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4.泉での暮らしと魔族の襲来
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巨大な熊型モンスターの退治に成功した。
見知らぬ異世界。初めて体験する魔法を使っての戦闘に完勝。
やはり俺は天才。そう思わざるを得ない。
「そこそこやるようですね。私が力を貸しているのですから当然ですけど」
……なかなかに手厳しいな。
だが、まあ、今日はまだ初日。
シルフィア様が俺の才能に気づくには、日時が必要。
そういう事であれば、焦らずいくとしよう。
とぼとぼ泉へ戻る頃には、日は大きく傾き始めようとしていた。
「シルフィア様。今晩の宿はどうなります?」
「は? もう眠るというのですか? 初日からサボリですか?」
さすがにまだ眠るわけではないが、安全マージンは多いに越した事はない。
明るいうちに寝どころを確保しておくのが良いだろう。
お腹もふくれたしな。
「草むらでも木の上でも水の中でも。好きになさい」
なんとなくそんな予感はしていた。
妖精の泉の周りは自然そのもの。
文明的な建物も何も見当たらない。
ここは天国でも何でもない。ただの未開の地だ。
近くの木の枝に妖精さんが止まっている。
まるで鳥か何かか。枝の上で休むとは器用なものだ。
もちろん俺に真似できるはずがない。
無難に草むらで眠るしかないわけだが、危険はないのだろうか?
「平気です。水を飲みにモンスターが訪れる程度ですから」
全く平気ではない。
妖精さんが高い場所で休むという事は、地上は危険だという事。
いかに最強魔法使いといえど、寝込みを襲われてはイチコロだ。
やむをえない……未開の蛮人に文明を伝えるのは文明人の役割というわけか。
「走れ。真空の衝撃。ウインド・カッター!」
手近な樹の幹へと風の刃を叩きつける。
ズバーッン……ドサーッ
さすがの切れ味。
大きな樹であっても、あっという間に切り倒すことが出来た。
「錯乱でもしましたか? いきなり自然を破壊するだなんて」
天才たる俺が錯乱するなどありえない話。
「いでよ。凍結の刃。アイシクル・ナイフ!」
切り倒した木をスパスパ成型。
さらには付近の木々から蔦を切り集め、木と蔦で小屋を建てる。ベッドを作る。
斬る手段さえあれば案外なんとかなるもの。
自慢ではないが俺はプラモデル作りが好きで、工作は得意な方なのだ。
不格好ながらも寝起き可能な住居の完成である。
「……本当に不格好ですね。なぜ小屋に足が4本もあるのです?」
それは土台に4本の柱を使用。
地面から高い位置に床を組んだ、高床式住居であるからだ。
血を這う昆虫や害虫の侵入を阻むと同時に、いつ泉が氾濫しても水没しないよう、高所に住居を構えた、まさに人類の英知がこもった小屋である。
「へーえ……英知というには、中はベッドしかありませんね」
するりとよじ登り住居へ入り込むシルフィア様。
意外に興味津々のようである。
「このベッド硬いわっ……これでは地面の方がマシというものです」
時間がないのだから仕方がない。
後日、葉っぱを集めてクッションになるか試してみるとしよう。
しかし、何故俺のベッドで寝ているのだろう?
「……あら? 私を敬うための神殿を作っていたのではなくて?」
全く違うのだが、確かにそれも必要か。
神様ではないとしても、精霊様も似たようなもの。
敬い奉れば、俺にも何かご利益があるかもしれない。
ただし──
「すみません。それはまた後日、たっぷり時間をかけてという事で……」
建築に時間をかけたため、もう日が暮れる。今日は無理である。
精霊様のシルフィア様にふさわしい神殿を作るには時間が必要。
その理由で何とか納得してもらうしかない。
「仕方ありませんね」
渋々ベッドを立ち上がるシルフィア様をすり抜け、ベッドに身体を落ち着ける。
……これは確かに硬い。
それでも地べたで寝るよりは気分的にマシか。
慣れない異世界。疲れがたまっていたのか、俺はそのまま眠りについていた。
異世界に来て数日が経過した。
当初は俺の鍛錬に同行してくれていたシルフィア様だったが、次第に飽きたのか、最近は俺1人での鍛錬が続いていた。
その甲斐あって魔法の扱いにも慣れ、もはや近辺に俺と対等に戦える敵はいない。
今日も苦もなくモンスターを退治。
ここまでにして、妖精の泉に浸かり身体の疲れを癒すとしよう。
こちらの季節は……夏なのだろうか?
