赤毛姫よ、逃亡せよ!

バール

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お城時代

赤毛姫の授業風景③

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メスガキ…もといカマルにイラついた休み時間は終わりを告げ、プチ楽しみである魔法の時間が来た。
赤毛姫がより強い魔力を持つために婚姻するというゲームの内容からもわかる通りこの世界にも魔法がある。私が今黒髪になっているのだって魔法だしね。


「それでは授業を開始します。皆様、お手元をご覧ください」

教壇に立ったジョイ先生がにこやかに告げる。彼の言葉に従い机を見るとそこには小さなボールが出現していた。

「相変わらずバケモンだな…」

隣のワーナーが舌を巻く。
それもそのはずで今まで机には何もなかった。ジョイ先生が瞬時に実体魔法でボールを生み出したのだ。
実体魔法とは、文字通り想像を実体にする魔法だ。言葉で言うには簡単だが実際にはかなり難しい魔法であまり使う人はいない。想像を実体にするに当たって集中力を有するしかと言って力みすぎると魔力の消費が膨大になって倒れてしまう。その超高難易度魔法を瞬時に行い、しかもこの教室の人数の全員分のボールを出現させたのは、魔力の量も扱いも超一流であることは一目瞭然だった。流石は現国王の従兄弟であり建国以来数多の学者を輩出した伯爵家の者というべきか…。


「今日の授業は、基本である魔力操作です。皆様、お手元にある球に意識を込め『浮く』ように想像してください。魔法には想像力が大切です」

ジョイ先生はそういうと自身の手元にあったボールをいとも簡単に浮かべる。
なるほど、初級魔法という訳だ。見ればボールと先生の手の間に水色でコーティングされた赤いモヤのようなものがある。あれでボールを浮かしているのだろう。

…つまりは、あれが魔力ってこと?確かに完全ではないけど赤色だし……。

周囲を見渡すと教室のおチビちゃん達が一生懸命にボールを浮かべようと手からモヤを出している。そのモヤはそれぞれの髪色に合わせているが核となる色が赤色だった。
キラキラとしたその光景に私はほぅ…とため息をついた。

「ワーナー、綺麗だね…」
「あ?何が?」
「えぇ…」

この感動をワーナーと分かち合いたかったが彼にとっては日常の風景であったようだ。
不貞腐れながら周りをまた見渡す。

…あれ?

みんなの魔力?を見ていると一人だけおかしな色合いがあった。

カマルだ。

カマルは他の子よりも魔法が苦手?というよりは量が少ないのだろうか…?四苦八苦しながら他の子よりも少ないモヤでボールを浮かべようとしていた。そしてそのモヤの色がどうにもおかしい。モヤが彼の髪色であるピンク一色なのだ。王族ならば魔力に赤色が含まされある筈なのだが…?

…まぁ、王族の血が薄まってピンクになっちゃったのかもね…。
私は考えるのをやめた。もしかしたらカマルが王族になっている事と関係があるのかもしれないがそれよりは目の前の問題だ。

手元にあるボールを見下ろす。とりあえずはこのボールを浮かせる事が魔法を使う上での基礎だ。まずは脳内で『ボールよ、浮け』と唱えてみる。

………ボールは反応しない。

ここで私は先ほどのジョイ先生の言葉を思い出した。確か大事なのは『想像力』だ。

……私は自分の手から出た魔力がボールを浮かべる様子をイメージした。

イメージした途端、私の手から真っ赤なモヤが現れボールを押し上げた。

「…やった!」

魔力操作が成功し小声でガッツポーズをするとまだボールを上手く浮かせられないカマルが目敏く聞いていたようでキュルッと睨まれてしまった。おぉ怖い怖い可愛い。
まぁそんな感じで集中力が続かなくてボールは落ちた。私はまだまだのようだ。
もう一度ボールを浮かべ、今度はより長く継続させようと集中した私は、ジョイ先生が目を見開いて私を見つめていた事に気づかなかった。



------------------------------------------------



まずまずの登校初日であったと思う。それぞれの担当侍女が迎えに来るのを待ちながら私はワーナーと談笑していた。

「クリス様、少し良いでしょうか…?」
「…え?」

二人で話している所に何故かジョイ先生が来る。授業が終わったのに何の用事だろう…?

