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83.雨
しおりを挟む100/11/3(木)07:00 ファーの街
神の御使い。
元・親衛隊長は目の前で見た光景を信じられないでいた。
ファーの街を取り囲むオーガ獣5000匹。
もはや誰であっても街を守るのは不可能。そのはずであった。
それが、今や街の周囲にオーガ獣は1匹すら存在しない。
全てユウシャの仕業である。
目の前で目撃したユウシャの力。
オーガ獣1000匹を一撃で吹き飛ばす力。
この事実をいち早く王都に知らせねばならない。
アーティファクトを手に入れ、刀の扱いを極めた元・親衛隊長ですら、とても歯が立たない相手。
いや。そもそも相手にすらならない。
象とアリが戦うようなものだ。
しかも、元・親衛隊長が持つアーティファクトは、元々ユウシャが所持していた者。
恨みを買っているのは間違いない。
いち早く逃げ出す他に生きる道はない。
「……どこに行くの?」
「な、なんだ貴様は。邪魔だてするな!」
慌てて踵を返そうとする元・親衛隊長。
しかし、その行く手を遮る者がいた。
「駄目だよ。君のスマホはユウシャさんのもの。逃がすはずがないよ」
一見普通の少女にしか思えないが、ユウシャのクラン。
その副リーダーであるカモナーだった。
「これ! よさんか! 人間同士で争ってどうするのじゃ」
慌てて制止する領主。
せっかく街を襲うオーガ獣を撃退したというのに、これ以上血を流されては困る。
だが、その制止も聞かず元・親衛隊長は刀を抜き放つ。
そこに冷静な思考はない。
衆目の中で少女を叩き斬れば、いくら教会公認の神の御使いだとしても、その名声は地に落ちる。
ただでさえ教会が偽の御使いだと断じたユウシャが街の英雄となったばかり。
ここで暴力に走ったのでは、ますます教会の名を汚すだけにもかかわらず──
「ええい。うるさい」
暴虐の刀が振るわれた。
カキーン
「な、なんだと?」
「なんじゃと!?」
思わず同時に声が上がる。
抜き放つ刀が、圧倒的速度の抜刀が、硬質な金属音とともに受け流されていた。
スマホの力により刀スキルを極めたはずの親衛隊長。
その刀が一介の少女に防がれたのだ。
「残念だけど。僕の小剣スキルもLV5なんだ。そして君のLVは40で……僕のLVは50なんだ」
「? 何を言っている……まさか?!」
通常の異世界の住人には理解できない概念。レベル。スキル。
しかし、スマホを通じて、地球人であるタローシュを通じて、御使いたちは知っていた。
自分たちの能力が、全て数字としてスマホに表示されることを。
そして、通常、その数字は大きければ大きいほど優れているとされている。
今、カモナーと呼ばれる少女が口にしたLV40という数字は、元・親衛隊長の強さを示す数字。
「これ。見覚えあるよね?」
そう言った少女が懐から取り出した物。
手の平に納まるシルバーの端末。スマホ。
「そ! それは神のアーティファクト? 貴様も俺と同じ神の御使いなのか!」
であれば納得いく。
神のアーティファクト。スマホを持つのであれば数字の意味を知っているのも。
だが、あくまで知ることができるのは自身の数字のみ。
どうやって、他人の数字を知ったのか?
いや、それよりも、カモナーの口にするLV50という数字が本当なら。
「同じじゃないよ? だって君のスマホはユウシャさんのもの。だから」
ズバッ
「返してもらうよ」
一瞬にして親衛隊長の懐が切り裂かれていた。
鎧を切り裂き取り出したのは、元ユウシャのスマホ。そして──
「ぐはっ……み、見えなかっただと……? まさか本当に50なのか……」
元・親衛隊長の有する数字。LV40は英雄と呼ばれる強さに該当する。
この数字を超えるのは、タローシュただ1人。
このような辺境の街の、それも普通の少女がその数字を上回るなど。
「でも、これは要らない。返すね」
ドサッ
内臓だった。
「僕ね。ユウシャさんが死んだって聞いてたくさん泣いたんだ。でも僕には何もできない。怖かったんだ。次に殺されるのは僕の番だって」
一体どのような攻撃を受けたのか?
