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第1章
第九話 ⑩ ~波乱の一日・夕方~ 悠斗視点
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第九話 ⑩
「……珍しいな。少年の方から私に『相談したいことがある』なんて言うのは」
昼休憩から戻って来ても、教室の雰囲気に変わりはなかった。
どうやら早めに学食から戻って来ていた黒瀬さんが、教室でクラスメイトと談笑していたからだ。
もちろん。内容は俺とのこと。
それも、全部本当のことだからたちが悪かった。
否定することも出来ず、まるで『俺と黒瀬さんが付き合う流れ』というものが出来つつあるように思えた。
外堀が、どんどん埋められている……
名前で呼ぶ事を許したのが間違いだったのか……?
いや、あのタイミングでは断れない。
……全ては彼女の手のひらの上だったのか。
五時間目、六時間目を終え。ショートホームを終える。
「今日はバイトがあるから、学級日誌を任せてもいいかな?」
と言う俺の言葉に、黒瀬さんは微笑みながら答える。
「大丈夫ですよ。お仕事、頑張ってくださいね」
まるで正妻が夫を朝送り出すような言葉に、クラスメイトが沸き立つ。
「……っ!!ありがとう。じゃあまた明日」
俺は逃げるようにして、教室から出て行った。
ようやく今日が終わった。
そんなことを思っていた。
……まだまだ全然。
今日は終わってないのに。
油断していたんだ。
あの教室を抜け出した時点で、あれほど人の言葉を聞かなければならない。忘れては行けない。
そう思っていたのに。
俺はまた大切なことを忘れていて、同じ間違いを、繰り返す。
十七時からのバイトを始める三十分ほど前に、俺はバイト先に来ていた。
そこのスタッフルームには、既に着替えを済ませた司さんが座っていた。
司さんには、あらかじめ俺の方から、
相談したいことがあります。三十分ほど時間を頂けませんか?
とメッセージを送っていた。
「ありがとうございます。司さん」
「まあ、可愛い弟の相談だ。お姉さんが話を聞いてやろう」
俺は、ありがとうございます。と言うと、
「弟呼びとお姉さんを自称することにツッコミがない。相当やられてるな、少年?」
「ははは……それをこれからお話します」
俺はそう言うと、司さんに事情を話した。
彼女の朝練に付き添って登校していたこと。
早朝の教室で読書をしていたら、黒瀬さんが来たこと。
そこで、本の貸す仲になったこと。
共に読書をする流れになったこと。
名前呼びを許したタイミングで、クラスメイトに見つかったこと。
自分には既に彼女がいる。とは言えない空気があること。
自分と黒瀬さんが付き合っている。もしくはそれが秒読み。そういう流れ、雰囲気が出来つつあること。
それらは、全て、黒瀬さんが自分の意思で行っている可能性が非常に高いと言うこと。
そこまでを全部。話した。
それを聞いた司さんは、一つ息を吐いた。
そして、
「少年は私に怒られたいんだな」
と、言った。
「……はい」
俺は首を縦に振る。
「彼女が居るのに何してんだ。って怒られたい。そうやって自分を楽にしてやりたいんだな」
司さんは続ける。
「私は少年を怒らない。君は何一つ悪いことをしていない」
「……で、でも!!」
「彼女の朝練に付き添って登校することは悪いことか?早朝の教室で読書をすることは悪いことか?読書を趣味とする友人に本を貸すことは?一緒に本を読むことは?悪いことなのか?」
悪いことでは……無いかもしれない。
「そうだ。少年がした、ひとつひとつの行動全ては決して悪いことではない。では、少年よ。君は何が悪かったと思う?」
な、何が悪かった……
わ、わからない……
「わ、わかりません……」
そう言うと、司さんは笑った。
「君は本当に『女心』がわからないやつだな」
と言う。
女心がわからない……
それは、俺が黒瀬さんとしていたことを不安にさせないように朱里さんにも話すべきだったってことなのか?
い、言えるわけが無い。
朝練で朱里さんが居ない教室で、仮にも聖女様とまで言われる美少女と読書してたなんて。
「君がわかってない女心は何も愛しの彼女のことだけじゃないさ」
「……え?」
黒瀬さんって女の子の気持ちもわかっていないだろ?
