精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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26.魔力爆発

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 藪を抜けたその先。
 開けた視界、その一面が真っ赤に染まる。

 夕暮れの光で。
 舞い散る血煙で。

 地面に倒れ伏すのは数十を超えるオークマンの死体。
 冒険者の死体。

 その中央に位置するのは、他より一際巨大なオークマン。

「オークウウウウウ!」

 ドスゥー

「うぎゃああっ」

 その手にもつ巨槍が冒険者の腹を貫き、吹き飛ばす。

────────────────────────────────────
名前:スーパーオークマン

体力:1000(1100)
魔力:350(900)
────────────────────────────────────

 他の個体とは格の異なる体力。魔力。
 奴こそがオークマンを率いるリーダー。
 この場における敵の総大将。

 どう見ようとも、今の俺より更に格上。
 やはり魔族の領域。
 一歩奥深く分け入るだけで、このような化け物が闊歩しているのだから。

 だが……困難の1つや2つ。
 あって当然。乗り越えねばならない試練。

 国を作るとはそれだけの偉業。
 ここで死ぬようなら、俺はそれだけの男。
 国作りなど元々成し得ない夢でしかなかったというだけ。

 そして──俺はここで留まるような男ではない。

「出し惜しみはなしで。シルフィア様!」

 俺の頭上に位置するシルフィア様。
 その手元から、ウインド・カッターが解き放たれる。

 同時。
 魔法を追いかけ、俺はスーパーオークマンの元へと全力で疾走する。

 バシーン

 魔力バリアによって散らされるウインド・カッター。
 弾きはしたが、その衝撃に怯むスーパーオークマン。

 ドカーン

 その巨体に俺の肩がめり込む。A級体当たり。

「ブヒイイィィ!」

 吹き飛び後ずさるスーパーオークマン。

 ドンドンッドンッ

 すかさず放たれるウインド・バレットによる追撃。
 シルフィア様の連射が、体勢を整えようとするスーパーオークマンの膝を穿つ。

「ブモッ?!」

 前のめりとなるその顎へ。

 ドゴオーーーッン

 全力パンチ。
 A級アッパーカットを打ち抜いた。

「ブギャアアアアアッッァ!」

 巨体が宙に浮く衝撃。
 顎を砕き前歯を叩き折り脳をも揺らす会心の一撃。
 いかにスーパーオークマンといえど、耐えられようはずがない。

 はずがないのだが……それを耐えるのが、スーパーがスーパーたる所以。

「ブヒイイィィ!」

 スーパーオークマンが手にする巨槍が振るわれる。

 後方にはね飛び、距離を開けると同時。
 俺もまた精霊ボックスから槍を取り出し、右手に構え直した。

 ガキーン ガキーン ガキーン

 1合。2合。3合……
 互いが槍を振るい、打ちあう中。

「ミーシャ! ミーシャぁぁぁ……あぁ」

 背後に聞こえるアリサの嗚咽。
 が、今は気にする余裕もない。

 スーパーオークマンが操る巨槍。
 まるで重量を感じさせない、その槍さばき。

 熟練冒険者パーティとの交戦で。
 俺のA級アッパーカットでかなりの大ダメージを負っているはず。

 それにもかかわらず、いっこうに衰えを見せない槍さばき。

 打ち砕いた顎から流れる血が止まっていた。
 砕けた前歯までもが、すでに治りつつある。

 体力自動回復スキル。
 野郎も。スーパーオークマンも習得しているというわけか。

 ガキーン ズガシャーン

 俺の右手の槍が弾かれ、手元から離れ飛ぶ。
 わずか5合。打ちあっただけだというのに。

 いくら槍スキルを習得したといっても、それは雑魚オークマンが持つスキル。
 リーダー格たるスーパーオークマンが持つ槍スキルとは、練度が違いすぎる。
 このまま近接戦闘を続けたのでは、勝ち目はない。