強い日差し。鍛錬で疲れた身体に冷たい水が心地よい。
「マサキー。マサキー」
「遊ぼうー。遊ぼうー」
泉の周囲を飛び回る妖精さんたち。
すっかりなついたのか俺の頭に飛び乗る者までいる。
こら。髪の毛を引っ張るんじゃない。
お仕置きとして、妖精さんに水をすくい投げる。
「うわっぷ。きゃははー」
何が楽しいのか水を浴びてはしゃぎまわる妖精さん。
まるで子供である。
こうしていると、魔族侵攻など遠い世界の話。
そう思える程に平和な日常。
妖精の暮らしは質素そのもの。
TVやゲームなどといった文明の利器もない。
森から食料を得、泉で喉を潤し、草木のベッドで眠る。
それだけだ。
それでも、子供のように元気な妖精さんたちを見ていると、こういうのんびりした暮らしも悪くない。
そう思える。
「でしたら遊んでいる場合ではありませんよ」
ザバーン
「うおっ?」
いきなり水の中からシルフィア様が顔を突き出し浮かび上がって来ていた。
「……何ですか? その化け物と遭遇したような声は?」
失礼だが声を上げるのも無理はない。
パニック映画じゃあるまいし、もう少し普通の登場をすれば良いものを。
「魔力サーチを常に意識すれば、私が水の中に潜んでいる事くらい分かるはずです」
妖精さんとの水浴びに夢中だったのだから仕方がない。
「そんな様では気づかないのも無理ありませんが、妖精の泉に近づく集団がいるようです」
……なんと!?
魔力サーチで周辺の魔力を探知する。
確かに……しかもその数は100を超えている。
「妖精の泉に近づくモンスターは、どう対応すれば良いでしょう?」
「水を飲むなどの休息行動であれば問題ありません。ですが、妖精の泉に敵対するようなら、誰であろうと慈悲はありません」
誰であろうと……それは人間でもって事なのだろうな。
「分かりました。ですがこれは……魔族ですかね?」
魔力サーチにおいて、敵対的な反応は赤くイメージされる。
現在、妖精の泉に近づこうとするモンスターの集団は、真っ赤に染まって見えていた。
「恐らくそうでしょう。ここまで敵意を持って泉に近づく集団は、他にいません」
シルフィア様のおっしゃっていた魔族侵攻。
遂に妖精の泉にまでやって来たというわけか。
となるとシルフィア様との契約。
妖精の泉を守る戦士となる。ここからが本番。
そのために今日まで鍛えてきたのだ。
泉で遊び回る妖精さんたち。
彼女たちも魔族の到来に気づいたのだろう。
「シルフィア様ーモンスターがくるよー」
「きけんーきけんー」
「せんそうはんたーい」
やっためたらに騒いでいた。
そういえばこの妖精さんたち。どの程度の強さなのだろう?
────────────────────────────────────
名前:妖精さん
体力:60
魔力:450
スキル:
光魔法: D
風魔法: C
水魔法: D
特殊スキル:
妖精の目(対象の心情をなんとなく読む。対象の能力をある程度調べる)
────────────────────────────────────
そこそこ強い。
というか……こんな小さな身体だというのに、体力が俺と一緒だと?
ま、まあ俺は魔法使い。知能派だし? 全然悔しくなど無いし。
そして、最初に俺の考えが読まれたのは、特殊スキル:妖精の目の効果。
精霊の目の下位互換といったところだが、それでも便利なスキルである。
「貴方たちは隠れていなさい」
「えーおいらも戦うぞー」
「ころされるーおかされるー」
「はーい。ばいばーい」
「広範囲魔法を使います。貴方たち。はっきりいって邪魔です」
「わかったー」
「まきこまれるーにげろー」
「がんばってー」
手を振る妖精さんたち。
全員が泉を離れ、どこかへ隠れ飛んで行ってしまった。
今さらではあるが……シルフィア様と知識を共有した俺でも、妖精さんに関する知識が全くない。
「疑問に思ったのですが、私は妖精さんに関する知識がありません。何か理由があるのでしょうか?」
「契約したからといって、私の知識を全て共有しているわけではありません。私が許可した範囲のみ共有しています」
妖精の泉を守る戦士となる。
だというのに、住人である妖精さんに関する知識を共有しないのは何故だろうか?