「彼女がどれほど本気で少年を愛しているか。彼女が居ようが関係ない。君が本気で好きで愛してて何をしてでも君を手に入れる。そのくらいの、いや、もしかしたらそれ以上の気持ちかもしれない。というのをわかってなかっただろう?」
……か、考えたこともなかった
「少年は自分がどれほど男としての魅力が高いかの自認が無さすぎる。どうせ、俺なんかを好きになってくれる人なんて居ない。なんて思ってるだろ?」
「……近いことは」
司さんはため息を吐く。
「勉強も出来る。ユーモアもある。身体付きも良くなってきて、イケメンでオシャレで優しい。君は非の打ち所のない男だ」
「…………」
佐藤さんにも同じことを言われた。
そんな意識は微塵もないが、そう見えるらしい。
「黒瀬さんに限らず、君は知らず知らずのうちにたくさんの女の子を惚れさせてきたと思うよ。だが君は女心をわからないから、それに気が付かない」
「…………」
何も言えなかった。
「少年。君は今までたくさんの女の子からアプローチを受けてきたんだ。だけど君はそれに気が付いていなかった。そして、今。君は黒瀬さんを惚れさせてしまった」
「……はい」
「黒瀬さんは、今まで君が惚れさせてきた女の子たちとは違い、君が気が付くレベルでアプローチをかけてきた。そういう話のだけだ」
「……では、どうすればいいんですか?」
俺は司さんに答えを求めた。
「キチンと振ってやればいい」
「……え?」
司さんはひとつ息を吐き。言う。
「俺には彼女が居るから君とは付き合えない。古今東西。彼女が居るのに女に惚れられた男はこうして断ってきたはずだ」
「……で、でも。まだ俺は黒瀬さんに告白をされてない」
その言葉に司さんはニヤリと笑う。
「少年よ。思い合う男女が恋人同士になるために必要な儀式が告白だ。それをしなければただの両片想いだ。君はそう言うラブコメライトノベルが好きだろう?つまり、告白されてなければ恋人同士ではない。そして、黒瀬さんが告白してきても、君は毅然とした態度で断ればいい」
クラスメイトがなんだ。
空気がなんだ。
雰囲気に流されるな。
少年が心から愛する女性は誰だ。
「君さえぶれなければ、いくらそんな雰囲気が出来ていたとしても、それはただのまやかしに過ぎない」
「目からウロコです……」
そうだ。いくらクラスメイトに言われようが、俺の彼女は朱里さんだ。
黒瀬さんは嘘を言えない以上、どこかで俺に恋人同士になりましょうと言わなければならない。
俺はそれを断ればいいだけだ。
「まぁ、黒瀬さんのことだ。決定的なセリフはなかなか言わないはずだ」
「はい」
「少年は今の空気に流されず、しっかりと自分を持つんだな。そして、愛しの彼女にはたっぷり愛を囁いてやれ」
「はい!!」
時間を見ると、もうすぐ十七時だった。
「よし。少年はトイレ掃除だ。今日は私の当番だったが、君がやりたまえ」
「そのくらいならお易い御用です!!」
俺はビシッと敬礼をする。
「では、少年よ頑張れよ!!」
司さんありがとうございます!!
俺は司さんのアドバイスを受けて気持ちを軽くして、仕事を始めた。
トイレは……誰かが吐いたのか、すごい汚れていた。
え?司さん……知ってて?
「……珍しいな。少年の方から私に『相談したいことがある』なんて言うのは」
昼休憩から戻って来ても、教室の雰囲気に変わりはなかった。
どうやら早めに学食から戻って来ていた黒瀬さんが、教室でクラスメイトと談笑していたからだ。
もちろん。内容は俺とのこと。
それも、全部本当のことだからたちが悪かった。
否定することも出来ず、まるで『俺と黒瀬さんが付き合う流れ』というものが出来つつあるように思えた。
外堀が、どんどん埋められている……
名前で呼ぶ事を許したのが間違いだったのか……?
いや、あのタイミングでは断れない。
……全ては彼女の手のひらの上だったのか。
五時間目、六時間目を終え。ショートホームを終える。
「今日はバイトがあるから、学級日誌を任せてもいいかな?」
と言う俺の言葉に、黒瀬さんは微笑みながら答える。
「大丈夫ですよ。お仕事、頑張ってくださいね」
まるで正妻が夫を朝送り出すような言葉に、クラスメイトが沸き立つ。
「……っ!!ありがとう。じゃあまた明日」
俺は逃げるようにして、教室から出て行った。
ようやく今日が終わった。
そんなことを思っていた。
……まだまだ全然。
今日は終わってないのに。
油断していたんだ。
あの教室を抜け出した時点で、あれほど人の言葉を聞かなければならない。忘れては行けない。
そう思っていたのに。
俺はまた大切なことを忘れていて、同じ間違いを、繰り返す。
十七時からのバイトを始める三十分ほど前に、俺はバイト先に来ていた。
そこのスタッフルームには、既に着替えを済ませた司さんが座っていた。
司さんには、あらかじめ俺の方から、
相談したいことがあります。三十分ほど時間を頂けませんか?
