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プロローグ
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机の上には大量の書類が置かれていた。
無造作に置かれた書類の山は、それらが未処理のままである事を物語っていた。
さて、この机の持主は、というと、先程から席を立ち、不在にしていた。
今書庫の整理と称して、自分以外の誰も居ない書庫の中で、キャラメルを食べている男が一人。
彼の名前はテイラー。
香辛料を取り扱う商社、リンドベル商会の記帳係兼雑用である。
彼はキャラメル食べ終えると、今度はナッツをつまみ出した。どこから取り出したのか、茶色い紙袋をガサゴソとしながら一粒、また一粒とつまんで行くのである。テイラーが持っているナッツは油で揚げだ後に塩がまぶされているものだった。指を油だらけにしながら、しばらくの間のんびりナッツを食べていた。
無人の書庫の中では人目を気にしなくても良いものの、椅子がないので、少々くたびれるようだった。
テイラーは書棚から厚手の高価そうな本を5冊取り出すと、地面の上に重ねて、丁度いい高さの椅子にした。
彼は、機転が利き、柔軟性に富んだ性格なのである。
その後、30分以上座り続けた、思ったよりも座り心地の良い紙製の椅子は上司の帰還予定の数分前には書棚にしまわれることとなった。
用意周到なテイラーは、上司が執務室に戻るころには自席に戻り、記帳作業に勤しむ振りをしていたのだった。
おっといけない。とテイラーが机の上からそっと、どかしたのは、指についた油を拭い去るのに使った数ページ分の顧客名簿である。
これをゴミ箱に捨てたいまこの瞬間、完璧な隠蔽が成立する。
願わくば、何か不祥事が起きた際には、テイラー、彼にこそ活躍していただきたい。
彼の証拠隠蔽能力をもってすれば、きっと翌朝の朝刊の一面は、リンドベル商会が勝ち取る事だろう。
終業のベルが鳴ると、テイラーは、彼の上司であるポーリン氏に呼び出しを受けた。
ポーリン氏は事あるごとにテイラーを棒立ちにさせ、叱責するのだった。
今回は記帳ミスについて。
仕事上のミスに限らず、この男はテイラーを叱責するのが好きらしい。
テイラーは一時期、ポーリン氏から歪んだ形での愛情を向けられているのではないかと、心配した事すらある。
もちろんそんな事はなく、テイラーの中でも、ポーリン氏は気分障害の持病でも抱えているのだろうという事になっている。
そんなわけで、最近のテイラーは、ポーリン氏の叱責をいささか寛容な気持ちで受け取ることが出来るようになった。
彼は、他人に対する思いやり溢れる男なのである。
無造作に置かれた書類の山は、それらが未処理のままである事を物語っていた。
さて、この机の持主は、というと、先程から席を立ち、不在にしていた。
今書庫の整理と称して、自分以外の誰も居ない書庫の中で、キャラメルを食べている男が一人。
彼の名前はテイラー。
香辛料を取り扱う商社、リンドベル商会の記帳係兼雑用である。
彼はキャラメル食べ終えると、今度はナッツをつまみ出した。どこから取り出したのか、茶色い紙袋をガサゴソとしながら一粒、また一粒とつまんで行くのである。テイラーが持っているナッツは油で揚げだ後に塩がまぶされているものだった。指を油だらけにしながら、しばらくの間のんびりナッツを食べていた。
無人の書庫の中では人目を気にしなくても良いものの、椅子がないので、少々くたびれるようだった。
テイラーは書棚から厚手の高価そうな本を5冊取り出すと、地面の上に重ねて、丁度いい高さの椅子にした。
彼は、機転が利き、柔軟性に富んだ性格なのである。
その後、30分以上座り続けた、思ったよりも座り心地の良い紙製の椅子は上司の帰還予定の数分前には書棚にしまわれることとなった。
用意周到なテイラーは、上司が執務室に戻るころには自席に戻り、記帳作業に勤しむ振りをしていたのだった。
おっといけない。とテイラーが机の上からそっと、どかしたのは、指についた油を拭い去るのに使った数ページ分の顧客名簿である。
これをゴミ箱に捨てたいまこの瞬間、完璧な隠蔽が成立する。
願わくば、何か不祥事が起きた際には、テイラー、彼にこそ活躍していただきたい。
彼の証拠隠蔽能力をもってすれば、きっと翌朝の朝刊の一面は、リンドベル商会が勝ち取る事だろう。
終業のベルが鳴ると、テイラーは、彼の上司であるポーリン氏に呼び出しを受けた。
ポーリン氏は事あるごとにテイラーを棒立ちにさせ、叱責するのだった。
今回は記帳ミスについて。
仕事上のミスに限らず、この男はテイラーを叱責するのが好きらしい。
テイラーは一時期、ポーリン氏から歪んだ形での愛情を向けられているのではないかと、心配した事すらある。
もちろんそんな事はなく、テイラーの中でも、ポーリン氏は気分障害の持病でも抱えているのだろうという事になっている。
そんなわけで、最近のテイラーは、ポーリン氏の叱責をいささか寛容な気持ちで受け取ることが出来るようになった。
彼は、他人に対する思いやり溢れる男なのである。
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