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第二話 ある社畜冒険者の一日 仕事編

② 駆け出し冒険者達との遭遇

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 目的のパーティーは、存外に早く見つかった。
 どうやら彼らもこの階層を休憩用に使っているようで、松明で明かりを取り、簡単な野営の準備をしていた。
 シートの上で休んでいるのは3人で、その内の一人は間違いなくエレナさんだ。
 他の2人は、中肉中背位の青年――装備を見るにおそらくは<盗賊シーフ>――と、かなり大柄な青年――装備を見るに<戦士ファイター>…いや<聖騎士パラディン>か?――だった。
 このどちらかがジャンさんなのだろう。

「………何者だ!?」

 私が近づく足音に気付いたのか(相手に不信感を与えかねないので<静寂>は解いてある)、<盗賊>の青年が素早く立ち上がり、こちらへ武器を構えてきた。
 すぐに私は両手を上げて、敵意が無いことをアピールする。

「すいません、ご同業の者です。
 先程悲鳴が聞こえてきましたので、何かあったのか、と」

「……ああ、そうだったのか。
 そりゃ、悪かったな」

 私が武器を持っていないことを確認すると、彼は武器を下げた。
 ちなみに、武器を使わずに攻撃できるスキルは結構多いため、彼の対応は余り賢明では無い。
 今の私にとっては大助かりだが。

「いえいえ、いきなり近寄ってきた相手を警戒するのは当然ですよ。
 お気になさらず」

「助かる。
 で、その悲鳴のことなんだけど、仲間が一人滑り落ちちゃってな」

 そう言われるのは想定していた。

「ほ、本当ですか!?
 そのお仲間はどちらに!?
 ―――まさか」

 黒田誠一、一世一代の大芝居である。
 出来る限り自然な驚きを表現してみたのだが、どんなものだろうか。

「はは、大丈夫大丈夫、もう解決済みさ。
 落ちたけど運よく途中で止まってくれてね。
 今引っ張り上げたとこ」

「おおっと、そうでしたか。
 いえ、取り乱してしまい申し訳ない」

「いいって。心配してくれてありがとうな」

 チラッと彼の後ろを見てみる。
 大柄の青年は、我関せずという感じでこちらへ反応を見せていない。
 ただぼーっと中空を眺めている。
 エレナさんの方は……こちらを見てニヤニヤと笑っていた。
 ――ああ、ばれているな、これは。

「この階層は魔物がいない分、地形がどうにも危険ですからね。
 よろしければ、もっと安全に休憩できる場所をご案内しましょうか?」

「いやぁ、見ず知らずの人にそこまでしてもらうわけには……?」

 私の提案を彼が断ろうとしたところで言葉が止まった。
 はて、どうしたのだろうか?

「……どうされました?」

「…………」

 彼は、じっと私の顔を見てくる。

「…………あの?」

「…………」

 まだ見てくる。
 私の顔に、何かあるのだろうか?
 なんだか不安になりかけて来たところで、

「……ひょっとして、クロダ・セイイチさん?」

 彼は、私の名前を口にした。

「え? あ、はい……そう、ですけれども」

 いきなり名前を呼ばれたことに動揺を隠せず、しどろもどろに返事をする。

「やっぱりクロダさんだったか!」

「……え、クロダ!?」

「………おお!?」

 後ろの2人からも声が上がる。
 大柄の青年に至っては、これが初リアクションだ。

 ど、どういうことなんでしょう…?

「ひょっとして、前にお会いしたことがありましたか?」

 だとしたら失礼なことをしてしまった。
 向こうは顔を覚えてくれているというのに、こちらは忘れていたということになる。

「あ、いいや、違うんだ。
 俺が一方的に知ってるだけというか…」

 一方的に知っている?
 何故に?

