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第一章 ナヴィ 職業『村人A』編
1.今日から村人A
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とある異世界の古小屋にて。
「すいませーん」
「あ、冒険者様ですね。こんにちは」
「ここらへんでレベルを上げられるダンジョンを探してんだけど、どこか知らない?」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう」
「なるほど、そこに行けばいいのね、ありがとう!」
冒険者はベルが付いている玄関をカランカランと勢いよく鳴らし飛び出していった。
説明した村人Aは笑顔で手を振りながら見送った。
一分後
「ごめんくださーい」
「あ、冒険者様ですね。こんにちは」
「僕今日から冒険者として旅に出るのですが、最初にどこに行けばいいですかね」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかがでしょう。」
「わ、ありがとうございます! ではそこに行ってみます!」
説明した村人Aは笑顔で手を振りながら見送った。
なんで……
「私駆け出し冒険者なんですけど……。」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかがでしょう」
「なるほど、行ってくるよ!サンキュー!」
説明した村人Aは引きつった笑顔を見せながら手を振り、見送った。
どうして……。
「あの、僕これからレベル上げをしたくて……」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう」
「これから彼と冒険に行くの!」
「みなみの方角に少し進むと『はじまりのいせき』というダンジョンがありますがいかかでしょう」
「私冒険なんて初めてで……」
「ミナミのホウガクに少し進むと『ハジマリノイセキ』というダンジョンがありますがイカガデショウ」
棒読みになりつつある説明をした村人Aは、涙ぐみつつ全力の作り笑いで手を振りながら見送った。
どうして……。
小さな少女が近づいてくる。
「お、お、お、お姉ちゃん……?」
「……どうして」
「え? なんて? なんて言ったのナヴィお姉ちゃん!」
「どおおおおうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
大きなため息をつき、またかという表情を見せる少女。
「もうしょーがないでしょ、ナヴィお姉ちゃん。ここに生まれてきちゃったんだから。諦めなさいよ」
机に突っ伏している村人A。
「私の異世界冒険ライフはどこへ行ったの……あぁ、学校に戻りたい……」
「インターハイ陸上女子 100m走 第一位 北大路ナミ、おめでとう!」
「ありがとうございます」
体育館で拍手が鳴り響いた。
ナミは舞台から降り、生徒の列ができているど真ん中を堂々と歩く。
あぁ。やっぱりこの空間はたまらないわ。ただ座って拍手をしながら、私のことを見ているあなた達の妬みや憧れの目が本当にたまらない。
ナミの右頬がゆっくりと上がる。
この世界の主人公はあたしよ。モブはあたしの引き立て役でしかないのよ。
左頬も上がった。
ある生徒が隣の生徒と話している。
「いやーやっぱ北大路先輩はすげーよなぁ、まさに異世界ラノベの主人公ってかんじでさー」
「それな、現生徒会長だし、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。しかもあの北大路財閥の令嬢だぞ。どんな俺TUEEEEだよ」
「黒髪ロングってのもポイント高い」
「お前……」
「まぁそれ故ってのもあるかもだけど、なんつーか俺らとは人種が違うって雰囲気がもろに出てるよな」
「あーそれはわかるわ。生きてる世界が違うってか、自分にしか興味がないっつーか……」
「それでも黒髪ロングだから許す!」
「お前……」
「おーい、戻るぞーー」
「はーい!」
全校集会が終わり、放課後となった。
放課後は図書室に向かうのが、北大路ナミの日課。窓に差し込んでくる夕焼けの光を浴びながらの読書が彼女にとっての至福の時間なのである。
とはいえ、学校にある本は読みつくしてしまっているため、ほとんどは二周目の本になる。
そんな中、奥にある本棚の右上の方に、梯子でもないと誰も手の届かないような一冊の古びた本を見つけた。
