腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~

味のないお茶

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第1章

美凪 side ② 前編

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 美凪 side ② 前編



 お風呂を出た私は、隣人さんと部屋でお話をしました。

 扉を開けた私の目の前で、いきなりダンベルを持ち上げて筋トレをしていることには驚きましたが。

 それに、えっちな彼は……ひ、卑猥な漫画を読んでるようでした……

 そ、そう言うのに寛容なことも良い女の条件です!!

 私は許してあげることにしました。

 それと、彼は私のことも『そういう目』で見ているという事がわかりました。

 ふふーん?そうなのですね。他の男性なら嫌悪しかありませんが、貴方なら歓迎です。嬉しく思いました。

 そんなやり取りをして、ベッドの中に入った私と彼。

 私から離れるように、ベッドの端っこで身を縮めている姿を見ると、笑ってしまいました。


「…………いや、無理だろ」
「無理じゃありません」

 弱音を吐く隣人さんの身体を抱き寄せました。

「えぇぇ!!??」
「そんなところに居たら落っこちますよ?」

 驚く彼に私はそう言いました。
 まだまだ四月は寒いです。
 布団から出ていたせいで風邪を引いた。なんて言われたら悲しいです。


「ふふふ。幸せです……」
「そ、そうですか……」

 私は彼の身体を抱きしめながらそう呟きました。

 幸せです。暖かい彼の身体。
 この場所は私のものです。誰にも渡しません。


「おやすみなさい……隣人さん……」


 私はそう言って、夢の中へと旅立って行きました。





 今日も、朝から色々ありました。



 早朝。ぼんやりと目を覚ました私の耳に、彼の声が響きました。

「いつの間にか俺は四妖拳しようけんが使えるようになっていたのか」

 四妖拳……確か天津飯が腕を四本にする技でしたね。
 なかなかマニアックな技を覚えてますね、隣人さん。

 そして、彼は自問自答を少しした後に、身体を捩じるようにして私から離れようとしました。

 ダメです。私はまだ貴方と離れたくありません。

「……やだ」
「……っ!!??」

 私は思わずそう呟いて彼の身体を抱きしめました。

 彼はとても驚いていましたが、観念したようです。

 ふふーん。そう簡単に離れられると思わないことです。

「…………こいつは、男子高校生の性欲をなんだと思ってるんだ」

 ……性欲。えっちな事をしたいという気持ち。ですよね。
 冷静沈着な隣人さん。でもそういう気持ちは年相応に持ってると言うのは知ってます。
 それは……私にも向けてるのでしょうか?

 パーフェクト美少女の美凪優花ちゃんです。
 異性からそう言う視線は嫌という程浴びてきました。

 他の男性なら嫌悪しかありませんが、彼からなら欲しいと思ってしまいます。向けられてない。と言われたら不服に思うかもしれません。

 そんなことを考えながらていると、


「……はぁ。ちょっとくらいならいいよな」

 そんな彼の声が聞こえてきました。

 ちょっとくらいなら……一体彼は私に何をするつもりなのでしょうか?

 きっとまだ私が寝ていると思っているはずです。
 寝ている美少女に彼が何をする人なのか、少しだけ興味が芽生えました。

 そして、彼は私の身体をそっと抱きしめました。

 あぁ……幸せです。そう思っていると、私の頭を優しく撫でてくれました。
 優しく、丁寧に、彼の手から、優しさが伝わってきます。

 頭を撫でるだけ……ですかね?

 そう思っていると、彼の手は私の『髪の毛』を梳いてきました。

 髪の毛。私が毎日欠かさずにお手入れをしている自慢の部分です。彼の手が、私のその髪の毛を優しく梳いてくれています。

 お好きなのでしょうか?

 正直な話。もっと過激なことをされるかもしれない。と思っていましたが。

 ですが、この時間を堪能していると、段々と恥ずかしさが込み上げてきました。

 そろそろ……教えてあげましょうか。

 私はそう思い、彼に声を掛けました。


「……おはようございます」
「……っ!!??」

 私の声に、彼の身体がビクリと震えました。

「お、おはよう、美凪……」

 彼の手が、私の頭から離れました。
 あぁ……少しだけ……名残惜しいです。

「い、いつから起きてた」

 そんな彼の質問に、私は少しだけ『嘘』をつきました。

「つい先程です。貴方が私の髪の毛にご執心の時からでしょうか」
「……っ!!」

 私は彼から少しだけ距離を取り、聞きました。

「好きなんですか?髪の毛」
「……まぁ。ずっと触りたいとは思ってた。お前の髪の毛は綺麗だし。ただ、悪かったな、勝手に触って」

『お前の髪の毛は綺麗だ』

 ふふーん。私が貴方に言われたかった言葉です。
 とても嬉しい気持ちが心を満たします。

「ふふーん?良いことを聞きました。隣人さんは髪の毛がお好きなんですね」

 私はそう言うと、ベッドから出てとても申し訳なさそうな表情をしている彼に言います。

「貴方が私の髪の毛に触れたことに関しては私は怒ってませんし、その事で隣人さんを嫌いになる。とかそういうのは無いので安心してください」
「そ、そうか……」

 私のその言葉に、彼は安心したように呟きました。
 ふふーん。とても不安だったようですね。

 そんな彼が、私には微笑ましく見えました。

「そうですよ。だって、貴方が寝ているところに来たのは私の方です。正直な話。髪の毛を触れられる程度では済まないことすら、されても仕方ないような状況ではありませんか?」
「……まぁ、そうかもしれないな」

 そう。貴方は『えっちな人』ですけど『優しい人』です。
 最後の一線は絶対に超えてきません。

 私はそんな彼に言いました。

「先に居間に行ってます。隣人さんの作る朝ごはんを期待してますからね」
「あぁ、とりあえずパンを焼く予定だよ」

 あとはスクランブルエッグとソーセージを焼くかな。

 スクランブルエッグとソーセージ!!今からとても楽しみです!!

「今から楽しみです!!それではまた後で」

 私はそう言って、部屋を後にしました。



「……ちょっと大胆すぎましたね」

 私は洗面台で顔を洗いながら、火照った頬を冷まします。

「ふふーん。ですが、普段は冷静沈着な隣人さんが、慌ててるのを見るのはとても楽しいです」

 こんなことを言ったら、彼に怒られてしまいそうですから、内緒にしておきましょう。

 そう思いながら、私は居間へと向かいました。

 そして、朝ごはんの時間を使って、隣人さんに今日からここで暮らす。という話をさせてもらいました。

 最初は渋っていた隣人さんですが、私の巧みな交渉術で、同居を認めてもらえることになりました。

 ふふーん。パーフェクト美少女の美凪優花ちゃんにかかればこの程度のことは余裕です。

 それに、隣人さんにでしたら髪の毛くらいは触らせてあげても良いです。

 ……寧ろ、朝のように頭を撫でてもらって、髪を梳いてもらいたいな。なんて……


 あはは……ちょっと変ですよね……

 そして、朝ごはんを食べたあとは学校へと向かいました。

 今日の六時間目のLHRでは、学級委員を決めると先日のSHRで山野先生が話していました。

 男子の学級委員には隣人さんが既に立候補を表明しています。
 正直な話。くじ引きで変な委員に、変な男子と組まされる可能性を考えるなら、彼と学級委員をやった方が百倍はマシです。

 ですが、それを正直に言うのは少し癪なので、隣人さんだけでは学級委員と言う大役は務まらないので、パーフェクト美少女の私がサポートしますよ!!って流れにしましょう。

 きっと学級委員をやりたいなんて人は居ないはずですから、すんなりと枠に収まれると思います。

 私は学校の教室でぼんやりとそう考えていました。

 ちなみに、隣人さんは隣で一時間目の数学の教科書をぼんやりと眺めていました。

 そう言えば、いつもはしている予習をする時間が無かったです。まぁ、才色兼備の美凪優花ちゃんです。予習なんかしなくても授業なんかおちゃのこさいさいです。

 そして、一時間目が始まる前。隣人さんからテストの点数勝負を挑まれました。

 ふふーん!!いい度胸ですね!!学年首席の実力を見せてやりますよ!!

