腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~

味のないお茶

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第1章

第十三話 ~腹ぺこお嬢様の飯使いになってしまった件

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 第十三話




「隣人さん……お願いします。私に……ご飯を作ってください……」

 そう言う美凪の手には何やら分厚い封筒と便箋が握られている。

「どういう意味だよ、美凪。お前のお母さんはもう家に帰ってきてるんだろ?」

 俺がそう言うと、美凪は首を横に振った。

「皆さんと遊んでいたので気がついたのが今でした。お母さんは今日の夕方に会社に呼ばれて、仕事が大変だから会社の宿泊施設で一ヶ月は寝泊まりをしないといけない。私のスマホにそうメッセージが入ってました……」
「……マジで?」

 あんな美人が会社の宿泊施設で寝泊まりとか、身の安全は大丈夫なのかと考えてしまう。
 そんな俺の思考を察したのか、美凪は俺の目を見ながら言う。

「とても信頼してる男性が一緒に居てくれるそうです。なので、お母さんの貞操に関しては心配要らない。と言われました」
「そ、そうか……」

 その『とても信頼してる男性』が手を出さないとも言えないが、そこは信じるしか無いだろう。

「居間のテーブルの上にはこの手紙とこの封筒がありました。その……二つとも隣人さん宛てです」
「俺!?何で!!」

 驚きながらも、俺は美凪から便箋と封筒を受け取る。

 まずは便箋を見ると『海野凛太郎様へ』と綺麗な文字で書き始められていた。

 俺はそれに目を通した。

『海野凛太郎様へ』

『突然のお手紙、誠に申し訳ございません。この手紙を貴方に渡すように、優花にはメッセージを送りました。この手紙を貴方が読んでいる時には、私は会社で働いているでしょう。理由は彼女の口から聞いているかと思います。私事で大変申し訳ございません。一ヶ月ほど自宅を留守にしなければならない事態になってしまいました』

『私の娘。優花は家事の一つも出来ない娘でございます。勉強や運動は人並み以上に出来るのですが、そちらの方面。所謂『花嫁修業』はまだ行っていませんでした。そして、貴方も知っての通り、優花はお金の管理が出来ません。彼女にお金を渡したら数日……いえ、もしかしたら一日で使い切ってしまうことが目に見えています』

『海野凛太郎様。大変失礼を承知でお願いを申し上げます。どうか、優花の面倒を見てくださいませ。昨日の貴方の言葉に甘えてしまう形になってしまい、大変心苦しく思います。次に、そちらの封筒をご確認ください』

「……マジかよ」

 封筒の中には一万円札が十枚入っていた。
 十万円だ。

『一ヶ月分の生活費でございます。優花の食事代と凛太郎様の手間代として、このお金を入れさせてもらいました。断れない状況にしてしまい大変申し訳ございません。ですが、引っ越してきたばかりのこの地では、頼れる方は貴方しか居ません』

『もしその金額で足りないようでしたら、連絡をいただければ優花の口座に振り込まさせていただきます。優花はとても食べる娘です。ですが、味の評価にはうるさい娘です。その優花が貴方の作る料理は美味しかったと話していました』

 なるほどな。それは嬉しいことだ。
 作った料理を美味いと言ってくれる。
 作り手にとって、これほど幸せなことは無い。

『海野凛太郎様。無理を承知でお願いを申し上げます。どうか一ヶ月の間、優花をよろしくお願いします』

 はぁ……ここまで言われたら断れねぇよ……

 そう思った俺は、二枚目があることに気がついた。

「……二枚目?」

『追伸』

『優花は手前味噌ではございますが、大変見目麗しく育ちました。そのまま凛太郎様の方で、いただいてしまっても結構でございます』

「……ぶふっ!!」
「どうしましたか?隣人さん」

 思わず吹き出した俺を、訝しげな表情で美凪は覗き込む。

「な、何でもない……」

『避妊さえしていただければ、あとはどうぞご自由にお召し上がりくださいませ』

 美凪のお母さんからの手紙は、そんな言葉で締めくくられていた……

 二枚目は……見なかったことにしよう。

「隣人さん……」

 不安げな瞳で俺を見る美凪。

 こんなコイツをほっとけるのか?
 ……無理だろ

「……はぁ」

 俺は一つため息をついた。

 覚悟を決めろ、海野凛太郎。

「美凪」
「……はい」

 俺は美凪の目を見て聞いた。

「アレルギーのある食品はあるか?食べたら命に関わるようなものだ」
「な、無いです」

 よし。たまにそば粉とかエビとか食うとヤバいやつが居るからな。

「嫌いな食べ物はあるか?これは本当に食えないとかだ」
「特に無いです。強いて言うなら生のセロリは苦手です」

 たまにスティックになってるあれだな。
 俺もあれはあまり好きじゃない。
 火を通してスープとかにすると美味いんだがな。

「好きな食べ物はなんだ?」
「基本的になんでも好きです。ですが……そうですね。昨日食べた隣人さんのハンバーグは今までの人生の中でいちばん美味しい食べ物でした。ですので、好きな食べ物は貴方の作るハンバーグです」

「……っ!!」

 こ、こいつはわかって言ってるのかよ……っ!!
 美凪の言葉に俺の心臓が跳ねる。

「はぁ……お前の食生活を俺がなんとかしてやるよ」
「あ、ありがとうございます!!」

 諦めたようにそう言う俺に、美凪はほっとした様な表情で頭を下げた。



 これが、海野凛太郎が美凪優花の飯使いになった瞬間だった。
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