とメッセージを送っていた。
「ありがとうございます。司さん」
「まあ、可愛い弟の相談だ。お姉さんが話を聞いてやろう」
俺は、ありがとうございます。と言うと、
「弟呼びとお姉さんを自称することにツッコミがない。相当やられてるな、少年?」
「ははは……それをこれからお話します」
俺はそう言うと、司さんに事情を話した。
彼女の朝練に付き添って登校していたこと。
早朝の教室で読書をしていたら、黒瀬さんが来たこと。
そこで、本の貸す仲になったこと。
共に読書をする流れになったこと。
名前呼びを許したタイミングで、クラスメイトに見つかったこと。
自分には既に彼女がいる。とは言えない空気があること。
自分と黒瀬さんが付き合っている。もしくはそれが秒読み。そういう流れ、雰囲気が出来つつあること。
それらは、全て、黒瀬さんが自分の意思で行っている可能性が非常に高いと言うこと。
そこまでを全部。話した。
それを聞いた司さんは、一つ息を吐いた。
そして、
「少年は私に怒られたいんだな」
と、言った。
「……はい」
俺は首を縦に振る。
「彼女が居るのに何してんだ。って怒られたい。そうやって自分を楽にしてやりたいんだな」
司さんは続ける。
「私は少年を怒らない。君は何一つ悪いことをしていない」
「……で、でも!!」
「彼女の朝練に付き添って登校することは悪いことか?早朝の教室で読書をすることは悪いことか?読書を趣味とする友人に本を貸すことは?一緒に本を読むことは?悪いことなのか?」
悪いことでは……無いかもしれない。
「そうだ。少年がした、ひとつひとつの行動全ては決して悪いことではない。では、少年よ。君は何が悪かったと思う?」
な、何が悪かった……
わ、わからない……
「わ、わかりません……」
そう言うと、司さんは笑った。
「君は本当に『女心』がわからないやつだな」
と言う。
女心がわからない……
それは、俺が黒瀬さんとしていたことを不安にさせないように朱里さんにも話すべきだったってことなのか?
い、言えるわけが無い。
朝練で朱里さんが居ない教室で、仮にも聖女様とまで言われる美少女と読書してたなんて。
「君がわかってない女心は何も愛しの彼女のことだけじゃないさ」
「……え?」
黒瀬さんって女の子の気持ちもわかっていないだろ?
「彼女がどれほど本気で少年を愛しているか。彼女が居ようが関係ない。君が本気で好きで愛してて何をしてでも君を手に入れる。そのくらいの、いや、もしかしたらそれ以上の気持ちかもしれない。というのをわかってなかっただろう?」
……か、考えたこともなかった
「少年は自分がどれほど男としての魅力が高いかの自認が無さすぎる。どうせ、俺なんかを好きになってくれる人なんて居ない。なんて思ってるだろ?」
「……近いことは」
司さんはため息を吐く。
「勉強も出来る。ユーモアもある。身体付きも良くなってきて、イケメンでオシャレで優しい。君は非の打ち所のない男だ」
「…………」
佐藤さんにも同じことを言われた。
そんな意識は微塵もないが、そう見えるらしい。
「黒瀬さんに限らず、君は知らず知らずのうちにたくさんの女の子を惚れさせてきたと思うよ。だが君は女心をわからないから、それに気が付かない」
「…………」
何も言えなかった。
「少年。君は今までたくさんの女の子からアプローチを受けてきたんだ。だけど君はそれに気が付いていなかった。そして、今。君は黒瀬さんを惚れさせてしまった」
「……はい」
「黒瀬さんは、今まで君が惚れさせてきた女の子たちとは違い、君が気が付くレベルでアプローチをかけてきた。そういう話のだけだ」
「……では、どうすればいいんですか?」
俺は司さんに答えを求めた。
「キチンと振ってやればいい」
「……え?」
司さんはひとつ息を吐き。言う。
「俺には彼女が居るから君とは付き合えない。古今東西。彼女が居るのに女に惚れられた男はこうして断ってきたはずだ」
「……で、でも。まだ俺は黒瀬さんに告白をされてない」
その言葉に司さんはニヤリと笑う。
「少年よ。思い合う男女が恋人同士になるために必要な儀式が告白だ。それをしなければただの両片想いだ。君はそう言うラブコメライトノベルが好きだろう?つまり、告白されてなければ恋人同士ではない。そして、黒瀬さんが告白してきても、君は毅然とした態度で断ればいい」
クラスメイトがなんだ。
空気がなんだ。
雰囲気に流されるな。
少年が心から愛する女性は誰だ。
「君さえぶれなければ、いくらそんな雰囲気が出来ていたとしても、それはただのまやかしに過ぎない」
「目からウロコです……」
そうだ。いくらクラスメイトに言われようが、俺の彼女は朱里さんだ。
黒瀬さんは嘘を言えない以上、どこかで俺に恋人同士になりましょうと言わなければならない。
俺はそれを断ればいいだけだ。
「まぁ、黒瀬さんのことだ。決定的なセリフはなかなか言わないはずだ」
「はい」
「少年は今の空気に流されず、しっかりと自分を持つんだな。そして、愛しの彼女にはたっぷり愛を囁いてやれ」
「はい!!」
時間を見ると、もうすぐ十七時だった。
「よし。少年はトイレ掃除だ。今日は私の当番だったが、君がやりたまえ」
「そのくらいならお易い御用です!!」
俺はビシッと敬礼をする。
「では、少年よ頑張れよ!!」
司さんありがとうございます!!
俺は司さんのアドバイスを受けて気持ちを軽くして、仕事を始めた。
トイレは……誰かが吐いたのか、すごい汚れていた。
え?司さん……知ってて?
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