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49 きっといいヒト

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「あなたたちの事、すー、知らない。」

 スコルピーはそう言って、テーブルに腰を下ろした。
「……え、な、何言ってんの?」
「あなたたちはすーの事を知っているみたいだから、知らない人じゃないと思うんだけど、すーは2人の事は分かりません。……多分、忘れた。」
「……何だよそれ。」
叶矢は立ち上がり、自分の部屋に入った。
「あ、お、お兄ちゃん……。」
「2人はきょうだい?」
「あ、は、はい。そうです。……えっと、お名前はスコルピーさんで合ってますよね?」
「うん。エヴァーラスティンに、住んでたんだけどね、色々あってウロウロしてたんだ。そしたら、地球に落ちて、えっと……気が付いたら、ここ?」
「……すーちゃんは、約1ヶ月半、ここで、私と、お兄ちゃんと、暮らしています。」
「そうなんだ……。」
「私は、瀬戸口泉歌です。……せんかちゃんって呼んでください。お兄ちゃんは、叶矢です。」
「せんかちゃん。すーは、ここで暮らすの?」
「はい。昨日までも、そうなので。」
「そっか。ごはんは?」
「私が作ります。……本当に、何も覚えていないんですか?」
「うん。ごめん……。」
「……謝らないでください。これから、また、思い出を、積み、重ねれば、良いと、思います……。」
我慢していた涙が、ぽろぽろと溢れてしまう。
「あ、な、泣かないで。ごめんね、忘れてごめんなさい……。」
「謝らないでください……お願いだから、謝らないで……。」
スコルピーは泉歌に近付き、そばにあった手のひらを撫でた。
「っ……。」
「ごめんね。思い出す努力をする。せんかちゃんが良い人だっていうの、すごくよく分かったから。」
「……はい、お願いします……。」
心のどこかで、自分が君の事が好きだという事を忘れてくれたなら、それでも良いかもしれないと思ってしまった。忘れて欲しくない事は山ほどあるけれど、それはまた教えれば良い。私たちは家族として、仲良くなれば良い。そう思った。でも……そういうわけにはいかない。お兄ちゃんにとっては。

 龍斗が自分の部屋に入ると、充電していた携帯には大量に通知が溜まっていた。
『失恋した』
叶矢からのメッセージだ。この言葉と共に送られていたのは、この間の遊園地で撮った、たくさんの写真。
『どういうことだ?』
すぐに既読の文字がく。
『忘れられた 全部 今日の事も 俺らの事も全部』
『記憶障害って事か?』
『そうだろうね』
龍斗は叶矢に電話をかけたが、出ない。
『おい。電話に出ろ。』
『嫌だよ』
『叶矢はどうしたいんだ。』
『何もしたくない』


To be continued…
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