 疑問符が頭いっぱいに浮かび上がり戸惑っている私に、彼が声をかける。

「とにかく、立ち話もなんだしこっち座らないか?」

 と、彼らが野営している場所へ誘われる。
 ……ここへ来るまでに、どうやって彼らと取り入られようかと色々思案していたのだが、何だかよく分からない展開でそれは解決したようだ。

「それではお言葉に甘えまして」

 野営場所に一角に座らせてもらう。

「そういや自己紹介がまだだったな。
 俺はジャン・フェルグソン。そっちのでっかいのがコナー・エアトンで、ちっちゃいのがエレナ・グランディだ」

「……どうも」

「よろしくー」

 態々フルネームで紹介をしてくれるジャンさん。
 そこに続けて、コナーさん、エレナさんが挨拶してくれた。

「これはこれはご丁寧に。
 私は黒田誠一です……もうご存知の様ですが」

 形ばかりの返答を返す私。
 そこへ、エレナさんがずいと詰め寄ってくる。

「んー、本当の本当にクロダ・セイイチなの?」

「おい、エレナ、失礼だろ!」

「いえいえ、疑問、尤もだと思います」

 一番の疑問は、ジャンさんが私の正体を当てられたことではあるのだが。
 ともあれ、身分を証明するため、私は腕輪に埋め込んである<冒険証>を見せる。

 ――<冒険証>とは、全ての冒険者に冒険者ギルドから配布される蒼い宝石のことだ。
 その名の通り冒険者としての身分を証明する宝石であり、現代社会での運転免許証を想像してもらえればありがたい。
 ただ、そこはファンタジー世界。
 この<冒険証>、ただ身分証明用の宝石というわけではなく、様々な機能がある。
 全ての紹介はここでは伏せるが、その内の一つは――

「……本当だ。本当にクロダ・セイイチなんだ…」

 <冒険証>から空中へ投影された私のプロフィール画像を見て、エレナさんが呟く。
 その横から、コナーさんもその画像を覗いている。
 彼は彼で気になっていたようだ。

 これが<冒険証>の機能の一つ。
 持ち主である冒険者の名前や年齢から能力値、習得スキルに至るまで、個人情報を纏めた表を空中に映し出すことができるのだ。
 『ステータス画面』が見ることができる、と言えば、現代社会でゲームを愛好する方々には理解しやすいだろうか。
 ――この機能があるため、<冒険証>は身分証明の品としてウィンガストでは抜群の効果があったりする。

 ちなみに、プライバシーを余り明け透けにするのも如何かと思うので、今映し出しているのは私の名前・年齢・性別が示されただけの簡易プロフィールだ。

「それで、どうして私のことを知っていたのでしょうか?」

 改めて、最初の疑問を口にする。

「どうしてっていうか……そもそも、クロダさんは有名人だろ?」

「へ?」

「『掃除屋』クロダって言ったら、白色区域を利用してる冒険者なら知らない奴はいないよ」

「そ、『掃除屋』ですか?」

 知らない人はいないと言われても、当の本人が知らない呼び名なんだけれどそれは。

「そう、『掃除屋』……ひょっとして、知らなかったのか?」

「恥ずかしながら存じ上げませんでした…」

 まあ、掃除屋なんてパッとしない名前を付けられる辺り、私らしいと言えば私らしい、のか?

「確認しますが、本当に有名なんですか、私?」

「有名だよ。……なぁ?」

 前半は私、後半は仲間2人への言葉。

「………まぁ」

「ボクも知ってるよー」

 コナーさんもエレナさんも、首を縦に振る。

 しかし先程からコナーさん、言葉数が少ないこと。
 余り無駄なことを言わないタイプのようだ。

 ともあれ、私が有名なのだというのはどうやら本当のことらしい。

「…そ、そうですか。
 えー、質問を重ねてしまうんですが、何で『掃除屋』なんて呼ばれているのでしょう?」

「え、そりゃ、クロダさんが毎日毎日白色区域の魔物を片付けてくれるからだよ。
 おかげで白色区域じゃ、危険な魔物に遭遇することも、大量の魔物に囲われることも無くなった、て話だぜ」

 ああ、掃除屋ってそういう。
 言われてみれば、私の仕事をそういう風に見ることもできるかもしれない。
 しかし、

「皆さんの飯の種を根こそぎ奪ってしまっているとも言えますが…」

 <次元迷宮>は無限に魔物が湧いてくるとはいっても、一度に出てくる数にはある程度限界がある。
 私が魔物を倒せば倒すほど、他の冒険者は魔物を倒す機会を失くしているのだ。
 正直なところ、私は初心者冒険者の人達には恨まれてるんじゃないかとばかり思っていた。

