13 / 24
アニドル13『杉菜遥娘』
しおりを挟む
ここで、少し杉菜についての話。杉菜は、☆ごぉです☆が始まって人気が沸騰した、若手実力派声優。二十三歳。麗亜のような清純な少女を演じたかと思えば、ものすごい悪女を演じたり、お色気たっぷりでキケンお姉さんを演じたり、おバカを演じたり、老婆を演じたり、とにかく多種多様な役を難なくこなしてしまうところが、人気の秘訣なのだろう。四年前、高校の同級生と付き合っていたが、二年前破局。その後、ちょこちょこ他の男性声優と撮られたことがあったが、どれもデマ。この間翔役の吉崎泰智と一緒に店に入っていくところを撮られたが、店の中に☆ごぉです☆のスタッフもいたため、ただの打ち上げであることが判明。これまで出たスキャンダルはそのくらいか。
そうこうしているうちに、杉菜オススメの店に着いた。
「ここですよ!」
振り返って嬉しそうに言う杉菜。
「おぉ。」
オシャレなパスタ屋さんを前に、蓼丸は緊張した。
「さぁさぁ!入りましょ!」
杉菜は、蓼丸の手を引くと、店の中に入った。店に入ると、執事風なおじ様が出てきた。
「いらっしゃいませ。何名様でございましょうか?」
「二人です。」
「こちらへどうぞ。」
蓼丸は、手を引かれるがままに歩いた。麗亜では感じたことのない温もりが、手首からじわじわと伝わってくる。これが三次元だなぁ、と感じた。
「あ、ごめんなさいっ!」
杉菜がさっと手を離した。
「あ、あぁ、こちらこそ、全部任せてしまって。」
「いいえ、いいんです。元々蓼丸さんは私に傘を貸してくれようとしただけだったのに、私が引き留めちゃったんだから。」
今度はすまなそうに微笑む杉菜。どんな心情でも微笑むんだなぁ……と蓼丸は思った。そして、その笑顔を素直に「かわいい」と思った。「素敵な女性だ。」と思った。二人は席に座り、メニューを開いた。
「美味しそうなのばっかり……どれにしよう……。」
真剣に悩む杉菜の顔を見ながら、蓼丸は言った。
「今日、俺おごりますよ。」
「えっ?いいんですか?初対面ですよ?私の方がが年上ですよ?」
「いいですよ。杉菜さんにはいつもお世話になってますし。」
「いや……私は何も……。」
「さぁ、好きなの頼んじゃってください!」
「じゃあ……お言葉に甘えて……。」
杉菜は、蓼丸にとても好印象を抱いた。それは、おごってくれるからとか、そう言うことではなく、このなんとも言えぬ包み込まれる感じ。三つも年下の男の子なのに、まるで大きな生物の大きな温かい手に体ごと包まれたみたいな気持ちになった。いつも頼りにされてきた杉菜からしてみれば、初めての感情だ。蓼丸も、同じように初めてな感情にさらされていた。この男、最後の恋は小学三年生という、恋愛関係に無縁な人生を送ってきたのだ。可愛くも美しく、優しい物腰でかつ謙虚で、でも明るくて、いつも微笑んでいる、お姉さんのようでもあり、妹のようでもある杉菜に、不思議な感情を抱かぬはずがない。
「あの、どうして俺を誘ってくれたんですか?」
蓼丸が、率直に尋ねた。
「一度お話ししてみたかったんです。私がこうやって毎日忙しく働けているのは☆ごぉです☆のおかげ、麗亜ちゃんのおかげ。そんな麗亜ちゃんをこんなにも愛してくれるなんて、子どもに彼氏ができたとか、そんな感じの喜びなんですかね、すごく嬉しくて、麗亜ちゃんやったねって思って、是非、蓼丸さんにお礼が言いたいなと……麗亜ちゃんを愛してくれてありがとうございます。」
きっちりお辞儀をする杉菜。
「そんなそんな!」
れいれいファン歴五年五ヶ月。浮気はプライドが許さない。でも……目の前の女性を見つめていると、肺と肺の間のあたりがソワソワしてきて、心臓がトックントックンと鳴り出す。
「蓼丸さん?」
「あ、はい!すみません。ボケっとしてました。」
そこは何かキザなセリフが言えなかったものかと蓼丸は後悔した。「あなたの瞳に見惚れていました。」とか……あとは思いつかないけれど、ボケっとしてましたは無いだろう、と心底悔やんだ。何故か。
「パスタ、楽しみですね!ここのパスタ、とっても美味しいんですよ!まぁ、一度しか来たこと無いんですけどね。今度もう一度来たいなぁ、と思ってたんですよね。」
杉菜は、てへへ、と頬をかいた。
「サラダです。」
サラダが来た。蓼丸と杉菜は同時に相手と自分にサラダを取り分けようとして、手がぶつかった。
「あっ、ごめんなさい。」
「こちらこそ。」
「蓼丸さん、気が効くんですね。」
「す、杉菜さんこそ!」
蓼丸は自分を見損なった。「女性にリードしてもらってどうする!?褒められて言い返すとか、かっこ悪すぎるだろ!俺ー!ちゃんとしろ!俺!」……。
「あ、蓼丸さん。」
「は、はい?」
アニドル14『パスタとお酒で』へ続く!
そうこうしているうちに、杉菜オススメの店に着いた。
「ここですよ!」
振り返って嬉しそうに言う杉菜。
「おぉ。」
オシャレなパスタ屋さんを前に、蓼丸は緊張した。
「さぁさぁ!入りましょ!」
杉菜は、蓼丸の手を引くと、店の中に入った。店に入ると、執事風なおじ様が出てきた。
「いらっしゃいませ。何名様でございましょうか?」
「二人です。」
「こちらへどうぞ。」
蓼丸は、手を引かれるがままに歩いた。麗亜では感じたことのない温もりが、手首からじわじわと伝わってくる。これが三次元だなぁ、と感じた。
「あ、ごめんなさいっ!」
杉菜がさっと手を離した。
「あ、あぁ、こちらこそ、全部任せてしまって。」
「いいえ、いいんです。元々蓼丸さんは私に傘を貸してくれようとしただけだったのに、私が引き留めちゃったんだから。」
今度はすまなそうに微笑む杉菜。どんな心情でも微笑むんだなぁ……と蓼丸は思った。そして、その笑顔を素直に「かわいい」と思った。「素敵な女性だ。」と思った。二人は席に座り、メニューを開いた。
「美味しそうなのばっかり……どれにしよう……。」
真剣に悩む杉菜の顔を見ながら、蓼丸は言った。
「今日、俺おごりますよ。」
「えっ?いいんですか?初対面ですよ?私の方がが年上ですよ?」
「いいですよ。杉菜さんにはいつもお世話になってますし。」
「いや……私は何も……。」
「さぁ、好きなの頼んじゃってください!」
「じゃあ……お言葉に甘えて……。」
杉菜は、蓼丸にとても好印象を抱いた。それは、おごってくれるからとか、そう言うことではなく、このなんとも言えぬ包み込まれる感じ。三つも年下の男の子なのに、まるで大きな生物の大きな温かい手に体ごと包まれたみたいな気持ちになった。いつも頼りにされてきた杉菜からしてみれば、初めての感情だ。蓼丸も、同じように初めてな感情にさらされていた。この男、最後の恋は小学三年生という、恋愛関係に無縁な人生を送ってきたのだ。可愛くも美しく、優しい物腰でかつ謙虚で、でも明るくて、いつも微笑んでいる、お姉さんのようでもあり、妹のようでもある杉菜に、不思議な感情を抱かぬはずがない。
「あの、どうして俺を誘ってくれたんですか?」
蓼丸が、率直に尋ねた。
「一度お話ししてみたかったんです。私がこうやって毎日忙しく働けているのは☆ごぉです☆のおかげ、麗亜ちゃんのおかげ。そんな麗亜ちゃんをこんなにも愛してくれるなんて、子どもに彼氏ができたとか、そんな感じの喜びなんですかね、すごく嬉しくて、麗亜ちゃんやったねって思って、是非、蓼丸さんにお礼が言いたいなと……麗亜ちゃんを愛してくれてありがとうございます。」
きっちりお辞儀をする杉菜。
「そんなそんな!」
れいれいファン歴五年五ヶ月。浮気はプライドが許さない。でも……目の前の女性を見つめていると、肺と肺の間のあたりがソワソワしてきて、心臓がトックントックンと鳴り出す。
「蓼丸さん?」
「あ、はい!すみません。ボケっとしてました。」
そこは何かキザなセリフが言えなかったものかと蓼丸は後悔した。「あなたの瞳に見惚れていました。」とか……あとは思いつかないけれど、ボケっとしてましたは無いだろう、と心底悔やんだ。何故か。
「パスタ、楽しみですね!ここのパスタ、とっても美味しいんですよ!まぁ、一度しか来たこと無いんですけどね。今度もう一度来たいなぁ、と思ってたんですよね。」
杉菜は、てへへ、と頬をかいた。
「サラダです。」
サラダが来た。蓼丸と杉菜は同時に相手と自分にサラダを取り分けようとして、手がぶつかった。
「あっ、ごめんなさい。」
「こちらこそ。」
「蓼丸さん、気が効くんですね。」
「す、杉菜さんこそ!」
蓼丸は自分を見損なった。「女性にリードしてもらってどうする!?褒められて言い返すとか、かっこ悪すぎるだろ!俺ー!ちゃんとしろ!俺!」……。
「あ、蓼丸さん。」
「は、はい?」
アニドル14『パスタとお酒で』へ続く!
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる