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借金取り ~バリー目線~
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「いやあ、素敵なところにお住まいですね。久しぶりに私も血がたぎりましたよ。道中貴方の墓があったから亡くなったかと思いましたが、いや健在のようで何よりです」
借金を取り立てにきた元勇者は腰元に携えた剣に手を添えてそう言った。ここに来るまでに魔物をいくつも退治してきたのだろう。
生半可な腕では倒せないはずの魔物が住んでいるはずだが、やはり元勇者だけあってその程度では足止めはできないらしい。
「それではお貸ししたお金のほう、利息含めてきっちりいただきますね」
元勇者はにっこりと笑いながらそう言った。
笑ってはいるが、何が何でも取り立てるという意志を感じる圧があった。
「ない。利息を払う金もない」
私とて海千山千の元勇者だ。その圧を受けてもなぉ、平然と構えた(開き直り)。
「はぁ、まぁ、いいですけどね。そうなると、それ相応に値打ちのあるものを差し押さえなきゃいけなくなりますね」
向こうも私のような手合いは慣れているようだった。小さな私の家をあれこれ漁り出す。
どうせろくなものはない。好きにせよと傍観していたのだが、やがて彼はあるものを手に持ってきた。
「それは・・・」
彼が持ってきたもの、それはかつて私が魔王を討伐するときにも使った名剣『ブライアント』だった。
「バリーさん。金がないなら、これを借金の肩としてもらっていきますがいいですか?」
「いや、それは・・・」
流石にそればかりは!と、私は思ったが、しかし、よく考えたら私が持っていてもブライアントは宝の持ち腐れであることに気付いた。この山にいる猛獣を相手するのに使ってはいるが、他の剣でも代用できる程度の相手だ。
もう、冒険者として戻ることのない私には無用と長物と言えるものだった。
「いいだろう。それを持っていくといい」
私は過去の栄光と、未練を断つためにそう言った。
しかし私がそう言うと、借金取りであるはずの元勇者は唖然として私を見た。
なんだ?何かあるのか。
「・・・良いのですか?これはあなたの得物でしょう」
「もう私には過ぎたものだ。必要ないさ」
手放すと決めたせいか、私は自分でも拍子抜けするほどブライアントに執着しなかった。
むしろこんな不甲斐ない自分が持つことの罪悪感のほうが未練を上回るくらいだ。
「確かに・・・もう死人同然の貴方には必要ないかもしれませんね」
「そうだ」
「・・・本当に、貴方という人は・・・!」
何を言われても腹も立たない。
あくまで平然としている私を見て、元勇者は何故か腹立たし気にしていた。
「貴方は・・・私の憧れだったのに」
その呟きも、私は聞かなかったことにした。
彼はブライアントを手に取ると、玄関まで歩きだし
「これにて完済としましょう」
そう言って扉を閉めた。
これで本当に私には何も残らない身となった。
勇者バリーは本当にこの世から死んだのだ。
借金を取り立てにきた元勇者は腰元に携えた剣に手を添えてそう言った。ここに来るまでに魔物をいくつも退治してきたのだろう。
生半可な腕では倒せないはずの魔物が住んでいるはずだが、やはり元勇者だけあってその程度では足止めはできないらしい。
「それではお貸ししたお金のほう、利息含めてきっちりいただきますね」
元勇者はにっこりと笑いながらそう言った。
笑ってはいるが、何が何でも取り立てるという意志を感じる圧があった。
「ない。利息を払う金もない」
私とて海千山千の元勇者だ。その圧を受けてもなぉ、平然と構えた(開き直り)。
「はぁ、まぁ、いいですけどね。そうなると、それ相応に値打ちのあるものを差し押さえなきゃいけなくなりますね」
向こうも私のような手合いは慣れているようだった。小さな私の家をあれこれ漁り出す。
どうせろくなものはない。好きにせよと傍観していたのだが、やがて彼はあるものを手に持ってきた。
「それは・・・」
彼が持ってきたもの、それはかつて私が魔王を討伐するときにも使った名剣『ブライアント』だった。
「バリーさん。金がないなら、これを借金の肩としてもらっていきますがいいですか?」
「いや、それは・・・」
流石にそればかりは!と、私は思ったが、しかし、よく考えたら私が持っていてもブライアントは宝の持ち腐れであることに気付いた。この山にいる猛獣を相手するのに使ってはいるが、他の剣でも代用できる程度の相手だ。
もう、冒険者として戻ることのない私には無用と長物と言えるものだった。
「いいだろう。それを持っていくといい」
私は過去の栄光と、未練を断つためにそう言った。
しかし私がそう言うと、借金取りであるはずの元勇者は唖然として私を見た。
なんだ?何かあるのか。
「・・・良いのですか?これはあなたの得物でしょう」
「もう私には過ぎたものだ。必要ないさ」
手放すと決めたせいか、私は自分でも拍子抜けするほどブライアントに執着しなかった。
むしろこんな不甲斐ない自分が持つことの罪悪感のほうが未練を上回るくらいだ。
「確かに・・・もう死人同然の貴方には必要ないかもしれませんね」
「そうだ」
「・・・本当に、貴方という人は・・・!」
何を言われても腹も立たない。
あくまで平然としている私を見て、元勇者は何故か腹立たし気にしていた。
「貴方は・・・私の憧れだったのに」
その呟きも、私は聞かなかったことにした。
彼はブライアントを手に取ると、玄関まで歩きだし
「これにて完済としましょう」
そう言って扉を閉めた。
これで本当に私には何も残らない身となった。
勇者バリーは本当にこの世から死んだのだ。
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