「少しお話があるので私の研究室までご一緒して頂けませんか…?」
「あ…はい」

最初に会ったジョイ先生よりもやや硬いその態度は異様なことなのか彼に付いていく私をワーナーは「お前何かしたんか???」とギョッとしていたしカマルは「ざまぁw」としたり顔で見ていた。
言葉のないまま彼の研究室に行くとそこは伯爵家の子息の部屋、沢山の本棚とベルベットの絨毯。高そうながらも上品な部屋だった。そして一番目を引くのは縁にルビーだろう宝石が散りばめられた大きな姿見だ。
部屋の素敵さに惚けていたがジョイ先生がまだ暗い表情をしていてハッとする。

「あ、あの…僕、何かしちゃいましたか…?」
「……………」

研究室に入るまで無言だったジョイ先生に流石に怖くなり恐る恐る聞くが彼は答えずに扉に近づくと鍵をかけた。

ガチャリ

その音が妙に大きく聞こえた気がした。
…ちょちょちょ、マジで怖い。「俺、なんかしちゃいましたか…?(^_^;)」とかなろう小説みたいな言い回しするんじゃなかった。ひぃひぃひぃ……。
というか、誰もいない研究室に先生と二人っきりにされる描写、確かあったよね…!?!?ヤンデレ前回のシーンだったからガチで怖いんだけど…?!

「……あぁ、そう怯えないでください」

私が明らかに怯え始めたのを感じたのかジョイ先生は安心させるために薄く笑うとゆっくり近づいてきた。
…いや怖いわ。確かゲームでもそう言って近寄って来てそれで…

「貴方は何も悪くないとはわかっていますよ。…だから、逃げないでください」

とうとう目の前に来たジョイ先生に私は凍りついたように身動きが取れない。足どころか指の一本も動かない。これは明らかに異常だ。もしかして先生が魔法を…?

「…こんなに震えて可哀想に」

ジョイ先生は私の頬に手を当てる。白くて、細い指をしているのに硬い、男の人の手だ。そのまま彼は宝物を触るように繊細に私の頭に手を滑らせた。

「やはり……」

私の頭を撫でるとジョイ先生は悲しげな顔をした。

バチッ

「痛いっ!!」

突如頭に刺激を感じ思わず飛び退く。今の痛みに身体が反応したようで動くようになった。だが私はそんなことよりも突然魔法で攻撃したと思われるジョイ先生の方が怖かった。
やっぱり彼はヤンデレキャラだったのではないだろうか…?簡単に心を許してはいけなかったのだ。今の私は赤毛姫では無くともしっかり警戒するべきだった…!!

「あぁ…!ごめんなさい!痛くするつもりはなかったのですよ…!」
「…………っ!」
「!逃げないでください!」
「…やだっ」

真っ青な顔になったジョイ先生の顔を見る程気持ちに余裕のなかった私は逃げ出そうとしたがそれに気づいた先生により簡単に抱き上げられてしまった。私の年齢はまだ一桁だし相手は成人男性、当然の結果だった。それでも怖くてジタバタする私を先生は必死にあやす。

「大丈夫です…!もう痛い事はしません…!」
「やだ!離して!!」
「私は髪の魔法を解いただけです!」
「…え」

その言葉に私は凍りついた。
暴れなくなった私を落ち着いたと判断したジョイ先生は私をあの豪華な姿見の前に運ぶ。

「髪に掛かっていた魔法が妙に強力で無理矢理解いたのです。その時に痛みを感じさせてしまい申し訳ありません。…ですがほら、貴方本来の髪色に戻ったのですよ」

そこには、夕焼けのような赤毛をした子供が写っていた。


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