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第四章:ギルドの暗部 – 黒の指揮官と“スタンピード”序曲
第26話 秘密の調整室
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遠く王都の冒険者ギルド本拠地では、先刻の幹部会合を終えた指揮官が、重厚な扉の外側を一人で歩いていた。廊下の奥はさらに薄暗く、不自然なほど冷気が立ち込めている。足を踏み出すたび革靴が床を踏み鳴らし、その硬い音が高く反響する。周囲には誰もいないためか、指揮官はひそやかに口を開き、まるで誰かと対話するかのごとく言葉を吐き出した。
「……本国との連絡は絶たれたが、装置だけは何とか稼働している。ただ、オークの居残りが手間どるかもしれん。邪魔が入らないよう下級をけしかけても、あまり成果が芳しくない。クソ、油断するなよ」
男の声には、どこか異様な響きが混ざっていた。まるで“この世界”の言語を無理矢理変換して使っているような、不自然なイントネーションがところどころ混じっている。ほんの数秒後、彼はポケットから奇妙な金属片を取り出し、それに視線を落とす。小型の板のようにも見えるが、表面は砕け散ったガラスのような痕跡が残され、機能しなくなった機器なのかもしれない。男はそれをじっと睨みつけるように握り、薄く唇を歪めた。
「こんな片田舎で……。だが、やるしかない。俺の“能力”が本当に評価されるのは、ここしかないんだ……。戻ったところで、あんな暮らしに逆戻りするだけだからな」
言葉を呑み込むようにして、彼は六方全てを睥睨(へいげい)する。その瞳には焦りと苛立ち、そして執着の色が混在していた。壁際には巨大な樽や箱が並び、中には鋼鉄製の部品らしきものや、一見して“異世界には存在しないはずの”フォントで記された書類が突っ込まれている。男はそれらを横目に通り過ぎると、冷たく閉ざされた鉄扉の前で足を止めた。
「――呼ばれてるな。結局、あのバカどもは俺の計画に乗るしか選択肢がない。……行くか」
扉をゆっくりと押し開けると、そこには巨大な魔術陣のような床絵と、見慣れない装置群がずらりと並んでいた。魔術と科学が入り混じったような不気味な空間だ。奥には慌ただしく計測装置を調整しているローブ姿の人間が数名見える。男を見るなりぴくりと動きを止め、「指揮官殿……」と恐縮した様子で頭を下げる。
「スタビライザーの状況は?」
男が無表情のまま問いかけると、ローブの一人が額の汗を拭いつつ声を上ずらせて答えた。
「急ぎ調整中ですが、出力が不安定で……。仰せの通り、森全域に影響を与えるべく出力を上げていますが、一部で制御が効かなくなり、無差別に魔物を興奮状態へ追い込んでしまっています。結果的に人間側の冒険者も予想以上に被害を受けておりまして……」
「構わん。むしろ好都合だ。どいつもこいつも大量に流血すれば、恐怖と混乱がさらに拡大する。それこそがスタンピード誘発の鍵だからな」
男は断固とした口調で言い放つ。ローブ衆の中にはいやな顔をする者もいたが、彼に口答えできる者は一人もいない。鉄扉の向こう側で高鳴る奇妙な振動音がかすかに漏れ聞こえ、装置の回転音が脈打つように続いている。――スタビライザーと呼ばれるこの装置が、いかなる原理で魔物を狂わせているのか。普通のギルド幹部ですら到底理解できない技術だ。男はそれを自らの計略の要として活用し、王都も森もすべて掌握しようとしている。
「問題は、一部に“違和感のあるオーク”がいることか……。奴がもし“日本語”を理解しているような存在なら、やっかいだな。念のため、様子は見に行く必要があるだろう」
男は呟き、ポケットの中に金属片を戻し、その場を後にした。背後でローブ衆が再び調整を急ぐ音が響き渡る。ここはまさに、ギルドの暗部――「魔力」とはいえない未知の波動を組み合わせた装置によって、人類と魔物の戦いを意図的にあおり、自作自演の“救世主”を演じようというのだ。
「……本国との連絡は絶たれたが、装置だけは何とか稼働している。ただ、オークの居残りが手間どるかもしれん。邪魔が入らないよう下級をけしかけても、あまり成果が芳しくない。クソ、油断するなよ」
男の声には、どこか異様な響きが混ざっていた。まるで“この世界”の言語を無理矢理変換して使っているような、不自然なイントネーションがところどころ混じっている。ほんの数秒後、彼はポケットから奇妙な金属片を取り出し、それに視線を落とす。小型の板のようにも見えるが、表面は砕け散ったガラスのような痕跡が残され、機能しなくなった機器なのかもしれない。男はそれをじっと睨みつけるように握り、薄く唇を歪めた。
「こんな片田舎で……。だが、やるしかない。俺の“能力”が本当に評価されるのは、ここしかないんだ……。戻ったところで、あんな暮らしに逆戻りするだけだからな」
言葉を呑み込むようにして、彼は六方全てを睥睨(へいげい)する。その瞳には焦りと苛立ち、そして執着の色が混在していた。壁際には巨大な樽や箱が並び、中には鋼鉄製の部品らしきものや、一見して“異世界には存在しないはずの”フォントで記された書類が突っ込まれている。男はそれらを横目に通り過ぎると、冷たく閉ざされた鉄扉の前で足を止めた。
「――呼ばれてるな。結局、あのバカどもは俺の計画に乗るしか選択肢がない。……行くか」
扉をゆっくりと押し開けると、そこには巨大な魔術陣のような床絵と、見慣れない装置群がずらりと並んでいた。魔術と科学が入り混じったような不気味な空間だ。奥には慌ただしく計測装置を調整しているローブ姿の人間が数名見える。男を見るなりぴくりと動きを止め、「指揮官殿……」と恐縮した様子で頭を下げる。
「スタビライザーの状況は?」
男が無表情のまま問いかけると、ローブの一人が額の汗を拭いつつ声を上ずらせて答えた。
「急ぎ調整中ですが、出力が不安定で……。仰せの通り、森全域に影響を与えるべく出力を上げていますが、一部で制御が効かなくなり、無差別に魔物を興奮状態へ追い込んでしまっています。結果的に人間側の冒険者も予想以上に被害を受けておりまして……」
「構わん。むしろ好都合だ。どいつもこいつも大量に流血すれば、恐怖と混乱がさらに拡大する。それこそがスタンピード誘発の鍵だからな」
男は断固とした口調で言い放つ。ローブ衆の中にはいやな顔をする者もいたが、彼に口答えできる者は一人もいない。鉄扉の向こう側で高鳴る奇妙な振動音がかすかに漏れ聞こえ、装置の回転音が脈打つように続いている。――スタビライザーと呼ばれるこの装置が、いかなる原理で魔物を狂わせているのか。普通のギルド幹部ですら到底理解できない技術だ。男はそれを自らの計略の要として活用し、王都も森もすべて掌握しようとしている。
「問題は、一部に“違和感のあるオーク”がいることか……。奴がもし“日本語”を理解しているような存在なら、やっかいだな。念のため、様子は見に行く必要があるだろう」
男は呟き、ポケットの中に金属片を戻し、その場を後にした。背後でローブ衆が再び調整を急ぐ音が響き渡る。ここはまさに、ギルドの暗部――「魔力」とはいえない未知の波動を組み合わせた装置によって、人類と魔物の戦いを意図的にあおり、自作自演の“救世主”を演じようというのだ。
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