まあ、シルフィア様には何か考えあってのこと。
機嫌を損ねて契約を解除されては、たまらない。
今、考えるべきは近づく魔族の集団をどのように撃退するか。
しかし──
「これは……数が多すぎないですかね……」
泉に迫る赤の反応。
確認できる限りでも、その数はゆうに300を超え、まだまだ増え続けている。
「殲滅です。1匹たりとも逃さないように」
やる気満々のシルフィア様。
主人がそう言うのであれば俺に否やはない。
だが……俺の身体はこわばった様に震えていた。
シルフィア様の力を得た俺は最強の魔法使い。
いくら相手の数は多くとも、俺にとっては草刈りも同然。
ただの作業に終わるはずである。
それでも、俺とした事が足の震えを抑えられない。
これ程の数を相手に戦った経験など俺にはない。
そもそもが、異世界に来るまでの俺は普通のサラリーマン。
動物を殺した事すらなかったのだ。
足が震えるのも仕方のない事だろう。
泉を上がり、俺はシルフィア様を奉るために建てた少し豪華な小屋。
神殿というよりは神社。その社へと向かう。
せっかく建てたというのに、肝心のシルフィア様は俺の小屋に入り浸っているため、あまり活用されていないのが残念ではある。
その祭壇の前で手を合わせる。
神頼み。ならぬ精霊頼み。である。
俺は最強の魔法使い。
実際、付近のモンスターを相手にした経験から、戦える自信はある。
それでも、魔族となれば野生のモンスターとは勝手が異なるだろう。
何より、万が一にも負けるわけにはいかない。
もしも負ければ泉は失われ、妖精さんともお別れである。
俺は1度死んだ身。
だからこそ……今の平和な暮らしを失いたくはない。
そのためにも。
精霊様。シルフィア様。どうか力をお貸しください。
「まったく……祈るなら本人が目の前にいるでしょう?」
そう言って俺の前に仁王立ちするシルフィア様。
確かにもっともである。
何となく祈るとなると祭壇を前に祈るイメージ。
見た目が人間にも似たシルフィア様。
人間を対象に祈るなど頭になかったためだ。
「しゃんとしなさい」
地に膝を付く俺の前で屈みこむシルフィア様。
その唇が俺の額に触れていた。
「貴方は私が契約した相手。自信を持ちなさい」
額が熱い。これは魔力だ。
俺の身体を熱い魔力が駆け巡る。
初めてシルフィア様と契約を交わした時の。あの感覚。
力が湧き出る。勇気が湧きたつ。あの感覚。
「そうだ……俺は……シルフィア様の下僕にして天才魔法使い。マサキ」
天才である俺に恐れる者など何もない。
ならば、天才の名にふさわしく戦うのみである。
見知らぬ異世界。初めて体験する魔法を使っての戦闘に完勝。
やはり俺は天才。そう思わざるを得ない。
「そこそこやるようですね。私が力を貸しているのですから当然ですけど」
……なかなかに手厳しいな。
だが、まあ、今日はまだ初日。
シルフィア様が俺の才能に気づくには、日時が必要。
そういう事であれば、焦らずいくとしよう。
とぼとぼ泉へ戻る頃には、日は大きく傾き始めようとしていた。
「シルフィア様。今晩の宿はどうなります?」
「は? もう眠るというのですか? 初日からサボリですか?」
さすがにまだ眠るわけではないが、安全マージンは多いに越した事はない。
明るいうちに寝どころを確保しておくのが良いだろう。
お腹もふくれたしな。
「草むらでも木の上でも水の中でも。好きになさい」
なんとなくそんな予感はしていた。
妖精の泉の周りは自然そのもの。
文明的な建物も何も見当たらない。
ここは天国でも何でもない。ただの未開の地だ。
近くの木の枝に妖精さんが止まっている。
まるで鳥か何かか。枝の上で休むとは器用なものだ。
もちろん俺に真似できるはずがない。
無難に草むらで眠るしかないわけだが、危険はないのだろうか?