 ドズバァッ

 寸での所で脇をかすめる巨槍。
 それでも脇腹の肉が、ごっそりと削られる。
 が、おかげで懐に入り込めた。

 ドカーンッ

 俺の突き出す腕が、A級パンチが。
 スーパーオークマンの突き出た腹。
 その鳩尾を殴り飛ばす。

「シル様っ!」

 殴ると同時。

 ドシャー

 まるで消防車の放水を思わせる強烈な放水が、俺の拳から放たれる。

「ブヒー?!」

 無詠唱による接射魔法。 
 水魔法ウオーター・ジェット。

 至近から放水を受けてスーパーオークマンの巨体が後ずさる。

 俺が詠唱したのでは間に合わない。
 シルフィア様。精霊様だけが成し得る超高等技術。
 それが詠唱なしで魔法を即時発動する。無詠唱魔法。

 名前をお呼びする暇もない。
 シル様など短縮したが、怒らないでくださいよ。

 ドンドンッ

 距離の離れたスーパーオークマンへと。
 すかさず頭上から追撃するシルフィア様。
 耳を打つその音が、ウインド・バレットの発射間隔が早まっていく。

 ドンドンッドッドッドッドッドッ

 もはやバレットというレベルにない。
 その連射密度は、まるでマシンガン。

 風魔法 ウインド・マシンガン

 ドッドッドッドッドッ

 音を立ててスーパーオークマンを打つ魔法。
 お互いの魔力差から、遠距離からの魔法攻撃は、全て魔法バリアに防がれる。
 それでも──

────────────────────────────────────
名前:スーパーオークマン

体力:900(1100)
魔力:200(900)
────────────────────────────────────

 魔力バリアで魔法を弾くにも、自身の魔力を消費する。

 相対したその時。
 冒険者パーティと交戦したにも関わらず、スーパーオークマンの体力はほとんど減少していなかった。
 半面。その魔力は半分以下へと減少。

 つまり、スーパーオークマンは、体力自動回復を持つが、魔力を回復する術を持たない。

 パクリ

 新たに魔石を口にするシルフィア様。

 そして、光合成。魔石を食べる。
 2つの魔力回復手段を持つ俺は。
 シルフィア様は、永遠に魔法を打ち続ける事ができる。

 確かにスーパーオークマンは格上の相手。
 しかし、天才軍師たる俺が勝ち目もなく。
 貴様に挑もうはずがない。

 ドッドッドッドッドッ

 間断なく放たれるシルフィア様の魔法攻撃。
 いくら貴様の力が強大だろうが、魔力を失くせば。

「ブヒイー!」

 遠距離からの魔法攻撃を嫌ったのだろう。
 一声吠えると、巨槍を構えて駆け寄るスーパーオークマン。

 巨体に似合わぬその速度。
 巨体に相応しいその圧力。

 ドッドッドッドッドッ
 カン カン カン カン

 迫る風弾。全てを弾き飛ばして迫り来るランスチャージ。

 野郎との接近戦は無理だと。
 先ほど槍を打ちあって分かったばかり。
 野郎の接近を許しては圧殺されるだけ。

「加速する。風の力。ウインド・ブースト!」

 圧縮空気を噴射しての加速。
 スーパーオークマンが駆け寄るより早く。
 俺はその場を風のごとく離脱する。

 俺の、シルフィア様の得意属性は風。
 疾きこと風の如し。
 その速度こそが、風属性の真骨頂。

「ブヒッ! ブヒイイイイイー!」

 業を煮やしたか、巨槍を手にスーパーオークマンが魔法を詠唱する。

「ブヒーブヒブヒブヒ・ブヒヒー!」

 巨槍の先から迸るのは炎の渦。
 炎魔法ファイアー・レーザーが、逃げる俺を追い詰める。

「放て。水の奔流。ウオーター・ジェット!」

 迫り来る炎目がけて、俺は手の平から水流を放水した。

 ドカーン バシャーン

 炎と水とが衝突。
 爆発的な蒸気が辺りに充満する。

 野郎が魔法を使えば使うほど。
 野郎が俺の魔法を押し返そうとすればするほど。
 野郎の魔力。その消費速度が早まるというもの。

 だからこその力比べ。ならぬ魔力比べ。

 俺の手の平から伸びる水と。
 野郎の巨槍から伸びる炎と。
 1つの線とつながる魔力が押し合いへし合い煙を散らす。

 野郎の魔力は残りわずか。
 冒険者パーティ。その善戦のおかげなのだから。
 野郎を倒すのは今。この時を置いて他にない。

 それでも互いの魔力差はいかんともしがたいレベル。
 俺の放つ水流は、野郎の炎に押し返され始めていた。

 突如。俺の頭を離れて、シルフィア様が宙を舞う。

「にゅー!」

 降り立つのは俺の右腕。
 跨るように鎮座したシルフィア様が魔法を詠唱する。

 その時。水と風が。
 俺の魔法とシルフィア様の魔法が、ぶつかり弾け飛ぶ。

 俺の唱えるウオーター・ジェット。
 シルフィア様の唱えるウインド・マシンガン。
 これは……2つの魔法の相乗効果か?

 その様は、まるで魔法の爆発──マジカル・バースト!

 【マジカルバースト・ウオーター・マシンガン】

 ドバッドバッドバッドバッドバシャー

 機関銃のごとき勢いで撃ちだされた水流。

「ブヒイィ?!」

 炎の渦を押し返し、野郎の魔力バリアを打ち砕き。
 スーパーオークマン。その巨体を続けざまに打ちつける。

 ドバッドバッドバッドバッドバシャー

「ブヒイィギャァァァ!!」

 巨体が吹き飛び、転がり、地面にへばりつく。

────────────────────────────────────
名前:スーパーオークマン

体力:900(1100)
魔力:0(900)
────────────────────────────────────

 魔力の尽きた今。
 強敵は雑魚へと成り下がる。

「走れ。真空の衝撃。ウインド・カッター!」

 スパーン

「ブヒイイィィッ!」

 魔力バリアを失ったスーパーオークマン。

 ドッドッドッドッドッ

「ブヒイイィィッ!」

 その身体は、風の刃で、風の弾丸でいとも容易く傷ついていく。

 魔力の尽きた今。
 野郎の持つ体力自動回復も用を成さない。

 ズバー

 俺の爪が。ひっかく爪が脂肪を深く切り裂いた。

 ガブー

 俺の腕を離れ、首に噛みつくシルフィア様の歯が、頸動脈を深く断ち切った。

 スッパーン

 アリサ将軍の手にする包丁が。

「ブギャアアアアア!」

 地面に横たわるスーパーオークマンの珍宝を刈り取った。

「アリサ将軍? ミーシャは?」

「……死んだよ」

 見渡す辺りは、死屍累々。
 血みどろの地面に横たわるオークマン。冒険者。
 そして……ミーシャ。

 ミーシャの胸元へ降り立つシルフィア様。
 治療魔法を詠唱するが……

────────────────────────────────────
名前:ミーシャ

体力:0(250)
魔力:0(100)
────────────────────────────────────

 精霊アイは全てを見通す精霊の目。
 無常にも俺の目に映るのは、動かぬ屍となったミーシャの姿。

 辺り一面、誰一人として動く者はない。
 豚男も。冒険者も。全て含めて、全て死んだのだ。
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