「そういう考えもあるかもしれないけどさ。
 でも、クロダさんは白色区域以外じゃ活動してないんだから、きっちり稼ぎたいなら緑色区域より先に行けばいいわけじゃないか。
 白色区域で探索してるのは冒険者としての腕を磨いてる最中の奴らばっかだから――いや、俺達もそうなんだけど。
 稼ぎが良くなることよりも、安全に訓練できることの方が重要なんだよ」

「……なるほど」

 私が初心者用区域の魔物の数を減らし、比較的危険な魔物(その分実入りは良い)を狩り尽しているが故に、利益を被っている人もいる、というわけか。
 私の仕事をそう受け取ってもらえているというのは、まあ悪くない気分である。

 いや、偶には他の冒険者と交流を持ってみるものだ。

「説明ありがとうございます。よく分かりました。
 それで、ジャンさんは私の正体をすぐ見抜けたわけですね」

「んー、そういうわけじゃ無いんだよねー、ジャン君?」

「ば、お前、急に話に入ってくんなよ!」

 割って入ってきたエレナさんの言葉に、ジャンさんは取り乱す。
 ……あれ? 私が有名だから分かったということでは無かったのか?

「別の理由があるのですか?」

「あ、いや、有名だから知ってるってのも間違いじゃないんだ。
 間違いじゃないんだけどそれに付け加えて、その…」

 ジャンさんはそこで一旦言葉を止めてから、続ける。

「俺、クロダさんのこと尊敬しててさ」

「……は?」

 尊敬?
 私を?
 それは、ちょっと止めておいた方がいいのではなかろうか。

「いやだってさ、クロダさん、毎日一人で迷宮潜って、一人で魔物をガンガン倒してさ。
 しかも、凄いスピードで。
 これ、滅茶苦茶凄いことだよ」

「……あー、それは、白色区域だけでのお話ですし」

 そんなに持ち上げられると、意味も無く不安になってしまう。

 それと、先程から聞いているとジャンさんは白色区域を初心者用区域と言いたがらない様子。
 まあ探索している方は白色区域であろうと命懸けであるのだし、それを初心者用とか言われて気分がいいはずもないか。
 そんなわけで、私も単語をジャンさんに合わせてみた。

「それでも、だよ。
 クロダさんと同じことなんて、他に誰もやれていないじゃないか」

『やれない』のではなくて、『やらない』のだと思う。
 主に稼ぎとか、フロンティアスピリッツとかそんなものの関係で。
 熱弁して頂いているところ水を差すのも失礼なので、あえて言いはしないが。

「だから、俺はクロダさんを尊敬して……目標にしてるんだ」

「目標、ですか…」

 もっと目標とするのに適した冒険者は幾らでもいるんじゃないですかね…

「ああ。いつか、クロダさんみたいな<盗賊>になるってな!」

「…………ん?」

 今、おかしな単語が聞こえた。

「……<盗賊>?」

「そうだよ?
 俺の格好、<盗賊>にしか見えないだろ?」

 確かにジャンさんの装いは<盗賊>として定番のもので、だから私も一目でジャンさんが<盗賊>だと分かったわけだけれど。
 焦点はそこでは無くて。

「私、<魔法使い>ですよ」

「……へ?」

 今度はジャンさんが言葉を詰まらせた。

「…う、嘘…?」

「嘘じゃないです。
 それこそ、私の装備は<魔法使い>のものじゃないですか」

 私の装いもまた、<魔法使い>定番……のはず。
 主武装が矢な関係で、杖は持っていないが。

「<魔法使い>用の防具は軽いし、<盗賊>が着ることもあるじゃないか」

 食い下がるジャンさん。

 確かにそういうケースが無いわけでは無い。
 <魔法使い>の防具は、<盗賊>のものより少し動きにくい代わりに、色々特殊効果が付与されていることが多いのだ。
 それを目当てに<魔法使い>の防具を着る<盗賊>がいないわけでも無い。
 ………<魔法使い>の防具を着る<戦士>や<僧侶プリースト>程度にはいるだろう。

「そ、それに、俺が聞いた話じゃ迷宮の移動は<忍び足ステルスステップ>の暗技シャドウアーツで音も無く動いてて――」

「<静寂サイレント>の魔法ですね」

 ちなみに<盗賊>が使うスキルのことを総じて暗技と呼ぶ。
<魔法使い>の魔法に対応する言葉だ。

「<夜目ナイトウォッチ>の暗技を使って明かりも無しに行動できて――」

「<闇視ダークヴィジョン>の魔法ですね」

「魔物は、<武器投げウェポンスロー>の暗技で弓を使わずに矢で倒すって――」

「<射出ウェポンシュート>の魔法ですね」

 とりあえず、言われたことには悉く反論してみた。

「………」

「………」

 気まずい沈黙。

 指摘されてみれば、確かに私は暗技に近い効果の魔法ばかり習得している。
 効率を重視した結果ではあるのだが、自分の趣味趣向は案外<盗賊>に向いていたのかもしれない。

 説明しておくと、<魔法使い>のスキルは他の職業クラスのスキルに比べて多様性が高く、他職業でやれることを魔法でも実行できてしまうケースがある。
 ただ効果は似ていても、効果量が少ない・コストが大きい等の理由で、魔法の方が使いにくい場合がほとんど。
 <魔法使い>で別職業のサポートはできても、完全互換はできないのだ。

「うっそだぁぁああああ!!」

 絶望の声と共にがっくりと、四つん這いに倒れ伏すジャンさん。
 勘違いを正しただけとはいえ、罪悪感が湧いてくる。
 と、そこへ――

「ぷふっ」

 それまで後ろから我々を傍観していたエレナさんが、もう堪えきれない、といった様子で笑った。

「『尊敬している』とか言っといて、相手の職業も知らなかったんだねー」

 大量のからかいと若干の侮蔑を込めた口調。
 現代社会のネットスラングで言えば、『草を大量に生やしている』。
 ……この表現、既に古いだろうか。

「う、うるせーよ」

「ちなみに、ボクはクロダさんの職業知ってたよ」

「し、知ってて黙ってたのか!?」

「いつ気づくかなぁって思ってたんだけどね。
 まさか本人の目の前でやらかすとは思わなかったよー」

「……この……悪魔め…」

 再びがっくりと頭を垂れるジャンさん。
 まあ、本当に本人に会うとは思っていなかったのだろうし、エレナさんを責めるのはお門違いな気もする。

 私は彼女の方を向いて―――

「………っ!?」

「あれ、どうかした?」

 …ど、どうかしたも何も。

 エレナさんは岩に腰かけながら、私の方に向けてスカートを捲っていた。
 立ち位置の関係で、ジャンさんもコナーさんも今エレナさんの姿を見ていない。
 (ジャンさんは四つん這い姿勢だし、コナーさんは明後日の方をずっと見てるし)
 私だけが彼女を見ていて、そして彼女は私だけが見えるようにスカートを捲っていたのだ。

 スカートの中身は先刻と同じ。
 黒いタイツ越しに青と白の縞パンが透けて見える。
 先刻と違うのは、後ろからお尻を見ているか、正面から股間を見ているか。

 お尻のアングルも良かったが、正面からのアングルも、良い。
 太ももの間にある恥丘の、何たる絶景かな…!

「あ、いえ……エレナさんは、<魔法使い>なんですか?」

「うん、ボクは<魔法使い>。
 ついでに、コナー君は<聖騎士>ね」

 完璧に平常心を失った私が無理やり出した話題を、幸いなことにエレナさんは拾ってくれた。

 私が見ていることを分かっているのだろう、彼女は捲ったスカートをヒラヒラと上下に振る。
 <屈折視>を使うまでも無く、スカートの中から、腰のあたりまでチラチラと確認できてしまう。

「<盗賊>と<魔法使い>、<聖騎士>のパーティーだったのですか。
 それですと、コナーさんはなかなか大変そうですね」

「………いや、それ程でも無い」

 <聖騎士>は回復スキルが使える前衛職だ。
 戦闘時には仲間や自分の治癒と前線の維持という、2つの要となる仕事をしなければならない。
 コナーさんは否定したが、そう簡単に役割を務められる職業ではない。

「それ程でもあるあるよ。
 うちのパーティーはコナー君におんぶにだっこでさー」

 言いながら、腰をくいっくいっと動かし、股間を座っている岩に擦り付けるエレナさん。
 岩の凸部分が彼女の股間に少し食い込んでいるようにも見える。

「んっ……んふふふ。
 リーダーが頼りにならないからねー。
 しっかりしてよ、ジャン君」

 最初の吐息、他とは声色が違った。
 まさか、こんな所で感じているのか…?

