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第2話 いざ、帝都へ
④ 真夜中の訪問者
しおりを挟む夜。
「――ふぅ」
椅子に深く座り、私は一息入れる。
宰相との“密談”もとい明日の陛下面会に向けた“相談”を終え、私は寝室に居た。
流石に王城の客室だけだって、調度品は豪華でベッドも大きい。
一人で寝るには広すぎる位だ。
「……やはりセシリアと一緒に寝るべきだったか」
少し後悔する。
彼女は今頃、宛がわれた部屋で睡眠をとっていることだろう。
言っては何だが、使用人専用の寝室まで用意されているとは思わなかった。
しかも相当立派な部屋だ。
セシリアも『はい? 私の部屋でございますか? 坊ちゃまの部屋でなく?』と目を丸くして驚いていた。
それもそのはず、クライブ先生が自分の名を使って手配していたそうな。
宰相直々の命令とあっては、下手な部屋を用意するわけにはいかなかったのだろう。
……あの人、本当にセシリアを狙ってないだろうな?
「余りそういう素振りは見せていないが――しかしセシリアの美貌に靡かない男などいる訳ないし」
腕を組んで悩む。
彼が敵に回った場合、私は如何にして立ち向かえばいいのか。
悶々とした気分になってしまう。
「……今からでも呼ぼうかなぁ」
セシリアもその気はあったようなのだが。
初の長距離移動で、本人も無自覚の内に相当疲れが溜まっているようだったため、厚意に甘えて今日はしっかり休むよう命じたのだ。
そのおかげで今かなり手持無沙汰になっている。
「寝ようか」
元現代人の私からすればまだ早い時間なのだが、そうした方がいいだろう。
まさか暇つぶしに王城内を徘徊するわけにもいかない。
「……ん?」
そう決めたところで、トントンッとドアがノックされた。
ドア越しに返事する。
「――誰だ?」
「夜分恐れ入ります、エイル卿」
帰ってきたのは高い声。
女性のようだ。
「何の用だろうか?」
「……その、エイル卿のお相手をしに参りました。
宰相閣下より依頼がありまして」
「おぅ」
なんてことだ。
お相手というのはつまりアレでありソレな感じにコレだろう。
クライブ先生、教え子になんてものをよこすんだ。
まったく余計なことをすぐに部屋へ招かなければ。
一つ、勘違いしないで貰いたい。
単なる下心からこのような真似をするわけではないのだ。
私の“相手”をするように命じられておきながら、部屋にすら入れて貰えなかったとなれば、彼女の名誉に傷をつけることになる。
故に、ここは何はともあれ部屋へ招き入れるのが正解なのである。
だがこんな夜更けに男女が2人きりで一つの部屋に篭るとなると――“間違い”が起きたとしても、それは仕方ないことだろう、うん。
……え? もし自分のストライクゾーンから大きく外れた女性だったらどうするかって?
その時は丁重にお帰り頂くとも!
「待っていてくれ、すぐ開ける」
「承知しました」
よく聞けば、なかなかに可憐な声。
これは正直なところ、かなり期待していいのではなかろうか。
逸る気持ちを抑えつつ、私は鍵を開けドアノブを回す。
目の前に現れたのは――
「おお……!」
思わず、感嘆の声が漏れてしまう。
「……は、初めまして。
よろしく、お願いします」
現われたのは、顔を赤らめ伏し目がちにした美少女だった。
年の頃は私と同じくらいだろうか?
精巧なガラス細工のように美しい青い瞳。
筋の通った鼻に花弁のような唇。
髪は鮮やかな金色で、まるで絹糸のようにサラサラと流れている。
程良く整った胸に、くびれた腰つき。
それらを見るからに高価で、しかしくど過ぎないデザインのロングドレスが包んでいる。
気品のある佇まいは、この女性が本当に“そういう目的”でここへ来たのか疑わしくなる程だ。
どこぞの名家のお嬢様、と言われた方が余程しっくりくる。
私は唾を飲み込んでから、
「とりあえず、中へ」
「わ、分かりました」
少しおどおどしている――これから何が起こるかを考えれば、当然の態度だ――女性を中へ通した。
彼女の手を引き部屋の中央まで連れてくると、
「あの、エイル卿?