「あの本、どこかで……」
何か思い出したかのように、思い切りジャンプして手を伸ばし取ろうとするが、もちろん本には届かない。
近くの用務室から大きな梯子を持ってきてそこに登り、背伸びをしてようやくその本を手に取ることができた。
「『勇者伝記』これってアキラ先輩がよく読んでいた本…あたし、バカにしてたっけ」
アキラは前任の会長で、学校ではナミが唯一仲良く話せる人物だった。
「アキラ先輩いつまでその本読んでるんですか……」
「ナミか、るっせーな何回読んでもおもしれーんだよこの本は、特に面白いのがこの本の最終章が……」
「あーはいはい、もう大丈夫でーす。仕事しましょうか」
「最後まで聞けってー!!」
ちょうど一年前くらいかしら。そんな会話もしてたっけ……。
結局卒業してから一度も顔見せに来てくれないし、どこにいるのかしら。そもそも生きているのでしょうか。
そんなことを思いながら手に取った本を梯子の上で読み進めていく。
「なにこれ、めちゃくちゃ面白いじゃない……」
下校時間をはとうに過ぎてしまったが、読み進める手が一向に止まらない。
「あぁすごくいいわ。特にこの主人公のテリウス様。生まれ持った才能をしっかりと生かす能力の高さ、それに慢心せず、人徳も兼ね備えている。まさに主人公って感じね。憧れちゃうわぁ」
テリウスと自分の共通点、共感できるところに浸りながら最終章に突入した。
「さぁいよいよ最終章ね……。って、あれ、何も書いてないじゃない……。どういうこと」
パラパラ漫画をめくっていくようなスピードで確認していくが活字は全く表れてこない。
すると、最終ページにはエメラルド色の魔法陣が描いてあった。
「なに、これ……」
魔法陣に手が触れた瞬間、その陣が輝き、ナミを囲うように大きく陣が展開された。
「ちょっ、ちょっと待って、全然理解できないんですが……」
何とかして出ようとするが、陣には結界のようなものが張られていて、ドンドンと力いっぱい叩いても、割れることはない。
そして魔法陣は徐々にナミのスペースを侵攻していき、ほぼナミの体と同じサイズになった。
その瞬間白くまばゆい光で輝く『勇者伝記』がナミの目の前に飛んできた。
その本からは優しく男らしい声が聞こえてくる。
最終章の結末を決めるのは、君だ。
「へ、い、今なんて!? どういうこと?」
さぁ行くんだ。頼んだよ。
「ま、待って、ねぇ。あなたは、きゃああああああああああ」
光に包みこまれたナミは本の中へと吸い込まれていった。
そしてその本は、ぱたりと閉じられ、元の場所に静かに戻る。
図書室にはナミのカバンと大きな梯子。その二つがあること以外は、いつもと変わりのない図書室に戻っていった。
「……ちゃん。……ねぇちゃん……! ナヴィお姉ちゃん!!」
小さな少女が覆いかぶさっていた。
「んー重いー。ん、おはよー。って、え。誰?ってここは……?」
「は、相変わらずちんぷんかんぷんなこと言うのね!そんなに今日からの仕事が嫌だったのかしら」
「ん? 仕事?」
「いいから、先に降りてるよ!おじいちゃーん」
どっどっどっと階段を下りていく音が遠のいていく。
「はぁ。どうなっているのかしら」
わかんないことだらけだけど、とりあえず起きて状況を把握しなきゃ。
そんなことを考えながら、布団から出て、ドアの近くにある鏡を見る。
多分ここはあの本の世界ね。窓の外を見た感じだとどこかの村の古小屋ってところかしら。
そのくらいは容易に想像できるわ。
容姿はそのままって感じね。服はこのぼろいシャツにロングスカートを着ればいいのかしら。
寝巻からさっきの少女が置いてくれたであろう仕事着のようなものに着替えていく。
「トニーじいちゃん! お姉ちゃん起きたよ!」
「おぉエンフィーおはよう、そうかナヴィは今日から仕事か。初日からぎりぎりまで寝てるとは、相変わらずの神経の図太さじゃのぉ」
ナヴィはぼさぼさの髪を梳かしながら、一階に降りていく。
「お、おはよう」
「ナヴィ、おはよう。緊張しているかい?」
「大丈夫だよね、ナヴィお姉ちゃん。あと十分で仕事開始なのにこんなにゆっくりしてられるんだから!」
「なんでエンフィーの方が嬉しそうなんじゃ。ナヴィ、今日からの仕事は大丈夫かい?確認しておこうか?」
「あたしの仕事……?」
あぁそっか、なんかここに来る前言われたっけ。最終章がなんたらかんたらって。んーよくわかんなかったけど、もしかしてすごく重要な役割だったりして……そうだよね。うん、きっとそうだよね! 私が選ばれたってことはきっとそうよ!!
「ねぇ! おじいちゃん! あたしの今日からの仕事についてもう一度確認したいんだけど!」
線としか言えない眠そうな目から大きくて丸い猫のような目へ、くすんだ青がサファイアのように神秘的に光る瞳へ。口角も上がり、いつでも仕事に行けますと言わんばかりの顔に一瞬で変わった。もちろん、誰に聞いても九分九厘、彼女のことは美女というだろう。
トニーの手をぎゅっと握り顔を近づけ、餌を待つ犬のように今か今かと返答を待っていた。
きっとこれからあの本に言われた通り、異世界での大冒険に違いないわ! そうよ、絶対にそう! そしてきっとテリウス様達と一緒に冒険して……。
あぁ素晴らしいは異世界! きっとここからナミ、いえここではナヴィかしら。勇者伝記ならぬ『ナヴィ伝記』の始まりよ!
「おーナヴィ。気合を入れてくれたのかね、わしは嬉しいぞ。どんな仕事でもしっかりと誇りを持って全うしてくれるとわしは思っていたぞ」
「もちろんよ! 当たり前だわ、なんでもするわよ!それで私の仕事って?」
瞳を輝かせながら早口かつ食いつき気味でうんうんと聞くナヴィ。隣ではエンフィーが笑いをこらえるので必死というような勢いで小刻みに震えていた。
「お、お姉ちゃん頑張ってね……ぷっ」
「ん? 何かしらぁエンフィー、お姉ちゃんが行っちゃうのが寂しいのぉ?」
腰を少しかがめエンフィーに憐れみの目を向ける。
トニーがパンッと手を叩く。
「はいそこまで。ナヴィ、では仕事の確認をしていくぞい。まずは机にしまってある椅子に座るんじゃ」
「はーい! まずはじっくり説明って感じね!」
ナヴィはこの間もエンフィーが小刻みに震え続けているのが気になったが、先を急ぎたい気持ちが勝り、気にせず話を聞くことにした。
「では言ってみなさい〈冒険者様ですね。こんにちは。〉さん、はい!」
「〈冒険者様ですね。こんにちは。〉ん?」
「次〈南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう。〉はい!」
「〈南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう。〉え?」
「最後は笑顔で手をゆっくり振り見送る。はい!」
ナヴィはトニーの言うとおりに笑顔で手を振った。
「ばっちりじゃ! さすがわしの孫娘!」
口をぽかんと開けたナヴィは数秒後に口を開いた。
「え、のみ?」
「のみじゃ」
「えっ、待って、ちょっと待って、もしかして、私の仕事って冒険者じゃなくて……」
奥で小刻みに震えていたエンフィーがこらえていた笑いを一気に爆発させ、小屋中に笑い声が響き渡立った。
「あはははははは、あは、あははははははは、ほんとお姉ちゃん最高! さすが私のお姉ちゃん!」
トニーはとほほと苦笑いをし頭を抱える。
大爆笑の波が収まり、一息ついてナヴィの目の前にずんずんとやって来るエンフィー。
「冒険者ぁ? 何夢見てるのナヴィお姉ちゃん。お姉ちゃんの仕事は
『駆け出し冒険者に、最初のダンジョンの情報を与える村人A』
よ! ぷぷっ。頑張ってね!」
エンフィーはナヴィに勝るとも劣らない容姿で、誰もが魅了されるであろう完璧に作られた笑顔で言い放った。
「え、あたしの異世界ライフ、これから始まる大冒険、テリウス様との出会い、全部ないってこと……」
そんな、そんなああああああああああああ。
「そういうことじゃ、どんな仕事でも誇りを持って全うする。当たり前と言っていたじゃろ」
「そーそ、まぁ私はまだ仕事はできないけど、お姉ちゃんのサポートくらいはするわ! 必要ないくらい簡単だと思うけどね」
その瞬間、玄関に付いているベルがカランカランと鳴り響いた。
「すみませーん!」
「さぁ来たぞナヴィ。しっかりと仕事を全うするんじゃぞ」
「頑張ってね! ナヴィお姉ちゃん! ぷっ」
「なんで……どうして……」
「あ、あのう、僕駆け出し冒険者で、ダンジョンの場所を……」
その時、ナヴィの方から大きく息を吸う音が聞こえた。
「どおおおおうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
こうして、現実世界では主人公とも言われたハイスペックな美少女は、村人Aとして歩み始めるのだった。
「すいませーん」
「あ、冒険者様ですね。こんにちは」
「ここらへんでレベルを上げられるダンジョンを探してんだけど、どこか知らない?」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう」
「なるほど、そこに行けばいいのね、ありがとう!」
冒険者はベルが付いている玄関をカランカランと勢いよく鳴らし飛び出していった。
説明した村人Aは笑顔で手を振りながら見送った。
一分後
「ごめんくださーい」
「あ、冒険者様ですね。こんにちは」
「僕今日から冒険者として旅に出るのですが、最初にどこに行けばいいですかね」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかがでしょう。」
「わ、ありがとうございます! ではそこに行ってみます!」
説明した村人Aは笑顔で手を振りながら見送った。
なんで……
「私駆け出し冒険者なんですけど……。」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかがでしょう」
「なるほど、行ってくるよ!サンキュー!」
説明した村人Aは引きつった笑顔を見せながら手を振り、見送った。
どうして……。
「あの、僕これからレベル上げをしたくて……」
「南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう」
「これから彼と冒険に行くの!」
「みなみの方角に少し進むと『はじまりのいせき』というダンジョンがありますがいかかでしょう」
「私冒険なんて初めてで……」
「ミナミのホウガクに少し進むと『ハジマリノイセキ』というダンジョンがありますがイカガデショウ」
棒読みになりつつある説明をした村人Aは、涙ぐみつつ全力の作り笑いで手を振りながら見送った。
どうして……。
小さな少女が近づいてくる。
「お、お、お、お姉ちゃん……?」
「……どうして」
「え? なんて? なんて言ったのナヴィお姉ちゃん!」
「どおおおおうしてこうなったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
大きなため息をつき、またかという表情を見せる少女。
「もうしょーがないでしょ、ナヴィお姉ちゃん。ここに生まれてきちゃったんだから。諦めなさいよ」
机に突っ伏している村人A。
「私の異世界冒険ライフはどこへ行ったの……あぁ、学校に戻りたい……」
「インターハイ陸上女子 100m走 第一位 北大路ナミ、おめでとう!」
「ありがとうございます」
体育館で拍手が鳴り響いた。
ナミは舞台から降り、生徒の列ができているど真ん中を堂々と歩く。
あぁ。やっぱりこの空間はたまらないわ。ただ座って拍手をしながら、私のことを見ているあなた達の妬みや憧れの目が本当にたまらない。
ナミの右頬がゆっくりと上がる。
この世界の主人公はあたしよ。モブはあたしの引き立て役でしかないのよ。
左頬も上がった。
ある生徒が隣の生徒と話している。
「いやーやっぱ北大路先輩はすげーよなぁ、まさに異世界ラノベの主人公ってかんじでさー」
「それな、現生徒会長だし、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。しかもあの北大路財閥の令嬢だぞ。どんな俺TUEEEEだよ」
「黒髪ロングってのもポイント高い」
「お前……」
「まぁそれ故ってのもあるかもだけど、なんつーか俺らとは人種が違うって雰囲気がもろに出てるよな」
「あーそれはわかるわ。生きてる世界が違うってか、自分にしか興味がないっつーか……」
「それでも黒髪ロングだから許す!」
「お前……」
「おーい、戻るぞーー」
「はーい!」
全校集会が終わり、放課後となった。
放課後は図書室に向かうのが、北大路ナミの日課。窓に差し込んでくる夕焼けの光を浴びながらの読書が彼女にとっての至福の時間なのである。
とはいえ、学校にある本は読みつくしてしまっているため、ほとんどは二周目の本になる。
そんな中、奥にある本棚の右上の方に、梯子でもないと誰も手の届かないような一冊の古びた本を見つけた。
「あの本、どこかで……」
何か思い出したかのように、思い切りジャンプして手を伸ばし取ろうとするが、もちろん本には届かない。
近くの用務室から大きな梯子を持ってきてそこに登り、背伸びをしてようやくその本を手に取ることができた。
