新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

文字の大きさ
26 / 92

ルーチェ昔話 その9 ~ウラエヌス目線~

しおりを挟む
ワシは失望のうちにルーチェに帰ろうと決めた。
ポーションはリーン国の開発で、まだ他国にはそこまでは出回ってはいないはずだが、そっちに移り住んだところで時間の問題でまたワシは用済みになるのはわかりきっていた。

ワシは・・・否、回復術師はもう必要のない時代になったのだ。昔はパーティーに一人必要な存在と重宝されていたが、時代の流れは残酷だ。しかし時代の流れなら仕方あるまい。
ワシはそう自分に言い聞かせ、ルーチェに帰国する準備をしていた。

しかし、そこでワシは思いがけないものを見た。



「おや、ウラエヌスさんではないですか!」


街でワシの姿を見つけて話しかけてきたのは、かつて低級回復術師としてルーチェで活躍していたロビンという男だった。ナオール草がルーチェで普及してから他に漏れず失職し、リーン国に流れたまでは知っていたが、それ以来何をしているかは知らなかった。



「あれから回復術師だけでやっていくことはできないと悟り、回復術だけでなく剣の練習もすることにしまして、お陰で今はパラディンとして活躍することが出来るようになったんです」

「な、なんじゃと!?」


ロビンは元々体格は悪くなくて、確かに剣術を覚えることが出来てもおかしくはなかった。
だが、まさか回復術と剣術の両方を併せ持つ高位職のパラディンになっていたとは思わなかった。

「回復術師の需要が無くなって一時期は腐ろうとしてましたけど、回復術の他にも取柄を見つければどうかなって思いまして剣術を始めた次第です。その甲斐あって、今ではどのパーティーからも引っ張りだこですよ」

簡単そう言うが、素質が無ければできないだろうし、かなりの苦労もしただろう。

「そ、そうか・・・回復術師の中でも君のように道を見つけられた者がいたのか・・・」


ついさっき、自分は道を見失ったというのに。


「確かに冒険者そのものから足を洗った人もいるし、全然関係ない仕事を見つけた人もいますけど、それでも僕のように転身して回復術師だったことを生かして活躍している人は結構いるんですよ」

「・・・なに?」

「今リーン国で出回ってるポーションってありますよね。あれはナオール草で失職した元回復術師が開発に関わってるんです。その人が元々回復術師になったのも一人でも怪我人を救いたいって思いからで、回復術師を辞めてからもポーションの開発者として励んでいたのが、ついに実を結んだみたいですね」


がーーーんと頭を殴られたかのような衝撃がワシの頭を襲った。

かつてワシが見下していたような低級回復術師は、ワシが思っていたような転落などしていなかった。
時代のせいにして腐ることなく、自分に出来ることを考え、新たに道を作っていたのだ。
というか間接的にそれがワシの転落の原因になったのか・・・いやそれはいいとして・・・


ワシは自分の高レベルの法術に胡坐をかき、いつの間にかワシが見下していた者達よりも下に転落していた。
立場も、心も。
時代にせいにして、周りのせいにして、自分で道を切り開こうとしなかった。時代に迎合しようとしなかった。

ワシはただ自分が正しいと思い、導くふりをして周囲を不快にさせていただけの老害になってしまっていたことに気付いてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...