やはりその――すぐ、始めますか?」
「そうだな……」
向こうは覚悟ができているようだ。
私はじっくりとその美少女の姿を値踏みしてから――
「――この阿呆がっ!!」
「あいたっ!?」
思いっきり頭を引っ叩いた。
「いきなり何するんだ!!」
「それはこっちの台詞だ!!」
抗議する女性を、さらなる大声で黙らせる。
ちなみに彼女の“胸”は、叩いた衝撃で下に落ちていた。
「こんな夜中に何のつもりだ、ルカ!!」
「あ、やっぱバレてた?」
「当たり前だろう!」
というか、隠す気無かっただろう。
多少メイクしてはいるものの、顔はそのままなんだから。
そんなわけで、部屋を訪ねてきた女性の正体は女装したルカでした、というオチ。
下に落ちたのは、胸パッドである。
「なぁルカよ。
君、とうとう頭がおかしくなったのか?
そんな格好で出歩くとは」
「いやだってさ、僕、三公爵家アシュフィールドの公子なわけだし?
そんな超有名人な僕がこんな夜更けに出歩いてたことが知られたら、色々噂がたっちゃうだろ」
「かのアシュフィールド家公子のルカ・アシュフィールドが、女装して夜中城内を歩いてる方が、余程スキャンダルだろうが!」
下手すれば勘当されかねない。
厳粛なアシュフィールド家が、息子のそんなおふざけを許すとはとても思えん。
「えー、でも似合ってると思わないか?
ほらほら、このドレスも特注品なんだぜ」
そう言って、スカートの裾を摘まんでくるっと一回転するルカ。
ふわっと浮き上がったスカートの下から覗く、スラリとした生足。
……素直に認めたくはないが、様になっている。
というか、はっきり言って色っぽい。
元々女性にしか見えない男が女装したのだから、そりゃ違和感なんて発生するわけが無いのである。
「……似合ってればいいというものでもないだろう」
「似合ってるんだからそれでいいじゃん。
僕はこれで世の男共の視線を掻っ攫える自信がある!」
その自信は――うん、正しい。
正体を知っている私ですら、ルカの姿に目が惹きつけられてしまうのだから。
自分の美しさに自覚のある美少年って、性質悪いなぁ。
なんだか頭が痛くなってきたが、ルカはというと呆れた顔をして、
「だいたいさぁ、お前、人の格好にアレコレ言える身分じゃないだろう?」
「私の格好に文句でもあるのか」
「文句っていうか――」
ルカが、こちらをジロジロと見てくる。
特に脚を凝視しているようだが――何なんだこいつは。
「――幾ら自分の部屋だからって、ワイシャツにショーツだけ、とかどうかと思う」
「別に構わないだろう、それで誰に迷惑をかけるでもなし」
彼の言う通り、今の私はシャツを羽織り下着を一枚履いているだけ。
自室に独りでいるときは、余り衣服を着ていたくないのだ。
服からの解放感が好きなのである。
日本に住んでいた時は、それこそ休日はずっとパンツ一丁で過ごしていたのだ。
それに比べればこの格好は大分マシのはず。
「確かに迷惑はかけてない――てか、普通に嬉しいんだけど。
……相変わらずすっごい脚線美してるし。
でもちょっと目のやり場に困るんだよなぁ」
「何を今更。
寮に住んでた時もずっとこうだったろう?」
「……うん。
お前、いつも下着姿でうろついてた。
おかげで僕がどれだけ苦労したか……」
大きくため息をつかれた。
しかしそれについては私にも言い分はある。
こいつが、寮の部屋でどれだけ煽情的な格好をしていたことか。
ソレを目当てに男子学生がわらわらと集まってきたので、毎回追い払うのが大変だったのだ。
「……そいつら、半分くらいはお前目当てだったんだけどね」
「ん? 何か言ったか?」
「いやぁ、何も?」
ブツクサ言うルカを、睨んで黙らせる。
「それで。
結局何しに来たんだ、君?」
「何しに来たは酷いなぁ。
旧交を温めにきたんじゃないか。
“積もる話はまた後で”って、君が言った台詞だぞ」
「態々初日に来なくても」
「明日は陛下への挨拶があるからそうそう時間とれないだろ。
明後日にはもう帰るって話だし。
だったら、今日しかないじゃないか」
「……それもそうか」
言われてみればかなりタイトなスケジュールだった。
もう少し余裕をもって計画を立てるべきだったか。
しかし私が居ないとシュタットの街の業務が滞ってしまうため、なかなか難しいところではある。
「なら仕方ない。
積もった話を崩していくことにしよう」
「そうこなくっちゃ!
じゃ、立ち話もなんだし座ろうぜ」
「ここは私の部屋だ――と突っ込まれたいのか?」
そんな言葉など意に介さず、ルカはてくてく部屋を歩いて行く。
そして――椅子ではなく敢えてベッドの上にぽすんっと可愛らしく腰を下ろした。
「…………」
またこいつ、あざとい行動をとりおってからに。
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