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第三章 GW明け~期末テスト
46.かっちゃん
綾部はえっとねー、と語り出す。
「その本の主人公は、かっちゃんと呼ばれる少年でね。……かっちゃんの家はそれなりにお金持ちなんだけど、かっちゃんは周りの人から疎まれてたわけ」
「何故」
「かっちゃんは、前妻さんの息子だったんだよー」
また……重いストーリーを持ち出してきたな。
俺は黙って先を促す。
「最初はかっちゃん本人もそのこと知らなくて頑張ってたんだけど、上手く行くはずなくて。んで、ある日その事実を知ったかっちゃんは何かどうでもよくなって、全寮制の男子中学に入れられたにも関わらず、昼は目立たないように学園生活を送って、夜、街に出て不良街道まっしぐら生活を送ってたんだよー」
「つまりグレた、と?」
「そうそう。街では周りから怖がれるわ同類から喧嘩売られるわ、荒れまくって。うん……今思うと見てられなかったよね」
目を伏せる綾部に、意外な気持ちを抱く。
こんなに感情移入するタイプだったんだな、綾部って。
「でもある日ね、かっちゃんに話し掛けてきた同学年の不良がいたんだよ。ソイツはかっちゃんと同じように如何にも不良な感じなのに、周りからは慕われてんの。ソイツの名前は……りっちゃん。りっちゃんは……ぶはっ」
「い、イキナリどうしたお前……」
「ごめ……、あまりにも似合わなくて……ぶふっ」
似合わないって……りっちゃんって名前が?
そんなに強面の中学生として描かれてたのかな。
笑いを収めた綾部は再び謝って続ける。
「えっと、りっちゃんはね、かっちゃんに言ったんだよ。一緒に学園荒らす馬鹿共をボコろうぜって」
「……成敗しようぜ、ってニュアンスで良いんだよな、それ」
「うん、そうだねー。それが中学二年生の春。でもかっちゃんは意味分かんねぇよ、ってりっちゃんを殴ろうとしたわけ。でも逆にボッコボコにされちゃってー」
笑えるよねー、という綾部に前言撤回したい。
コイツ、全然感情移入するタイプじゃなかったわ。
「街では名を馳せていた分、かっちゃんは驚いて。そんな彼にりっちゃんは言ったんだよ。どうせ燻るなら、結果的に良い方に向かうように力を振るえ……って」
「へぇ……。暴れるの止めろ、じゃなくて、どうせ暴れるなら悪い奴らをボコれ、って?」
「そう。綺麗事じゃなくて、現実的な提案だった。りっちゃんはかっちゃんに、逃げ道を作ってくれたんだよ」
綾部は背もたれに頭を乗せて天井を仰いだ。
逃げ道、か……逃げ道すらなかったんだな、かっちゃんとやらには。
「そんなことされたら、もう惚れるしかないよねー。あ、勿論仲間としてね。BL本の全部が全部バリバリ恋愛ってわけじゃないからー」
「ふーん、で? かっちゃんとやらはそれからどうしたんだよ」
「かっちゃんはりっちゃんと共に学園の不良たちを成敗しましたとも。でもねー、かっちゃんがねー」
「何だよ」
「いやー、何か、次は性的な方に走っちゃって」
「……はぁ?」
綾部が言うには、かっちゃんは可愛い系男子を性的な意味で食いまくったらしい。
以前の不良としての暴力は街でのことだったから学校ではあまり噂にはならなかったらしいけど、その食いまくった相手は当然ながら学校の男子生徒たちだったわけで。
合意だったけど、それでかっちゃんは下半身ゆるっゆると噂されるチャラ男認定されたらしい。
かっちゃん……お前……。
「まぁまぁ、まだ続きがあるからそんな目しないでよー。傷付くじゃーん」
「傷付くって……、お前がかっちゃんとやらじゃあるまいし」
「っ、いやっ、そうなんだけどねっ! ほら、俺、かっちゃん推しだからっ」