元・親衛隊長には、見えない速度の斬撃。
それでも、自分が死の淵まで追い込まれていることは分かった。
「お、おれの……ぐほっ……ゴ、ゴーレム! やれっ……」
このような場合のため、主人の身を守るために課金モンスターがいる。
「ゴーレムゥ!」
ドカーン
シルバーゴーレムの振り回す拳によって、城壁の一部が倒壊する。
凄まじいまでの破壊力。
力だけならオーガ獣のはるか上をいくのがSRモンスター。
だが、その速度はLV50のプレイヤーを捉えるには到らない。
飛び交う拳を身を低くしてかわしたカモナーは、一足飛びにゴーレムの頭上に飛び乗っていた。
「でもね。ファーの街にユウシャさんのスマホを持った君が来て。ユウシャさんは偽物の御使いで悪い奴なんだって。街のみんなが納得するのを見て。僕は思ったんだ」
課金モンスターとはいえ、あくまで召喚モンスターの一種。
そして、カモナーはサモナー。召喚魔法のエキスパート。
触れる手の平から魔法陣が広がると同時に、ゴーレムはその動きを止めていた。
「う、動けっ。ゴーレム……どうした……」
絶対服従を解除することは出来ないが、一時的に動きを止めることは出来る。
自身を捉える網を抜けようと必死に身震いを繰り返すゴーレム。
しかし、その献身は間に合わない。
「ユウシャさんは勇者で、僕はもちろん街の人たちも助けてもらったのに、おかしいよねって。命だけじゃなくて名誉まで、自分の行った行為まで嘘で塗りつぶされて、悪人として名前が残る。それは勇者を目指すユウシャさんにとって、死ぬより辛いことだって」
お腹をおさえてうずくまる元・親衛隊長。
その傍らまで歩み寄ったカモナーは、お腹へ小剣を捻じ込んだ。
ズドッ
「ごほうっ」
小剣を抜こうと柄を掴むが、押さえつける少女の腕はビクともしない。
「だからね。怖いけど泣いてる場合じゃないって。ユウシャさんの汚名だけは晴らそうって。そう決めたんだ」
時間と共に腕から力が抜け落ちる元・親衛隊長。
「な……なんで、俺がこんなところで……」
呼吸の停止とともに、その命が終わる。
呪縛から逃れようと抵抗するゴーレムもまた動きを止めていた。
「ゴーレム。主人はいなくなったけど、どうするの? 僕についてくる?」
サモナーの能力はモンスターには効果てきめん。
あらがえぬ魅力を持って心に響く。
「ゴレム」
膝をついたゴーレムは、問いかけにうなずきを返していた。
「うん。いい子だ。頑丈だしユウシャさんの壁にぴったりだねっ」
その一部始終を見たはずの領主は、未だに自分の目が信じられないでいた。
「お、お主は、お主はいったい?」
憐れな孤児だと思った少女が、神のアーティファクトを持つ神の御使いなど。
ましてや、元・親衛隊長とその使い魔が、なすすべなく倒されるほどの力を持つなど。
「領主さん。この人がユウシャさんを偽の御使いだと言った時。何も反論しなかったよね?」
領主は思わず冷や汗を流していた。
少女の身体から恐ろしいほどの冷気を感じる。
「あ、あれは……」
仕方のないことなのだ。国の決定なのだ。
たかが一領主に何が出来るというのか。
そう弁明したいが、領主の口は強張ったように動いてくれない。
ヘビに睨まれたカエルというのは、このような状態なのだろう。
「うん。仕方ないよね。国には逆らえないもの。でも、最後はユウシャさんを応援してくれた。だから──」
そう言って城壁から街を見下ろすカモナー。
その視線の先には、炎があった。
街に広がる炎。
オーガ獣を追い払ったとしても、街が燃え落ちたのでは意味がない。
ユウシャの応援に回った少女たち以外の者は、全員が消火作業に当たっていた。
「消火いそげー」
「もう魔力がねーって。魔法で水を出すのは限界や」
「井戸水があるだろう。魔力がないなら身体を使うんだよ」
「俺らは川から水を汲むぞ。バケツリレーや」
それでも、消火作業の進捗は芳しくない。
現代の消防車に該当するのが、魔法部隊による放水部隊。
オーガ獣との戦闘で魔力を使い切っていたのでは無理もない。
「許してあげる」
片手を天に掲げるカモナー。
その手のひらから膨大な水が天へと舞い昇り──
ポツリ ポツリ
「……ん? 雨か?」
「まさか。こんなに晴れているんだぜ?」
ドザーッ
──舞い落ちた。
「マジかよ」
「奇跡だ。きっと神の御使い様の奇跡だよ」
「助かったぜー」
今日という日は、いったいどういう日なのだろう。
常識外れのユウシャの力を見た後だというのに、この少女もまた常識外れ。
もはや常人である領主には理解の及ばない力。
まさしく神の力。この少女もまた神の御使いなのだと認めざるをえない。
つまり、ユウシャのクランには、神の御使いが2人いた。
1人はオーガ獣1000匹を一撃で消滅させる最強の男。
1人は元・親衛隊長を完封する強者にして水魔法を極めた少女。
「でも……もしまたユウシャさんを裏切るようなら……分かるよね?」
「う、うむ。うむうむうむ! もちろんですじゃ」
その御心に逆らうなど、考えるのも恐ろしいことだった。
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