戦隊ヒロイン16

うかかなむらる

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第66話『浜辺 4』

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 車で移動中です。アプリコットの運転は、丁寧で優しい。
「お客様。車内、寒くないですか?」
「大丈夫ですよ。」
「そうですか。……なっちゃん、会いたかったよ。」
「っ!と、突然何よ!」
「思ってたから、ずっと。この間、谷口さんって患者さんが来てさ、なっちゃんを思い出しちゃった。」
「私なんて、隣のクラスに加藤さんっているから毎日大変よ?」
「あはは!そりゃ大変だ。」
「ね?でしょ?」
この感じ、懐かしい。落ち着く。
「秋軍の体育祭も、行きたかったなぁ。」
「良い体育祭だったのよ。明乃ちゃん、すごく喜んでくれた。」
「なっちゃんにとって、明乃ちゃんは特別っすもんね。」
「うん。初対面で口喧嘩したのは、明乃ちゃんが初めて。どこか、似てるんだと思うの、私たち。」
「素直じゃない所とかね。」
「それはアプリコットもでしょ?」
「そっすか?」
こんな会話をしながら、車に乗ること1時間。
「……ねぇ、どこに向かってるの?」
「山奥に入ってきて、ちょっと不安になってるっしょ。大丈夫っすよ。もうすぐ着くから。ほら、見て。」
突然目の前が拓けて、海が広がっていた。
「うわぁっ!」
「なっちゃん、来たがってたよね?ここで合ってる?」
車が止まり、私たちは車を降りた。
「うん……合ってる……すごい、よく覚えてたね。」
「そりゃ、なっちゃんが言ったことはなんでも覚えてるよ。」
私は、アプリコットの腕に寄り添った。そう、私はこの海に来たかった。ママとパパの思い出の地。何がどう思い出なのかは知らないけど、大切な場所なんだよってすごく昔に言っていた。
「綺麗な海だね。降りてみようか。」
「うん。」
砂浜に立つと、サンダルの中に柔らかい砂が入ってきた。
「サンダルで良かったぁ。」
「そうだね。よし。それじゃあ、なっちゃん。お昼ご飯食べようか?」
アプリコットが、お昼ご飯とレジャーシートを用意してくれていた。ご飯を食べて、海の周辺をお散歩しながら、色々な話をした。ちょっとだけ、足の先っぽだけ、海にも入った。した事はたったこれだけだけど、私はすごく満たされていた。
「陽がだいぶ傾いてきたねぇ。」
アプリコットが呟いた。
「ほんとだ。」
「そろそろ、帰ろっか。」
私の少し前を歩いていたアプリコットのその言葉に、私はなぜか焦りを覚えた。もう帰るの?もうデートは終わり?次に会うのはいつ?どうしよう。また離れちゃう。私は、いつの間にかアプリコットに後ろから抱きついていた。
「なっちゃん?」
「……まだ帰りたくない。」
「でも、もう日が暮れるよ。俺、妖精界に帰らなきゃ。明日も仕事だし。」
「……素っ気ないのね……。」
アプリコットは私の腕を掴み、前から抱きしめた。アプリコットの鼓動が聴こえる。
「なっちゃん。俺、ずっと聞きたかったことがあるんだ。あの日、なっちゃんが言った『好き』は……俺が言ったのと同じ『好き』?」
「……同じだよ、きっと。」
「本当?」
アプリコットが、私を身体から離し、片手で私の両目を覆った。そして……何かが触れた、唇に。……柔らかくて、温かくて、少し震えてる。思考が追いつかない。えっ、こ、これって……。アプリコットは、私から唇と手を離した。身体の力が抜けそうになる。アプリコットが、私を支えた。
「俺だって……寂しいよ?」
切なげな瞳が、夕焼けに照らされた。やっとの事で状況を理解した私は、途端に恥ずかしくなった。両手で顔を覆う。
「ごめんね、びっくりさせて。」
アプリコットは私の頭をポンポンした。
「帰ろっか。」
「……うん。」

 午後5時55分。机に座って、宿題を取り出す。電気スタンドの灯りをつける。で、シャーペンを持つ。ひとりぼっちの、静かな空間。こんな時は、どうしても思い出してしまう。あの時の感触。私の唇に触れたのは、アプリコットの唇だったんだと思う。

私のファーストキスは、妖精に奪われた。


*今回の主要人物*
・谷口夏湖
・加藤アプリコット

※作品の雰囲気を守るために、「」前の頭文字を割愛いたしました。

☆次回☆
『恩返しのタイミング』
ついにあの2人にスポットを当てます。



『浜辺』完

To be continued…
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