「が、頑張ってるだろ、俺だって…」

「んんー…んっ…そうかなー?
 尊敬している人の職業も…んっ…知らない位だからなー…あっ…」

 力なく返事を返すジャンさんを、さらにからかうエレナさん。

 言葉の節々に、艶のある声が混ざる。
 他の二人は気づいていないのだろうか?
 それとも、これは彼らにとって『いつものこと』なのだろうか…!?

「……ま、まあ、言われてみれば私の行動って<盗賊>っぽくはありますから。
 誤解されても仕方ない部分はあったかと」

 悶々とエレナさんを凝視しながら、ジャンさんをフォローする。
 彼女は変わらず、岩に股間を擦り続けている。

「……そういや、罠とか鍵とかはどうやってたんだ?
 罠探したり鍵開けたりする魔法なんて――」

「…んー…んっ…あるよ?」

「あるんだ……」

 ジャンさんの質問に、自慰(にしか見えない)をしながら答えるエレナさん。
 岩をよく見れば、彼女が座る下にある突起は、先端が丸みを帯びたており、女性がオナニーするのに程良さそうではある。

「確かに<鍵開けアンロック>の魔法等ありますが、私は使えませんよ」

 <鍵開け>は中級スキルなので、Eランクの私では習得許可が下りない。

「…それじゃあ、どうしてるんだ?」

「罠とかはスキルが無くとも見れば大体分かりますし…
 鍵は、<念動キネティック>の魔法で、こう、カチャッと」

「そんなやり方!?」

「クロダさんは本当に凄い男だな!?」

「………ふおお!?」

 三者三様に驚きの声を上げる。
 エレナさんなど、それまでの自慰を止めてまで驚いていた。

 ここで挙げた<念動>とは<魔法使い>の最下級スキル。
 手を触れずに物を動かせるという、超能力でおなじみの奴だ。
 この文面だけでは非常に便利な魔法に思えるかもしれないが、効果の届く範囲は自分の周囲数十㎝で、動かせる物の重さは自分の手で動かせる程度に限られる。
 <念動>を使う位なら手で動かした方が早いという、最下級の名に恥じない弱スキルっぷりだ。

 ただ、手を入れられない場所の物を動かしたいときや、手で触れられない物を動かしたいとき等、使用場面が無いわけでもない。
 先述したような、鍵穴の奥に作用させて鍵を開けたり、とか。

「あくまで、白色区域にある罠や鍵に限った話ですからね?」

 一応、念を押しておく。
 見知った場所だからこそ一目で罠が分かるのだし、<緑色区域>以降にある複雑な鍵は私の技量では開けられない。

「そうは言ってもねー。
 <念動>をそんな風に使う冒険者なんて、ボク聞いたことないよ」

「<念動>を習得している冒険者自体少ないですからね。
 慣れれば存外簡単に―――! あ、開けられます」

 最後、言葉が止まりそうになった。

 私が説明のためにエレナさんから少しだけ目を離した隙に、彼女は新たなトラップを仕掛けていたのだ!
 今度はスカートではない。
 その上――ブラウスの方。
 ブラウスのボタンが、上半分全て外されている。
 そして開放したブラウスの隙間から、彼女が着けているブラとおっぱいが惜しげもなく披露されていた。

 ブラはパンツと同じく青と白のストライプ模様が入った物。
 こちらも彼女自身の可愛らしさとよくマッチして、似合っている。
 だがやはり目を引くのは――おっぱい。
 服の上から予想していた通り、形の良い胸だ。
 トランジスタグラマーの理想形、と呼んでもいい。
 お尻と同様、数値上のバストの小ささを身体の小柄さが補い、結果として巨乳と呼べる在り様へと昇華させている。
 小さい巨乳とはこれ如何に?