「平気です。水を飲みにモンスターが訪れる程度ですから」
全く平気ではない。
妖精さんが高い場所で休むという事は、地上は危険だという事。
いかに最強魔法使いといえど、寝込みを襲われてはイチコロだ。
やむをえない……未開の蛮人に文明を伝えるのは文明人の役割というわけか。
「走れ。真空の衝撃。ウインド・カッター!」
手近な樹の幹へと風の刃を叩きつける。
ズバーッン……ドサーッ
さすがの切れ味。
大きな樹であっても、あっという間に切り倒すことが出来た。
「錯乱でもしましたか? いきなり自然を破壊するだなんて」
天才たる俺が錯乱するなどありえない話。
「いでよ。凍結の刃。アイシクル・ナイフ!」
切り倒した木をスパスパ成型。
さらには付近の木々から蔦を切り集め、木と蔦で小屋を建てる。ベッドを作る。
斬る手段さえあれば案外なんとかなるもの。
自慢ではないが俺はプラモデル作りが好きで、工作は得意な方なのだ。
不格好ながらも寝起き可能な住居の完成である。
「……本当に不格好ですね。なぜ小屋に足が4本もあるのです?」
それは土台に4本の柱を使用。
地面から高い位置に床を組んだ、高床式住居であるからだ。
血を這う昆虫や害虫の侵入を阻むと同時に、いつ泉が氾濫しても水没しないよう、高所に住居を構えた、まさに人類の英知がこもった小屋である。
「へーえ……英知というには、中はベッドしかありませんね」
するりとよじ登り住居へ入り込むシルフィア様。
意外に興味津々のようである。
「このベッド硬いわっ……これでは地面の方がマシというものです」
時間がないのだから仕方がない。
後日、葉っぱを集めてクッションになるか試してみるとしよう。
しかし、何故俺のベッドで寝ているのだろう?
「……あら? 私を敬うための神殿を作っていたのではなくて?」
全く違うのだが、確かにそれも必要か。
神様ではないとしても、精霊様も似たようなもの。
敬い奉れば、俺にも何かご利益があるかもしれない。
ただし──
「すみません。それはまた後日、たっぷり時間をかけてという事で……」
建築に時間をかけたため、もう日が暮れる。今日は無理である。
精霊様のシルフィア様にふさわしい神殿を作るには時間が必要。
その理由で何とか納得してもらうしかない。
「仕方ありませんね」
渋々ベッドを立ち上がるシルフィア様をすり抜け、ベッドに身体を落ち着ける。
……これは確かに硬い。
それでも地べたで寝るよりは気分的にマシか。
慣れない異世界。疲れがたまっていたのか、俺はそのまま眠りについていた。
異世界に来て数日が経過した。
当初は俺の鍛錬に同行してくれていたシルフィア様だったが、次第に飽きたのか、最近は俺1人での鍛錬が続いていた。
その甲斐あって魔法の扱いにも慣れ、もはや近辺に俺と対等に戦える敵はいない。
今日も苦もなくモンスターを退治。
ここまでにして、妖精の泉に浸かり身体の疲れを癒すとしよう。
こちらの季節は……夏なのだろうか?
強い日差し。鍛錬で疲れた身体に冷たい水が心地よい。
「マサキー。マサキー」
「遊ぼうー。遊ぼうー」
泉の周囲を飛び回る妖精さんたち。
すっかりなついたのか俺の頭に飛び乗る者までいる。
こら。髪の毛を引っ張るんじゃない。
お仕置きとして、妖精さんに水をすくい投げる。
「うわっぷ。きゃははー」
何が楽しいのか水を浴びてはしゃぎまわる妖精さん。
まるで子供である。
こうしていると、魔族侵攻など遠い世界の話。
そう思える程に平和な日常。
妖精の暮らしは質素そのもの。
TVやゲームなどといった文明の利器もない。
森から食料を得、泉で喉を潤し、草木のベッドで眠る。
それだけだ。
それでも、子供のように元気な妖精さんたちを見ていると、こういうのんびりした暮らしも悪くない。
そう思える。
「でしたら遊んでいる場合ではありませんよ」
ザバーン
「うおっ?」
いきなり水の中からシルフィア様が顔を突き出し浮かび上がって来ていた。
「……何ですか? その化け物と遭遇したような声は?」
失礼だが声を上げるのも無理はない。
パニック映画じゃあるまいし、もう少し普通の登場をすれば良いものを。
「魔力サーチを常に意識すれば、私が水の中に潜んでいる事くらい分かるはずです」
妖精さんとの水浴びに夢中だったのだから仕方がない。
「そんな様では気づかないのも無理ありませんが、妖精の泉に近づく集団がいるようです」
……なんと!?
魔力サーチで周辺の魔力を探知する。
確かに……しかもその数は100を超えている。
「妖精の泉に近づくモンスターは、どう対応すれば良いでしょう?」
「水を飲むなどの休息行動であれば問題ありません。ですが、妖精の泉に敵対するようなら、誰であろうと慈悲はありません」
誰であろうと……それは人間でもって事なのだろうな。
「分かりました。ですがこれは……魔族ですかね?」
魔力サーチにおいて、敵対的な反応は赤くイメージされる。
現在、妖精の泉に近づこうとするモンスターの集団は、真っ赤に染まって見えていた。
「恐らくそうでしょう。ここまで敵意を持って泉に近づく集団は、他にいません」
シルフィア様のおっしゃっていた魔族侵攻。
遂に妖精の泉にまでやって来たというわけか。
となるとシルフィア様との契約。
妖精の泉を守る戦士となる。ここからが本番。
そのために今日まで鍛えてきたのだ。
泉で遊び回る妖精さんたち。
彼女たちも魔族の到来に気づいたのだろう。
「シルフィア様ーモンスターがくるよー」
「きけんーきけんー」
「せんそうはんたーい」
やっためたらに騒いでいた。
そういえばこの妖精さんたち。どの程度の強さなのだろう?
