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第17話裏 男女2人、夜、密室――ナニも起きない筈がなく……

【EX】稲垣悠の悩み

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 稲垣悠は悩んでいた。
 自分のこと――ではない。まあ、成り行きでレジスタンス組織に身を置くことになってしまったが、元より今の暮らしには不満が多かったのだ。司政官の一人娘として周囲には完璧な立ち振る舞いが求められ、父の人気取りのため愛想を振りまき、時には分単位でスケジュールが管理され――他にも挙げればキリがない。だから、ゲームの中での間柄だったとはいえ、親しい人達クランメンバーに囲まれたここの居心地は、そう悪いものではなかった。
 悠が悩んでいたのは、四辻湊音友人のことだ。デスゲームに参加させられ、そこから何とか生還したというのにまたしても命を脅かされている。

(……まさか、ログアウトできなくなるだなんて)

 一難去ってまた一難。悠の前では気丈に振舞っていたが、内心は相当に辛いであろうことは想像に難くない。ログインしたままでは、栄養補給の問題に加えて脳や身体への負担で1か月程度しか生きられないのだから。

(でも、また・・私は何もできないんですね)

 今回もまた、アスヴェルに解決を委ねるしかない。もちろん彼を信じていない訳ではないが、何かすることができない無力感が彼女を襲っていた。

(私にも、何かできることは――)

 言いようのない不安が心に付きまとう。誰かに相談をしようにも、レジスタンスの人達は魔王も含めて皆忙しそうで――敵の親玉オーバーロードが急襲してきたのだから、当然だろう――とてもではないが話しかけられる雰囲気ではなかった。
 今は宛てもなく廊下を歩いているところだ。

「あっ」

 と、そんな時、見知った人影を見つける。あの(若干以上に場違い感がある)メイド姿、加えて日本人ではあり得ない銀色の髪は、間違いない。

レイアさん・・・・・!」

 そう言って、その女性へ駆け寄る。呼んだ相手はこちらへ向き直ると、

「おや、お嬢様。おはようございます。こんな早朝にもうお出かけでございますか?」

 恭しい一礼と共に挨拶をしてくる。
 彼女はレイア・ケーニギンという名で、悠の侍女をしてくれている女性だ。小さい頃からの付き合いであり、公私に渡ってサポートしてくれる、悠が最も信頼している人物である。例のデスゲームから湊音を助ける際にも彼女は手助けしてくれた。悠がレジスタンスに残ると言った時は流石に反対されるかと思ったが、多少の小言は言われたものの、レイアは自分に付き添う道を選んでくれたのだ。感謝してもしきれない。

「おはようございます。レイアさんこそ、朝早くからどうしたんですか?」

わたくしは物資の搬入を。こちらの方に話を聞いたところ、いろいろと入用でしたので」

「そんなことを……!?」

 なんと行動の早い。悠がただ悩むだけだった時間、このメイドは働き続けていたという訳だ。

「お疲れ様でした。すみません、何のお手伝いもしないで……」

「いえいえ、お嬢様がお気にする必要はありません。これもわたくしの仕事ですから」

「ちなみに、どのような物を運んで頂けたのでしょうか?」

 単純な好奇心で聞いてみた。食糧は生活必需品の類だろうが――

「はい、拳銃や機関銃を始め、グレネード、ロケットランチャー等の携帯火器とその弾薬をトラック3台分ほど」

「え」

「本当であれば戦車や戦闘ヘリも用意したかったのですが、ここ最近製造されていませんでしたので、入手できませんでした。無念です」

「あの」

 ――なんか凄いこと言ってきた。

「れ、レイアさん? ここの人達は、何も政府と戦争するつもりは無いのではないかなぁと」

「お嬢様。それは余りに楽観が過ぎます。残念ながら敵は死ぬまで敵のままなのです。相手を叩き潰す以外、対立の解消はありません」

「いえでも魔王――ではなくて、リーダーの四辻さんはあくまで話し合いが目的だと」

「おや、そうでございましたか――――まったく、あの魔王ガキは相変わらず甘っちょろい」

「え?」

「お気になさらず、独り言でございます」

「は、はぁ……?」

 悠が戸惑っている間に、レイアはさらに続けてくる。

「搬入物としましては、他にも食糧や医薬品も持ち込んでおります」

「あ、流石に武器だけではなかったんですね」

「当然でございます。こちらでも“Divine Cradle”の運営管理を行うとも伺いましたので、ゲーム中に現実の身体の方へトラブルが発生した際に使用する生命維持装置もご用意いたしました」

「……ん?」

 なにやら不思議な単語が聞こえた。

「生命維持装置?」

「はい」

「それ、ログアウトできなくなった人の健康を維持するとか、そういうこともできる装置です?」

「そうですね、そのようなケースにも対応可能です」

「どれくらい、維持できるものでしょう?」

「カタログスペック上は10年ほど」

「…………ソウデスカ」

 そんな訳で。
 悠の抱えていた悩みの一つは、これで解決したようであった。



 ――四辻湊音の命が尽きるまで、あと10年。






 ◆メイドさん一口メモ
 番外編にシリアスな空気は決して持ち込ませないという鋼の意思。

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みんなの感想(1件)

飛竜鳥
2020.07.10 飛竜鳥

続き期待してます!けど無理せず頑張ってください!応援してます

ぐうたら怪人Z
2020.07.12 ぐうたら怪人Z

感想を頂きまして、ありがとうございました。
拙作を楽しんで下さったようで何よりです。
番外編という位置づけなため更新頻度が(ただでさえ遅筆なのに)低い本作ですが、また近い内に続きを書きたく思います。
……既に挿絵だけは完成しているなどと、口が裂けても言えません(汗)
では、失礼しました。

解除
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