「慣れれば、ねぇー?
 んー、そうなのかなぁ」

 私へ返事をしながら、二の腕でおっぱいを挟んで強調させてくるエレナさん。
 うわぁ……今すぐ吸い付きたい。

 この期に及んでまだ、他の二人は彼女の様子に気付いていない。
 お二人が少し鈍い……というのもあるのかもしれないが、エレナさんが二人の死角を上手くついた絶妙な立ち位置にいることが何よりも大きい。

「俺は魔法とか詳しくないから分かんないけどさ。
 そもそも、クロダさんの習得してるスキルを聞く限り、<盗賊>になった方が良かったんじゃないかと思うんだけど」

「ご尤もなご指摘です。
 ただ、私は<魔法使い>への適性の方が高かったんですよ」

「あー、適性の問題か。
 それじゃ、仕方ないのかもな」

 冒険者の職業には個人個人で異なる適性というものがある。
 誰でも好きな職業になれるわけでは無いのだ。

 そんなことを私とジャンさんが話している間中、エレナさんは両手でおっぱいを揺らしている。
 私に見せつけるように。
 ただでさえ色っぽい胸がプルプルと揺れる様は、私の目を捕らえて離さなかった。
 しかもその弾みっぷりを見るに、弾力もかなりのものがありそうだ。
 張りがある巨乳とか最高じゃないですか。

「はい。そんなわけで、ジャンさんは私なんて碌でも無い人間を目標にせず、もっと立派な冒険者をですね…」

「――いや」

 私の語りをジャンさんが止める。

 エレナさんはブラの中に自分の手を入れて動かし始めた。
 これは、乳首を弄っているのか…?

「いや、いいんだ!
 <魔法使い>といったって、やってることは<盗賊>みたいなもんだし!
 目標であることは変わらないし、それは何にもおかしくない!」

「ふぅーん…んっ……そんな風、にっ、自分を納得させたんだ…あっ…」

「……ジャンさんがそれでいいなら止めはしませんが」

 何やら開き直った様子のジャンさん。
 エレナさんの声にはまた艶が混じり始めた。

 さっきから私の愚息がいきり立って仕方がない。
 ジャンさんやコナーさんが居なければ、この場で襲い掛かっていたかもしれない。
 そう考えながら、より一層彼女を凝視していたところで――

「…まー、話もひと段落したところで」

 言って、ブラウスのボタンをササッと留めるエレナさん。
 ……あ、あれ、もう終わり?

「ボク、そろそろ水浴びに行ってくるね」

 そう告げながらクロークを外して、エレナさんは立ち上がる。

「おいおい、せっかくクロダさんと話せる機会だってのに…」

「そんなこと言ったって、何時までも休憩してるわけにはいかないでしょー?
 昨日から全然身体洗えて無いんだし。
 それに、クロダ君だってそろそろ先に進みたいんじゃない?」

「クロダ『君』ってお前……まあいいや、確かにそんな長く引き留めるわけにもいかないか」

「…………そうだね」

 3人の中で、意見が固まったようだ。
 この辺りでお開きということだろう。

 余談だが、この場所から少し上がったところに、階層の最上段から流れてくる水が溜まった小さな池がある。
 エレナさんが水浴びに行こうとしているのは、十中八九そこだろう。
 いや本当にただの余談なのだが。

「それでは、私も仕事に戻ります。
 お話に付き合って頂きまして、ありがとうございました」

「こっちこそ、何の得にもならない話を長々としちゃって悪かったな」

「いえいえ、知らないお話等も聞けて、タメになりましたよ」

 自分の意外な知名度とか。
 知って何かの役に立つのかと問われると怪しいところではあるが。

「それじゃ、またな、クロダさん」

「…………うん」

「またねー、クロダ君」

「はい、またお会いしましょう」

 エレナさんは、この後すぐにでも。
 そんな私の期待を裏付けるかのように、水浴びに向かう彼女は私の方を一度振り返り、小悪魔の笑みを浮かべるのだった。
 その後ろ姿を見届けてから、私も――

「あ、ちょっと待ったクロダさん、一つお願いがあるんだけどさ」

 その前に、ジャンさんから水を差されてしまう。
 逸る気持ちを抑えて彼からの『頼み事』を聞き、私はそれを了承した。



 第二話③へ続く
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