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第1章

美凪 side ② 中編 その①

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 美凪 side ② 中編 その①



 お昼ご飯を食べ終わった私たち。
 五時間目は音楽の時間でした。

 お腹いっぱいの状態で、音楽。これは眠らないようにしないといけません……っ!!

 隣人さんも同じような決意をしているようでした。

 しかし、この高校の音楽の先生は変わった方でした。

『音楽とは癒しであり、苦痛であってはならない』

『昼ごはんを食べて眠気もあるだろう。私の授業では存分に睡眠を取ってもらって構わない』

 そんなことを話していました。

 音楽の授業が始まると、先生がピアノを弾き始めました。

 美しい旋律。この先生がとても著名なピアニストだと言うことは後ほど知りました。

 一人。また一人。クラスメイトが目を閉じていきました。

 隣の隣人さんを見ると、既に寝ていました。

 すやすやと寝息を立てる彼の顔を見てると、幸せな気持ちが胸に溢れてきました。

 ふふーん!!彼が先に寝ているのでしたら、私も寝ましょう!!

 そして、私も先生の奏でるピアノの音色に誘われるまま、夢の中へと旅立って行きました。


『……い。……凪』

 肩を揺すられて私は目を覚まします。

「授業はもう終わったぞ」

 私の目に、笑っている彼の顔が移りました。

 わ、私より先に起きていたようです……っ!!

 もしかして……私の寝顔を見られてましたかね……

「……お、起こしてもらってありがとうございます」
「あはは。俺も起きたのはさっきだから、気にすんな。じゃあ教室に戻ろうぜ」
「はい」

 そうして私たちは、音楽室を後にして、教室へと戻りました。


 六時間目はLHRです。

 山野先生が再三話していたように、各委員を決める時間になります。


「それではまずは『学級委員』から決めていくぞ。男子の学級委員に立候補する者は居るか?」

「はい!!自分が立候補します」

 隣人さんがしっかりと手を挙げて立候補をしました。
 こういう所は本当に凄いな。と思います。

 周りを見ると、手を挙げている男子生徒は居ません。

 どうやら彼に決まりそうです。

「ふむ。海野凛太郎が立候補したな。他には居るか?」

 山野先生が催促をしましたが、誰も手を挙げません。
 まぁ、やりたい人は居ないですよね。

「他の立候補が無い。では海野凛太郎が学級委員で異議のない者は拍手をしろ」

 パチパチパチ……

 私も彼に拍手をしました。

「では賛成多数で海野凛太郎を男子の学級委員とする。海野、前に来なさい」
「はい」

 彼は返事をすると、教壇に立ち、ハキハキと挨拶をしました。

「学級委員になった海野凛太郎だ。別に偉ぶるつもりは微塵も無いないから安心してくれ。皆の雑用係みたいなもんだと思ってる。俺は部活に入るつもりが無いから、部活をやってるやつがそれに集中出来るようにしようと思う。一年間、よろしくお願いします」

 ぶっきらぼうな言葉の中にある、彼の優しい心。それがわかる挨拶でした。
 奏さんや成瀬さんを中心に、拍手がもう一度贈られました。

 私も一応、拍手をしておきました。

「では、次に女子の学級委員を選出する。女子で学級委員に立候補する者は居るか?」

 ふふーん!!ここです!!今こそ私が手を挙げるときです!!

「はい!!私が学級委員に立候補します!!」
「……美凪」

 驚いたような表情で、彼が私を見ています。
 私は用意していた言葉を彼に伝えました。

「ふふーん!!学級委員なんて大役は隣人さんだけでは不安ですからね!!このパーフェクト美少女の美凪優花ちゃんが、しっかりとサポートをしてあげるです!!」
「あはは……そうか……」

 少しだけ苦笑いをしている隣人さん。

 なんですかその表情は!!この私と同じ委員を出来るんです!!もっと幸福を噛み締めてくださいね!!

 なんて思ってると、山野先生が予想外のことを言いました。

「そうか。なら女子の学級委員は『くじ引き』で決める事になるな」

「「……え?」」

 その言葉に、私と隣人さんが同時に視線を移動させました。

 その視線の先には、

「あはは!!私も学級委員に立候補させてもらおうかな!!」

「「さ、桜井さん……」」

 桜井美鈴さんが手を挙げて立候補を表明していました!!

