情報が二つも一度に来て、受ける衝撃が大きすぎた。

「何だって一大事じゃないか!王女が攫われたって、どうして魔族はそんなことをしたんだ?」

父の疑問はもっともだ。確かにそれは謎だ。

「ディオ君が助けに行くの?時期国王が一人で?ちょっと危険じゃないかしら・・・」

母の疑問もそうだ。普通に考えたらいろいろと危険だ。
ちょっと情報が良くわからないな。気になり過ぎてもどかしいから詳しく聞きたい気もする。

しかしこんな話が市井に出回るなんて、きっと城では箝口令をしいたのだろうが、混乱が大きすぎてすり抜けてしまったんだろうな。尾ひれがついて明日にはもっと凄い話になっているかもしれない。


「レイツォ、あんたどうせ暇なんだからディオ君を手伝ってやりなさいよ」

「えっ」


唐突に母が言った。
俺にご近所づきあいのノリで危険なことを手伝えと言うのか。


「おぉ、そうだ。今ここでいいところを見せておけば、国王になったディオ君にきっと好待遇で召し抱えて貰えるぞ」


確かにそれはあるが、召し抱えられるのが複雑な気分になるんだって。


「おぉ、レイツォ君なら実力も申し分ないし、ここで恩を売っておくのもいいんじゃないか?」


近所のおじさんまで。
しかし、恩を売っておく・・・か。

首尾よく王女を救出できたとして、その後ディオが無事に結婚し国王になり幸せになったとする。
その彼の人生の形成には、俺という存在の支えがあったという事実をつくっておくのは悪くないかもしれない。どうせ俺が手を貸さなくてもディオなら遅かれ早かれ事を成してしまうような気がするし、結果が一緒ならせめて恩を売ってやるのもいいだろう。

・・・というか、俺は一応武闘会の準優勝者なのだから、もしかしたら勅命で強制的に従事させられる可能性も無くはない。
そうなってからよりは自発的に協力したほうが周囲の印象も良いだろう。


「ほら!いいから早く行くんだよ!」

「あぁもう!今やろうとしてたのに!」


やろうと決めた瞬間にかぶせて怒鳴る母に怒りつつも、俺はディオに協力することを決めた。
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