赤毛姫よ、逃亡せよ!

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お城時代

赤毛姫vsイケメン眼鏡〜決着〜

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「僕を助けて」

私が発した言葉を受け止めた先生の瞳からは涙が消えた。もしかしたらそれほど時間は経っていないのかもしれないけど私たちの間には長い長い沈黙が支配した。

「…はぁ……」

その息をするのも億劫になる空気を破ったのはジョイ先生のため息だった。

「…わかりました」

諦めたような瞳でジョイ先生は答えた。その顔に罪悪感が湧かないでもないが一先ず私は安心できた。

「…よかっ」
「ですが」
「えっ」

安堵の息をしようとした所にジョイ先生から思わぬ反論があり身構えてしまう。そんな私を先生は安心させるように撫でた。

「王家に報告しない代わりに私に貴方様を守らせてください。クリス様が仰る通りならばまだ貴方様を狙う王族がいるのでしょう…?私は魔法が使えますし多少は剣の覚えもありますので」
「で、でも…それだと先生の負担が…」
「生徒一人を守るなど容易いことです。…ですが、もしそれでクリス様が負い目を感じるならば、どうかこの私の特別授業を受けてください。昼間の授業でも思いましたが貴方様は聡明で魔力量も多い。きっと良い魔法使いになります。勉学に励み、ご自分を守る力をつけてください」

ジョイ先生からの提案は私には都合の良すぎるものだった。だってそうでしょ。これからいつ暗殺や辺境へ行く時だって魔法が使える事が重要になってくる筈だ。きっとピンチになった時に役に立ってくれるだろう。
でも…。

「…どうして、そんなこと言ってくれるんですか」

だからこそほぼ他人のジョイ先生が何故こんな提案をしてくれたのかがわからない。優しすぎるよ、先生。
私の疑問に先生は酷く当たり前の事を問われたようにキョトンとした。

「家族だからです」
「え」
「家族だからこそ最善の道を歩ませて頂きたいのです。クリス様もお母様が微笑まれた時は嬉しかったでしょう?」
「…はい」
「それと同じです」

あぁ…ジョイ先生は本当に優しい人だった。ちからのある伯爵家の人が、ちっぽけな子爵家の子供を本当の家族だと思ってくれるんだから。
彼は優しい。
ゲームでも優しい。
主人公に決して暴力は与えずに監禁して、挙句に城から一生出さずに子供を産ませても、優しい。

「先生、ありがとう…ございます…」
「いえ、私も魔法を解いてしまい申し訳ありません。かけ直しておきました」

鏡を見ると私の頭は黒髪に戻っていた。魔法使うの早すぎィ!私もこれぐらいできるようにならなくちゃ…。
あれ、そういえば…。

「あの、すみません。下ろしてください…」

私がパニックになってからずっと抱き抱えられたままだった。これではマリアさんの所に帰れぬ。

「おや、つれない。このままお運びしようと思っていたのですが…」
「だ、大丈夫です!歩けます!!」
「…可愛らしかったのでずっと抱っこしていたかったのに…」

ジョイ先生、小声でしたけど聞こえましたからね。もしかしてこの人筋金入りの子供好きなだけなのでは???優しさの本当の意味???
私を降ろし、衣服の歪みを整えた。

「…これぐらい自分でできます…」
「まぁまぁ…クリス様」
「はい?……うぉっ」

急に呼ばれて顔を上げると先生のイケメン顔面が近づいてきたと思ったら額に柔らかい感触とじんわりとした熱が広がった。こ、これって…。

「え、ぇ、い、今の…」
「ちょっとしたおまじないです」.
「き、きす…」
「うふふ」

イケメンに額とは口づけされ固まる私にジョイ先生は「可愛い!」「柔らかい!」と言いながら頬擦りもし始め本格的にこの人は子供が大好きなんやなと身をもって思い知らさせる事になった。
この可愛い攻撃はマリアさんが迎えに来るまで続いたのは言うまでもない。
そして、散々構われ疲労困憊の私に悪戯っぽく彼は囁いた。

「貴方様は赤毛以外にも何かを隠していますね?今は仰らずとも構わないので私を信用できるようになった時は必ずご相談ください。私は必ず貴方様の味方です」

私にはまだ秘密があることがバレバレのようだ。やはり侮れぬ。ヤンデレ担当……。
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