「な、何で桜井さんが学級委員に立候補してるんですか!?もしかして、隣人さんを狙ってるとか……っ!!」

 か、彼はとても優しくてかっこいいです。ちょ、ちょっとえっちなところはありますが、男性としては高水準だといえます。
 も、もしかしたら、桜井さんは……

 なんて思って、彼女に言葉を投げかけると、

『私が海野凛太郎くんを狙ってる?ふふふ。美凪優花さんも冗談が好きだね……』

「……ひぃ!!!!????」

 な、何ですか……そ、その目は……

 昏く淀んだ瞳。あまりのプレッシャーに、私の心臓が竦み上がりました。

 驚いた私の様子に、言いたいことを伝え終わった桜井さんは瞳の色を元に戻して話を進めました。

「私が立候補したのは『お兄ちゃんに会うため』だよ?」
「お、お兄ちゃんに会うため……」

「ひと月に一度開催される学級委員の集まりがあってね、それの司会は生徒会長がやることになってる。つまり、学校でお兄ちゃんに会えるの!!」
「お、お兄さんとは……家で毎日会ってるのでは?」

 私の言葉にクラスメイト全員が首を縦に振りました。
 で、ですが……彼女の言葉は予想外過ぎました。

「あはは!!家で会えるのは当然だよ?でもさ、学校でも会いたいよね!!妹なら当然だよ!!」

 そ、そんな常識初めて知りましたよ!?

「さぁ!!美凪優花さん!!学級委員の座を賭けてくじ引きで勝負だよ!!」

「私のお兄ちゃん愛が勝つか、美凪さんの海野くんへの愛が勝つかの勝負だね!!」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!???わ、私は隣人さんを愛してなんか……っ!!」

 あ、愛してはいないです!!
 ちょ、ちょっとくらい……その……良い人だなぁ……と言う好意は持ってますが、愛してはいないです!!

「はぁ、もう茶番はいいからくじ引きをしてくれ……」

 山野先生がやれやれと手を広げました。

 そ、そうです!!くじ引きで勝てばいいだけです!!
 勝負事にはめっぽう強い私です!!負ける気がしません!!

 私は強い足取りで教壇へと向かいます!!

「先手必勝!!私が先に引きますよ!!」
「あはは!!いいよ、美凪さん。私は残り物には福があるって言葉を信じるよ」

 そして、教壇で待つ彼に私は言いました。

「ふふーん!!別に隣人さんが好きだとかそういう訳では無いです!!ですが、負けるのは嫌なので私が勝ちます!!」
「あはは……そういうことにしておくよ」

 私は彼の隣にあるくじ引き箱から紙を引き抜きました。

 そして、私の後に桜井さんがやって来て、残ったくじを引き抜きました。

 その時に彼と何かを話していたように見えました。

 桜井さんの言葉に、彼が笑っているのが見えました。

 ……なんでそんな楽しそうなんですか?

 むー!!隣人さんの女たらし!!

 笑顔で話していた二人を見ると、イライラが溜まってきました。でもいいです!!勝つのは私ですから!!

「それでは二人とも、くじの中を確認しろ。紙に『学級委員』と書かれていた方が任命となる」

 山野先生に言われて私は中を確認しました。

『学級委員』

 開いた紙にはそう書いてありました!!
 ふふーん!!やはりパーフェクト美少女の美凪優花ちゃん!!
 勝負事にはめっぽう強いです!!

 軽く桜井さんに視線を向けると、天を仰いでいました。

 勝ちました!!これで隣人さんの隣は私のモノです!!

「ふふーん!!やはり私は勝負事に強いパーフェクト美少女の美凪優花ちゃんです!!」

 私は満面の笑みで彼に引き抜いた紙を見せました。
 それを見た彼は、喜んでいるように見えました。

 そして、敗北者の桜井さんは私に向かって言葉を投げかけました。

「おめでとう、美凪優花さん。いやー負けたよ。まさか私のお兄ちゃん愛を上回るレベルで美凪さんが海野くんを愛しているとはね!!」

 あ、あ、あ、愛してる!!!???
 ま、またその言葉です!!
 ち、違います!!私は彼のことを……!!!!

「あ、あ、あ、愛してないです!!感謝はしてますし、好意を持ってるのは認めますが、愛しては無いです!!」

 手を振りながら否定する私を、彼は少しだけ困ったような表情で見ていました。
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