37 / 43
35.迎撃その3
しおりを挟む「ここからは私が指揮をとらせてもらう」
俺のパンチを受け、うずくまるギルドマスター。
ようやく豪華な馬車に乗り込む領主とその取り巻き達。
倒れたギルドマスターを抱え、俺は大股に馬車へと歩み寄る。
ドアを開け放ち、領主の首根っこをつかんで引きずり下ろした。
「だ、誰じゃ! 朕を領主と知っての狼藉であるか?」
何が朕か?
貴様のような腰抜け。
珍宝にすら劣る汚物。
「この馬車は徴収する。全員。降りろ。死にたくなければ走れ」
領主の家族や取り巻きだろう者たち。
その全員を馬車から追い散らす。
「マ、マサキさん? なんてことを……」
呆気にとられたように呟くケイン。
呆けている場合ではない。
「ケイン。怪我人を乗せて脱出しろ」
今。馬車を利用するべきは、領主の家族やその取り巻きではない。
怪我をした者たち。走れない者たちだ。
女子供には気の毒だが、誰もが走るのだ。
その代わり、走って逃げるだけの時間を。
俺が稼いでみせる。
領主の館。
のどかな村にあって、豪勢にも5階建ての高層建築。
「ひぎっ。は、放せ。放すのじゃ」
走って逃げようとする領主の首根っこをつかんで、館の中へ。
最上階。5階のテラスへと俺は走り登る。
階上から眺めるは、燃えゆく村。
踏みつぶされた柵。潰れた家屋。
平和だったトータス村は、もうどこにも存在しない。
逃げる民を。抵抗する兵士を。
追いすがり打ち付ける魔族の姿。
見える景色は地獄絵図。
これは指揮官の罪。
戦場において判断を誤ったがための末路。
その犠牲は、指揮官が償うべき責務。
領主の館。
その最上階から、俺は声高らかに宣言する。
「領主はここだ! ギルドマスターはここだ! 死にたい者だけ、かかって来い!」
今回の魔族の動き。
明らかに魔族の中のリーダーが。
知能ある者が指揮する統制された動きをしていた。
ならば、トータス村のリーダーである領主を。
ギルドマスターを見て、逃がそうはずがない。
戦場において、真っ先に討つべきは敵の指揮官。
いくら戦闘に勝利しようとも。
敵の指揮官を逃がしては意味がないからだ。
無秩序に暴れる魔族たち。
その群れが、領主の館を。
領主を逃がすまいと、その動きが変化する。
「マサキ。どうするのだー。逃げ場がなくなったぞー」
上等。
いまだ気絶するギルドマスターを叩き起こす。
「はっ?! き、貴様! 俺に、ギルドマスターに歯向かうか!」
元気なのは結構。だが……
「その元気は、魔族にぶつけていただきたい。見ろ」
眼下に見える魔族の群れが、十重二十重に取り囲む。
俺たちが居座る領主の館。
決して逃がしはしないと。
「お、おい! どういうことだ! これでは死ぬではないか!」
「ち、朕は死にとうない!」
誰だって死にたくはない。
俺だって死にたくはない。
稀に例外はいるが、普通はそうだ。
だが、死にたくなくとも。
まだ生きたくあろうとも。
死ぬのが戦争。魔族の襲撃。
貴様たちの指揮により、今日。
どれだけの命が失われたのか。
贅を尽くした領主の館。
建造するにどれだけの領民の支援があったのか。
「死にたくなければ戦え。生き残れば英雄だ」
今がその清算の時。
「ガガー!」
空中から襲い来るバードマンの群れ。
「うおお!」
剣を抜き放ち、切り捨てるギルドマスター。
さすがの腕前。たいしたものだ。
「ぎゃあああ!」
口ばしで突つかれ、悲鳴を上げる領主殿。
情けない。時間稼ぎにすらならないとは。
「ああっ! 領主どのがー!」
早くも死亡である。
「こ、これでは約束が……俺の出世が、褒美が、酒池肉林が……」
余計なことを考えるから、指揮がぶれるのだ。
指揮官が戦場において考えるのは、ただ勝つことだけ。
勝利の美酒。それこそが最高の報酬。
5階まで登りつめるモンスターの群れ。
ドアを蹴破り、テラスへと押し寄せる。
