まだ部屋のないメイドです。

炭酸水『しっぽのきもち』

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ホテルの奇跡

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 ウォルカー・スタッドの父が所有するホテルの火災から三日が経った。ルナとマティー、フィンリーはスタッド家の屋敷に滞在していた。ホテルや不動産を生業としているスタッド家は、オークラルドの中心から馬車で半刻ほどの場所にあった。旧貴族の遺した屋敷を改築したものだった。

 ルナとマティーはホテル火災からの落ち着きを取り戻していた。二人はゲストルームでアフタヌーンティーを楽しんでいた。

「もうすぐ大学の冬休みが明けてしまうわね。住むところは決まったけど、家財が揃うのが遅れちゃったのは痛いわ」

 マティーはスコーンにジャムを塗りながら話す。ホテル火災で命からがらだったことよりも、ルナとフィンリーの暮らしの準備に意識が向いている。

 ホテルは全焼したが、誰一人死者は出なかった。オークラルドでは『奇跡』と言われていた。

「もう少し都会のアパートに入った方が大学も近くて良かったのに……」

 ルナがそう言うと、マティーは「ふうっ」と息を吐いた。

「フィンリーがわざわざ庭のついた家を借りたのは、あなたの仕事を増やしたかったからでしょうね。年始にはエッガー家のメイド長代行してたんでしょ? 他所にヘッドハンティングされたら困るものね」

「フィン……は、そんな事までマティーに話してるの? 」

 今度はルナがため息をついた。

「……ヤキモチ焼いたかしら? 」

「ちっとも」

「あらあら。ご馳走さま。公爵様ご公認なんだし、もうそのまま結婚しちゃいなさいよ」

「……け、結婚……? 」

 ルナは思い出して顔を真っ赤に茹で上げた。

 フィンリーにホテル火災の後ようやく秘密にしていた事を話した。人の命が見えてしまう事。フィンリーにその変化の兆しが見えた時が怖いという事を。

 フィンリーに連れられて借りた家を観に行った時だった。二人で家具の無い部屋を回り間取りを計っていた時に、ルナは打ち明けた。

「ルナは僕が死ぬ時が分かったら怖いって気持ちは、僕の、ルナが目の前から突然消えることを恐れてる気持ちと同じだと思うんだけど……違う? 」

 フィンリーは、じっとルナの目を見て話した。

「ルナ、ホテルの火災で君を失ったかと思った僕の気持ちも分かるよね? 」

 ルナをゆっくりと抱き寄せて、自分の胸にルナの頭を優しく押し付けた。

「自分が死んだ方がマシだと思った」

 フィンリーは呟いた。

「全部、自分のわがままなんだけどね」

「……私も、もう会えないかと思って怖かった」

 ルナの言葉にフィンリーは反応して、ルナの頬を両手で包んだ。躊躇いがちに目を合わせるルナの唇に吸い付く様に唇を重ねた。何度目か分からないキスに、ルナも素直に応じた。

 何度かキスを繰り返しているうちにフィンリーがルナとの身体の密着度を高くしていくと、ルナはフィンリーの背中に回した腕をばたつかせた。

「待って、待って! 」

 フィンリーが腕をほぐすと、ルナは恥ずかしくて顔を両手で隠した。

「はいはい」と言ってフィンリーはルナを緩めに抱き直して背中を優しく叩いた。



『今思い出しても恥ずかしい……』と、耳まで赤くするルナに、マティーは呆れた顔をして二人のカップに紅茶を注ぎ足した。

「なに思い出して照れてるのよ。こっちが恥ずかしいわよ」

 ポットをコツンと置いて紅茶を飲むとマティーが話題を変えた。

「あのホテルね、放火と言われてるわ。全焼してるからなかなか証拠が見つからないんだけど、私たちの部屋の下階からの出火だけど……空室もあって、入室していた客からは、タバコでも暖炉でも無いって」

 声のトーンを落としてマティーは話した。

「火元の目撃証言から、保険が下りないかも知れないわ。解体前とは言え、オーナーの自作自演と思われたら厄介ね……」

 マティーが目を伏せて静かに言い終えると、何を言わんかがルナにも分かるような気がした。





 

 
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