 私は彼からの宣戦布告を受け、勝負を快諾しました。

 迎えた一時間目の数学のテスト。

 答案用紙を見て、問題の選別をしていた私は愕然としました。

『な、なんですかこの二問目は!!春休みの宿題どころか、まだ習ってない問題です!!』

 とりあえず私は二問目だけは飛ばして他の問題を解きました。

 そして、五分ほど時間を残して、その二問目をもう一度見ました。

『わ、わかりません……流石の私でも習ってないものは解けません……』

 制限時間の25分が過ぎ去り、私は隣人さんと答案用紙を交換しました。

「……え?」

 に、二問目が回答されてます!!そ、それにこれは正解のようです!!
 ど、どういう事ですか!!

 彼にそのことを聞くと、

「悪ぃな。たまたま朝の時間に、教室で数学の教科書を眺めてたんだよな。その時に覚えてた公式を使ったら解けた」
「むーーーーー!!!!この勝負は無効です!!」

 習ってない問題を運みたいな形で解けたなんて許せません!!
 この勝負は無効です!!

『この世でいちばん大切なものは運!!』

 なんて言っていた山野先生の言葉が思い出されました。

 ですが、こんな結果は認められません!!

 私のぷんぷんは昼まで続いていましたが、

「まぁ、美凪。こんなんでお前に勝った。なんて言うつもりは無いからよ。いい加減機嫌を治せよ」
「ふーふー……そうですね。このままではせっかくのお弁当が美味しく食べられません……」

 隣人さんもこんな形での結果には納得行ってなかったようですね。まぁ、こんなので勝ち誇られていたら、私は彼に対して失望していたと思います。


 そして、お昼ごはんの時間になりました。


 奏さんはやはりサラダとパンだけでした。

 隣人さんと成瀬さんのやり取りから、何か事情があるように見えました。

 ……私だけ知らない。仲間外れのようで何かもやもやします。


 私は隣人さんに事情を聞きました。

 そして、彼から奏さんは『拒食症』だと知りました。


 食べることが大好きな私には考えられないような病気です。

 ですが、成瀬さんや隣人さんの料理なら食べられる。そういう話でした。

 彼の料理は私だけじゃなくて、奏さんも救っていたのですね。

 そう考えると、少しだけ誇らしい気持ちでした。


『隣人さんの料理は、私だけじゃなくて奏さんの命も救っていたんですね』
『あはは。そんな大層なもんじゃない。だけどそう言う奏を見てきたからかな、美味しくたくさん料理を食べる女は嫌いじゃない』

 彼はそう言うと、私に向かって笑ってくれました。

『これからも、俺の料理をたくさん食べて、俺に笑顔を見せてくれ。俺はそんなお前を見てるのが好きなんだ』

 俺はそんなお前を見てるのが好きなんだ。
 ……好きなんだ。
 好き……

『い、今自分がとんでもないことを言ってるってわかってますか!?』

 彼から受けた告白まがいの言葉に、私は動揺を隠せません。

『あはは。どうした、才色兼備のパーフェクト美少女の美凪優花さん?照れてるんですか?』

 ……っ!!か、からかいましたね!!
 むー!!乙女心を弄ばれました!!
 隣人さん!!許せません!!

『て、照れてません!!もー!!からかわないでください!!』

 そんな私たちのやり取りを、奏さんと成瀬さんは微笑ましそうに眺めていました。
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