ドカーン
テラスに入る端からモンスターを叩きのめす。
狭い入口。狭い足場。
この階上であれば、同時に襲い掛かることはできない。
大型モンスターが、襲い来ることもできない。
俺はギルドマスターと並び、襲い来るモンスターを打ち倒していく。
魔族の群れが領主の館を取り囲む中。
街道をひた走る避難民の群れ。
負傷者を乗せて最後尾を守る馬車。
民は、兵士は、冒険者は、村を駆け出し逃げ出していた。
優秀な指揮官は、撤退戦でこそ輝くもの。
おとり作戦。
その目的は達成した。
そして、どうやらここが潮時。
ジジジ……
立てこもる5階のテラスで耳鳴りがする。
空気が、酸素が燃え、爆発するその予兆。
炎精霊。奴が地上から魔法を詠唱したのだ。
「シルフィア様。妖精さん。頼む」
飛びかかるサラマンダー男を叩きのめし、俺は5階から宙へ身を躍らせる。
「うにゅー!」
宙を舞う俺の身体。
その服をつかんで羽ばたくシルフィア様と妖精さん。
「お、おい! 貴様! どこへ行くのだ! お、俺を置いていくな!」
許せ。戦争に犠牲はつきものなのだ。
ドカドカドカーン
直後。
先ほどまでのテラスが粉みじんに砕け散る。
大爆発。
ギルドマスターの姿は炎の中にかき消えていった。
「ひー無茶だぞー重いぞー」
いくら2人がかりとはいえ、その小さな身体で、俺を持ち上げ飛ぶことはできない。
それでも、落下速度は大幅に減少。
緩やかに地上を目指して降下する。
「ガアーカアー!」
空中で俺たちを追撃するは、バードマン。
ドガシャーン
シルフィア様のウインド・ショットガンで弾け飛ぶ。
しかし、このまま地上に降りるならば、そこは魔族のただ中。
四方八方を取り囲まれ、なぶり殺しになるだけだ。
「吹け。風の突風。ウインド・ガスト!」
吹きすさぶ突風。
飛び越える。
魔族の群れ。
宙を滑空する俺たちの身体。
落着する。
村の外へ。
「うおー逃げるぞー」
着地と同時。一目散に逃げ出す妖精さん。
その頭を取り押さえる。
「うおーなにを考えているのだー」
それはこちらの台詞。
お前の分身。契約相手を忘れてどうする?
掘る掘る。
ザクザク
一目散に掘り出す。
「アーウー。うらめしやー。お前の肉をよこせー」
泥土に塗れ、穴から這い出るミーシャ。
まるでゾンビそのもの。
土に埋もれる間、思考までもがゾンビと化したか?
ポカリ
「アイタッ……アウ? アタシなにを?」
「しっかりしろ。いいから逃げるぞ」
「うおーのん気に掘ってるから、もう追いつかれるぞー」
いちいちうるさい奴だ。
そもそも、天才軍師たるこの俺が。
逃げ道を考慮せず、おとりとして残ろうはずがない。
駆ける先は村の南。
大陸を東西に流れる巨大な川。
その流れの行きつく先は王都。
迫る魔族を尻目に、俺たちは川へと身を躍らせる。
ザブーン
「アガウガ。この、アタシ泳ぎは苦手なんだってバ」
逃げる俺たちを追って、魔族どもが川に身を投げる。
ザブーン
「ひーあいつら川にまで」
馬鹿な連中だ。
地上とは全く勝手が異なるのが水中。
「回れ。暴虐の大渦。ウオーター・サイクロン」
俺が生み出すは大渦。
回転する渦に巻き込まれ、水を飲み込み、溺れる魔物たち。
無論。
俺たちも渦に巻き込まれる。
「アガウガ。い、息が……溺れ死ぬって……このバカ」
心配せずとも、すでに死んでいる。
そもそもゾンビは息をしない。
よって溺れ死ぬことはないという。
「アレ? 本当。よく考えれば苦しくも何ともないじゃなイ」
以前の戦いで俺もまた皮膚呼吸を習得している。
溺れるのは、追いかける魔物たちだけ。
俺たちは川の流れに身を任せるだけで、労せずして王都まで逃げおおせるというわけだ。
0
あなたにおすすめの小説
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる