楽園パスポート

鋼鉄の椎茸

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ミラクルビバーク 前編

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気温はマイナス22度。

あたりは一面真っ白で。

これはまさしくホワイトアウト。

頼みの綱のGPSは滑落した際に粉々になり、とりあえずはここでビバーク。

それにしても・・・

『二人揃って、滑落するなんてなぁ』

そう言って溜息したのは同期の沖野だった。

沖野は滑落した際、右足を捻挫したようだった。

患部は腫れていたので、水で濡らしたタオルハンカチを外気で凍らせたものを固定し、冷やしている。

いまは、カマクラの中で大人しくしていた。

「まぁ、そんなにぼやくなよ。滑落して、私は打撲、君は捻挫ですんでいるんだから。これだけでもかなり幸運だったじゃないか」

滑落で骨折しなかったのは、非常に大きい。悪条件は少ない方が生存率も上がるのだ。

『まぁ、骨折してないだけ、マシではあるな。しかし悪いな高杉、これだと当分歩けそうにはないよ』

そう言って沖野は、らしくもなく済まなそうにしていた。

「気に病むなよ。こんな天気じゃどのみち移動はできないさ」



さて、外気の冷たさは依然として厳しいので、私もカマクラの中に戻った。

ビバークし始めてまだ7時間。

ホワイトアウトは穏やかになる気配もなく視界不良は続いていた。

そろそろ太陽が沈む。

冬山の夜といえば、言うまでもない。

恐ろしい低温の世界となる。

まぁ、カマクラの中は思ったよりも暖かいし、寝袋も厚めのものがある。

携行食も余分に持って来たし、水はまわりにどれだけでもあるし・・・。

そう考えて自らを鼓舞するものの・・・



現実として、固形燃料があとどれだけ持つのか、
救助が来るのはいつになるのか、


問題は山積みである。


ふと気づくと、沖野が寝息を立てていた。どうやら、疲労しきっていたようだ。
捻挫の痛みもこたえたのだろう。

このまま天気が回復しなければ、沖野も自分も助からないかもしれない。


今できることは、睡眠で体力を回復することぐらいしかないな。

私は暗澹たる気持ちのまま眠りについたのだった。


そして、

しばらくして、眠りが覚めた。こんな状況では眠りも浅いはずだ。
私は目を閉じたまま寝返りをうつ。

・・・・・

・・・

・・

!?

ここは?

寝袋の中はこんなに広くない。

いや、それどころか顔をなでる空気が温かい。

ガバッと起き上がり、ポケットの中にあったLED灯で周囲を照らすと、今いるのは、どこぞやの温泉旅館の和室のようなところであった。

腕時計を見ると午前5時を回っていた。

思ったよりも長く寝ていたらしい。

「おい、沖野!!」

突然の異変。

少し怖くなった私は、
近くにいるだろう沖野に向かって大声で呼びかける。

『なんだよ、うるさいなぁ・・・
って、・・何事!?』

あぁ。

自分以外の人間がひどく驚いているのを見ると、案外冷静でいられるものだな。

さっきより少し落ち着いた私は答えた。

「我々は、どうやらあの場所から移動したらしい」





電気をつけるとこの部屋は随分と見事なものだった。

座卓は新調したばかりのようにキレイで、障子も張り替えたばかりのように真っ白で、もちろんどこにも破れはない。

畳も全く痛んでいないうえに、埃や髪の毛一本さえも落ちていなかった。

それどころか、今気がついたのだが、ポットにはお湯が沸かされていて、急須、茶筒も使えるばっかりになっていた。

まるで、我々をもてなしているかのように。

そして・・・

『おい、高杉!手紙が置いてあるぞ』

「えっ?どれどれ?」


《隣のお部屋は食堂です
    その隣には大浴場
    トイレはこの部屋のわきの方に
    小さな扉があるのでそちらから。
    お荷物はテーブルの
    わきに置いてあります。
    吹雪が晴れるまでごゆっくりどうぞ。
    from 大精霊》

「お風呂?」
『食事?』

ちょっと待て!
ち、ちょっと、たんま!!

冷静に、冷静になって考えればだ、

『こんなことあってたまるかよ!
ここはホワイトアウトの雪山の中だぜ?
この暖かい部屋といい・・・まさか、俺たち、既に凍死してる・・・なんてことないよな?』

おい沖野、今私が言おうとしていた事を全て言うなよ。
おかげで、また少し冷静さを取り戻せたじゃないか。

しかし、

「全くもって、不可解な状況だけど、我々は確かに生存しているし、ここにたどり着いて幸運だったのは間違いないだろう。

ここまで来られた経緯は謎に包まれているけれども、そもそも害意があるのなら、あの状況であれば、放っておけばいいのだから・・・」
 
そう言う訳で、我々2人は、この手紙を信用する事にした。

そして、食堂へのドアを開いた。



洋間があり、中央に大きなテーブルと椅子があった。
広さは、10畳といったところか。

他に家具は見当たらないので、随分と広く見えた。

『おい、テーブルの上に、手紙があるぞ。』

沖野が手にした手紙の文章は短く、

《この手紙の余白に、なんでも食べたいものを書いて下さい。先にお風呂をどうぞ》

とあった。

もう、なんか本当に用意してもらえそうな感じだし、思い切って好きなもの書いちゃえっ!

とまぁ、書きましたとも。

沖野のリクエストも聞きながら。

ただ、・・・

私はそれよりも・・・

『食事もいいけど、お風呂入りたい、お風呂。
空腹も辛いんだけど、
手足の凍傷を先になんとかしたい!』

「沖野、おまえなぁ・・・」

またしても、私のセリフを奪いやがって・・・。

と思いつつも

「それには私も賛成だ!!」

我々は食堂で全裸になると、勢いよく、隣にあると言う、浴室の扉を開けたのだった。
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