異世界攻略コントラクト[1]俺たち in the キングダム

喪にも煮

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8 お渡りってなんぞ?ガクブル

8-1

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 時を忘れて餌付けとおさわりに勤しんでる間に、気付けば夕方を告げる柔らかな色がバルコニーへと繋ぐ窓から室内を染めていた。
 テーブルの上の器の中身は空っぽ。俺の手のひらにあるチョコレートが最後の1個だ。
 俺はこの時を待っていた。この最後のひとつは俺自ら食わせる、そう決めている。そしてどさくさに紛れて触るのだ、さっきからちらちら顔を出しては隠れる、小向の恥ずかしがり屋なちっちゃい舌を。
 高揚して震えがきそうな手を制し、すばやくチョコレートを指先に移動させる。つまむ。息が弾んでしまった。落ち着け俺。今を逃すとこんなチャンス二度と訪れないかもしれないんだぞ。
 動きがぎこちなくならぬよう意識し、ゆっくりと手を持ち上げる。行き先は小向のピンクの割れ目、着地地点は小向のシャイな粘膜。心拍数も弾むが息も弾む。
 小向サイドも俺の意図を理解したのだろう、ラストチョコレートをじっと見つめたまま、受け入れ態勢に入ったのを肌で感じた。ノンストップ ゴー!ゴー!!
 距離が縮むのに比例して、小向の上唇と下唇の密着が綻びだす。
 だが、チョコレートが唇ゲートを潜り始めたその時、聞き覚えのある音が耳に飛び込んだ。小向と再会した時と同じ音だ。コンコンと無機質に、そして無慈悲に反響した。左寄りの胸の内側がばくんと大げさに伸縮した。
 間が悪い、邪魔するべからず。不意な出来事になさけなくも一瞬心臓を跳ね上げてしまったが、今の俺は一味違う、問題ない。一度体験しているおかげで結末は手に取るようにわかるけれども、少しでも時間を稼ごうと無視を決め込んだ。そう、あれはBGMだ。
 僅かな間に気持ちを仕切りなおして目標達成を目指した。ゴールは目前。だが小道具を1回確認しておこうと見た俺の指先にはなにもない。一方、もぐもぐしてる小向。……俺は何をしようとしていたのだ、冷静になって扉の向こうに返事を返した。別に、ガッカリなんてしてないんだから。


「殿下との顔合わせは今夜になりました。同衾を兼ねてお渡りなさるそうなので、くれぐれも粗相のないように」

「お渡りってなんぞ?」

「は?」

「雑巾を兼ねたお渡りとか、小向わかる?」

「雑巾やきゅう」

「ああ、あれな。俺はほうきを準備しときゃいいやつね」


 頷くことで同意を示す小向に自信がついた。掃除の時にふざけてやる遊びだと思っていたが、こちらでは王家が宣言して遊ぶほどちゃんとしたものらしい。
 雑巾野球とは雑巾を野球ボールに、ほうきをバットに見立て、その場にいる人数で即席に野球を模擬するスポーツだ。主に10代の男子学生に人気で、掃除のつまらなさから考案されたノリだけで始まり、空気で終わる、代表的な暇つぶしである。
 まぁどう考えても聞き間違いだろう。小向、ノリいいな。
 案の定意味がわからないながらも響きと我々の態度でおちょくってるのを感じ取った侍従は顔を歪めていた。
 いやでも、ないだろ、同衾とか。非童貞ナメんな。


「取り敢えずそういうのなしで。無理ですすいません」


 取ってつけたような謝罪を混ぜながらヘラヘラと断ったら、神経質そうな侍従の堪忍袋の緒を切ってしまったらしい。その後一時間にも渡る嫁のあり方という名のお説教が始まったのは言うまでもない。
 小一時間くどくどと絞られ、心身ともに困憊を極めた。
 要約すると、殿下に股を開くのは義務であり、つべこべ言わずにアナを差し出せと。なんて破廉恥な。現代っ子で男の子な俺にはちょっと受け入れがたいというかなんというか。いやそんな女の子ありだけども、男の立場だったら喜んじゃうけども。
 遂には小向とのくっつき方にも飛び火してもう散々だ。殿下の嫁の癖に使用人に股を開くとは何事かといちゃもんつけられた。股の間に小向座らせてたがそんなやましい雰囲気なかっただろ。想像力豊かすぎて戸惑う。
 そのせいで小向は面倒くさがり、寝ると言って続き部屋へと行ってしまった。使用人1人分は隣に部屋が用意されるらしく、俺のあてがわれた部屋と扉1枚で繋がっている。ご丁寧に部屋ごとにバスルームが完備されてるみたいで、小向が部屋に引っ込むときに侍従が説明してくれていた。相違があったらいけないと俺も聞いていたがなんのことはない、俺の知ってる入浴方法と同じでほっとする。シャンプー類も備え付けと至れり尽くせり状態だ。
 そうして言いたいことだけ言って、満足したのかもう用はないと踵を返した侍従。捨て台詞は"ご懐妊期待しております"。とどのつまり、どう足掻いても殿下とのめくるめく初夜は回避できないらしい。
 気を紛らわせようと入浴してみたが落ち着かず、無意味にソファーの周りを徘徊する。不安と焦りでプチパニックだ。タスケテ小向。
 いつの間にか小向がいるであろう隣へと繋がるドアの前に立っていた。ノックしてみたが返事はない。再度試みるが、無音で返す空間に虚しさが溢れる。


「……こむかーい」


 暫く待ってみたが独り言に終わった。もう寝てしまったのだろうか。いやもしかしたら専売特許の無視をしてるだけかもしれない。
 だからといって勝手に入るのはマナー違反だ。そんなこと分かっている。しかし焦燥にかられいても立ってもいられず、気付けば俺の手はドアノブを回していた。
 開閉した隙間から覗く室内は暗い。だが俺の背後から射し込む光で見えない程ではなかった。窓から取り入れられてる月の光も手伝ってそれなりに見渡せる。
 小向はやはりベッドに入っているようだった。あの侍従が空気を読まずに長々とお喋りしたせいだと恨みたくなる。
 にも関わらず、起きてる可能性に一縷の望みをかけてベッドに歩み寄る事にした。自分の目で確認しないと諦めきれない。往生際が悪いこと承知で、下手したら起こす気満々で歩を進める。
 たがベッドの上を目に捉えた瞬間、考えるより先にそそくさと逃げ戻ってそっとドアを閉めた。なんてこった、小向は全裸だった。扉側に背を向けて布団も被らず丸くなっていた姿はすっぽんぽん。
 もう何も考える気がおきず、ふらふらと天蓋付きの豪勢なベッドに横になった。なんの素材かは分からないが肌触りも寝心地も申し分ない。なのに手放しの安心感は与えてくれなかった。
 残念だが、今夜は寝れそうもない。
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