────────────────────────────────────
名前:妖精さん
体力:60
魔力:450
スキル:
光魔法: D
風魔法: C
水魔法: D
特殊スキル:
妖精の目(対象の心情をなんとなく読む。対象の能力をある程度調べる)
────────────────────────────────────
そこそこ強い。
というか……こんな小さな身体だというのに、体力が俺と一緒だと?
ま、まあ俺は魔法使い。知能派だし? 全然悔しくなど無いし。
そして、最初に俺の考えが読まれたのは、特殊スキル:妖精の目の効果。
精霊の目の下位互換といったところだが、それでも便利なスキルである。
「貴方たちは隠れていなさい」
「えーおいらも戦うぞー」
「ころされるーおかされるー」
「はーい。ばいばーい」
「広範囲魔法を使います。貴方たち。はっきりいって邪魔です」
「わかったー」
「まきこまれるーにげろー」
「がんばってー」
手を振る妖精さんたち。
全員が泉を離れ、どこかへ隠れ飛んで行ってしまった。
今さらではあるが……シルフィア様と知識を共有した俺でも、妖精さんに関する知識が全くない。
「疑問に思ったのですが、私は妖精さんに関する知識がありません。何か理由があるのでしょうか?」
「契約したからといって、私の知識を全て共有しているわけではありません。私が許可した範囲のみ共有しています」
妖精の泉を守る戦士となる。
だというのに、住人である妖精さんに関する知識を共有しないのは何故だろうか?
まあ、シルフィア様には何か考えあってのこと。
機嫌を損ねて契約を解除されては、たまらない。
今、考えるべきは近づく魔族の集団をどのように撃退するか。
しかし──
「これは……数が多すぎないですかね……」
泉に迫る赤の反応。
確認できる限りでも、その数はゆうに300を超え、まだまだ増え続けている。
「殲滅です。1匹たりとも逃さないように」
やる気満々のシルフィア様。
主人がそう言うのであれば俺に否やはない。
だが……俺の身体はこわばった様に震えていた。
シルフィア様の力を得た俺は最強の魔法使い。
いくら相手の数は多くとも、俺にとっては草刈りも同然。
ただの作業に終わるはずである。
それでも、俺とした事が足の震えを抑えられない。
これ程の数を相手に戦った経験など俺にはない。
そもそもが、異世界に来るまでの俺は普通のサラリーマン。
動物を殺した事すらなかったのだ。
足が震えるのも仕方のない事だろう。
泉を上がり、俺はシルフィア様を奉るために建てた少し豪華な小屋。
神殿というよりは神社。その社へと向かう。
せっかく建てたというのに、肝心のシルフィア様は俺の小屋に入り浸っているため、あまり活用されていないのが残念ではある。
その祭壇の前で手を合わせる。
神頼み。ならぬ精霊頼み。である。
俺は最強の魔法使い。
実際、付近のモンスターを相手にした経験から、戦える自信はある。
それでも、魔族となれば野生のモンスターとは勝手が異なるだろう。
何より、万が一にも負けるわけにはいかない。
もしも負ければ泉は失われ、妖精さんともお別れである。
俺は1度死んだ身。
だからこそ……今の平和な暮らしを失いたくはない。
そのためにも。
精霊様。シルフィア様。どうか力をお貸しください。
「まったく……祈るなら本人が目の前にいるでしょう?」
そう言って俺の前に仁王立ちするシルフィア様。
確かにもっともである。
何となく祈るとなると祭壇を前に祈るイメージ。
見た目が人間にも似たシルフィア様。
人間を対象に祈るなど頭になかったためだ。
「しゃんとしなさい」
地に膝を付く俺の前で屈みこむシルフィア様。
その唇が俺の額に触れていた。
「貴方は私が契約した相手。自信を持ちなさい」
額が熱い。これは魔力だ。
俺の身体を熱い魔力が駆け巡る。
初めてシルフィア様と契約を交わした時の。あの感覚。
力が湧き出る。勇気が湧きたつ。あの感覚。
「そうだ……俺は……シルフィア様の下僕にして天才魔法使い。マサキ」
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