妙に慌ててかっちゃんを弁護し出した綾部に、好きなキャラは大切にしたいってことかと納得した。
「そ、それでね、かっちゃんは中二の冬にちょっと修羅場っちゃってー」
「修羅場?」
「かっちゃんは一人一回しか抱かないようにしてたんだけど、一度抱いたことのある男の子が、また抱いてって粘ってきてさー。断ったら逆ギレされて、殴られた」
そしてそんまま走り去られた、と綾部は言った。
か、可愛い系の子がなんともアグレッシブな……。
やっぱチワワは馬鹿にしちゃダメだな。
「冬の寒い時に殴るとかないよねー。いやー、痛さ倍増……」
「まるで経験したかのような言い方だな」
「……って書いてあったんだよ。でね、……ある子に、その場面見られてたんだよねー」
チラリと見てくる綾部の視線に、誰だと問う。
綾部は肩を軽くすくめて続けた。
「……ゆっちゃん、っていう同学年の子。その子ってりっちゃんと仲悪くてさー、かっちゃんはその子嫌いだったんだよねー。だから二人が喧嘩してる時はなるべく遠くで見てたんだよ。だから、会った時は最悪だと思った……みたいだよ、かっちゃんは」
「じゃあ、かっちゃんとゆっちゃんは、ある意味初対面だったってことか?」
「うん。で、なんやかんや喋ってー」
「そこは省くなよ」
「良いの良いのー、気にしないでよ」
かっちゃんとゆっちゃんのやり取りを言いたくない、のか……?
BLのことになると興奮する生き物らしい腐男子が言いにくい内容って……こわっ。
「かっちゃんはりっちゃんに会う前みたいに、チャラ男じゃなくて不良モードでゆっちゃんを追い返そうとしたんだけどさー……その時ゆっちゃんが、言ったんだよ」
「何て?」
「『お前は本気で好きな奴には、優しくなれるんだろうな』……って」
へぇ、と言いかけて、何か引っ掛かった。
何か……ん~? 聞いたことある、ような……?
思い出す前に綾部が話し始めて、思考を中断させる。
「それでまた一悶着あったんだけどさ、そのゆっちゃんの言葉の数々にいつの間にか……救われてる自分に、気が付いた」
「救われた……」
「そう。本当に好きな人が出来れば、俺は進めるのかな、ってかっちゃんは思った。分かる? ユーリ会長。りっちゃんは逃げ道を作ってくれた。でもゆっちゃんは……進む道を、示してくれたんだよ」
優しい目で俺を見る綾部に。
俺は、何も言えなかった。
しかしそれも一瞬の出来事だったかのように、綾部はいつものようにへらっと笑った。
「それから、かっちゃんの大切な人は二人になったんだよ。親よりも、周りの奴らよりも、今まで抱いてきた誰よりも、りっちゃんとゆっちゃんが、何よりも優先すべきモノになった」
「ゆっちゃんのこと嫌ってたのにか?」
「だからー、省いたけど色々あったんだってばー。で、かっちゃんはりっちゃんとゆっちゃんを見守りましたってゆーお話……」
「……おい、待て綾部。最後すげぇ省いただろ」
「えー? 何で?」
いや、何か俺がBLにここまで入り込む必要があるのかとかいう疑問があるけど、ちょっとこれじゃスッキリしない。
まず、と俺は切り出す。
「りっちゃんとゆっちゃんを見守ったって、喧嘩してんのを見守ったのか? 二人仲悪いんだろ?」
「んー、なぁんかねー、嫌い嫌いもなんとやら、みたいな関係だと思うんだよねー、二人って。だから変に拗れないように見守るって感じ?」
「……? つまり、りっちゃんとゆっちゃんは実は好き合ってるってことか?」
「俺に訊かれてもねー……ユーリ会長になら分かるんじゃないのー?」
綾部しか読んでないんだから、俺が分かるわけないだろ。
まぁ良いや、そこら辺は詳しく描写されてなかったってことだろ。
かっちゃんが主人公みたいだしな。
「あと一つ、分からねぇんだが」
「なにー?」
「かっちゃんはゆっちゃんのこと、どういう意味で大切なんだ?」
「っ、ど、ういう、意味かなー?」
「いや、りっちゃんのことは仲間として大切なんだろ? なのにゆっちゃんに関しては言わなかっただろ、お前」
やっぱ進む道を作ってくれた恩があるから、大切なのかな。
なんて思っていると、ぽそりと何か聞こえた。
見れば綾部が膝の所で拳を握って何かを言ったようだった。
聞き返すと、綾部は再び口にする。
「……好き、なんだよ。かっちゃんはゆっちゃんが」
「仲間としてか?」
「男として、好きなんだよ、……ユーリ会長」
顔を上げた綾部の表情は真剣そのもので。
何故かドキリと胸が鳴った。
じっと見つめてくる綾部には、一切の戯れもなかった。
お互い見つめ合う状態だったけど、ふいっと綾部の方が目を逸らす。
「……これで納得したかなー? ユーリ会長」
「あ、あぁ、まぁ、興味深い、話だったとは思う」
のびーっと背筋を伸ばす綾部に、俺は先程の動悸を誤魔化すように頷いた。
なんか、びっくりした……。
でもなぁ……ちょっとまだ不満を感じる。
「つまりかっちゃんは、二人の為に身を引いてるってことか?」
「身を引くってゆーか、ゆっちゃんのこと好きだけど、りっちゃんも大切だから、二人を優先してたら……うん、身を引いてるのかなー……、結局のところ。何かご感想はありますかー?」
ご感想って……コイツ、俺をそっちの世界に連れていこうとしてないか?
いくらレイと同じになるからと言っても、その世界で過ごせる気がしない。
と言うか、俺様キャラとの両立が不可能だ。
でも、わざわざ俺に話すくらいだから、この話は綾部の好きな話なんだろう。
だったら、何か言うのが礼儀だよな。
風紀にはいつもお世話になってるしさ。
「まぁ、ゆっちゃんの気持ち何となく想像してみたんだが」
「……うん、何?」
「自分が言った通り、かっちゃんが本気で好きになった人に対して優しくなれてるってことは、嬉しいと感じてると、思う」
「そう、かな……そうなんだ、……そっかー。ゆっちゃんは嬉しいと、思ってくれてるんだねー」
「あくまでも俺の意見だ、勘違いすんな。でもなぁ……」
これ以上、言おうかどうか迷った。
だって、綾部はかっちゃん推しらしいから。
でも言ってこそ俺様キャラかな、とその考えを言ってみた。
「二人を大切にするために身を引くのが、気に入らない」
「……え?」
「意味分かんねぇ。りっちゃんとゆっちゃんが大切だから、ゆっちゃんへの恋心に蓋してるってことだろ? バカじゃねーの」
「ばっ、バカって、何で」
「俺なら我慢してもらってまで見守ってほしくねぇな。それに、かっちゃんは好きな人に進む道を示されたんだろ? なら最後まで自分の気持ちからも逃げずに、前に進めって話だろうが」
かっちゃんってビビってんじゃねーの? ってのが俺の感想。
大切な人だからこそ、臆病になる。
それは分からないでもない。
俺だって、レイが制裁されるとかお茶会で聞かされた時、怒ると同時に恐怖が湧いたしな。
でもさ、やっぱり。
「自分の気持ちには、正直に生きてほしいよな」
それは、俺の願望でもあるけれど。
その隠された気持ちを心に留めて綾部を見ると。
目を見開いて、呆然としていた。
……あれ、言いすぎた?
いや、もしかしたらこういう話の玄人さんから見ると、素人の俺は滑稽だったのかも。
うわー、恥ずかしすぎる。
もう話も終わったっぽいし、俺は生徒会室に戻らせてもらおう。
逃げるなって?
知るか、俺はかっちゃんじゃない!
「満足しただろ、俺は戻るぞ。口裏合わせ、忘れんなよ」
そう言って、俺は指導部屋の扉を開けて風紀室から出て行った。
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