「『勇者伝記』これってアキラ先輩がよく読んでいた本…あたし、バカにしてたっけ」
アキラは前任の会長で、学校ではナミが唯一仲良く話せる人物だった。
「アキラ先輩いつまでその本読んでるんですか……」
「ナミか、るっせーな何回読んでもおもしれーんだよこの本は、特に面白いのがこの本の最終章が……」
「あーはいはい、もう大丈夫でーす。仕事しましょうか」
「最後まで聞けってー!!」
ちょうど一年前くらいかしら。そんな会話もしてたっけ……。
結局卒業してから一度も顔見せに来てくれないし、どこにいるのかしら。そもそも生きているのでしょうか。
そんなことを思いながら手に取った本を梯子の上で読み進めていく。
「なにこれ、めちゃくちゃ面白いじゃない……」
下校時間をはとうに過ぎてしまったが、読み進める手が一向に止まらない。
「あぁすごくいいわ。特にこの主人公のテリウス様。生まれ持った才能をしっかりと生かす能力の高さ、それに慢心せず、人徳も兼ね備えている。まさに主人公って感じね。憧れちゃうわぁ」
テリウスと自分の共通点、共感できるところに浸りながら最終章に突入した。
「さぁいよいよ最終章ね……。って、あれ、何も書いてないじゃない……。どういうこと」
パラパラ漫画をめくっていくようなスピードで確認していくが活字は全く表れてこない。
すると、最終ページにはエメラルド色の魔法陣が描いてあった。
「なに、これ……」
魔法陣に手が触れた瞬間、その陣が輝き、ナミを囲うように大きく陣が展開された。
「ちょっ、ちょっと待って、全然理解できないんですが……」
何とかして出ようとするが、陣には結界のようなものが張られていて、ドンドンと力いっぱい叩いても、割れることはない。
そして魔法陣は徐々にナミのスペースを侵攻していき、ほぼナミの体と同じサイズになった。
その瞬間白くまばゆい光で輝く『勇者伝記』がナミの目の前に飛んできた。
その本からは優しく男らしい声が聞こえてくる。
最終章の結末を決めるのは、君だ。
「へ、い、今なんて!? どういうこと?」
さぁ行くんだ。頼んだよ。
「ま、待って、ねぇ。あなたは、きゃああああああああああ」
光に包みこまれたナミは本の中へと吸い込まれていった。
そしてその本は、ぱたりと閉じられ、元の場所に静かに戻る。
図書室にはナミのカバンと大きな梯子。その二つがあること以外は、いつもと変わりのない図書室に戻っていった。
「……ちゃん。……ねぇちゃん……! ナヴィお姉ちゃん!!」
小さな少女が覆いかぶさっていた。
「んー重いー。ん、おはよー。って、え。誰?ってここは……?」
「は、相変わらずちんぷんかんぷんなこと言うのね!そんなに今日からの仕事が嫌だったのかしら」
「ん? 仕事?」
「いいから、先に降りてるよ!おじいちゃーん」
どっどっどっと階段を下りていく音が遠のいていく。
「はぁ。どうなっているのかしら」
わかんないことだらけだけど、とりあえず起きて状況を把握しなきゃ。
そんなことを考えながら、布団から出て、ドアの近くにある鏡を見る。
多分ここはあの本の世界ね。窓の外を見た感じだとどこかの村の古小屋ってところかしら。
そのくらいは容易に想像できるわ。
容姿はそのままって感じね。服はこのぼろいシャツにロングスカートを着ればいいのかしら。
寝巻からさっきの少女が置いてくれたであろう仕事着のようなものに着替えていく。
「トニーじいちゃん! お姉ちゃん起きたよ!」
「おぉエンフィーおはよう、そうかナヴィは今日から仕事か。初日からぎりぎりまで寝てるとは、相変わらずの神経の図太さじゃのぉ」
ナヴィはぼさぼさの髪を梳かしながら、一階に降りていく。
「お、おはよう」
「ナヴィ、おはよう。緊張しているかい?」
「大丈夫だよね、ナヴィお姉ちゃん。あと十分で仕事開始なのにこんなにゆっくりしてられるんだから!」
「なんでエンフィーの方が嬉しそうなんじゃ。ナヴィ、今日からの仕事は大丈夫かい?確認しておこうか?」
「あたしの仕事……?」
あぁそっか、なんかここに来る前言われたっけ。最終章がなんたらかんたらって。んーよくわかんなかったけど、もしかしてすごく重要な役割だったりして……そうだよね。うん、きっとそうだよね! 私が選ばれたってことはきっとそうよ!!
「ねぇ! おじいちゃん! あたしの今日からの仕事についてもう一度確認したいんだけど!」
線としか言えない眠そうな目から大きくて丸い猫のような目へ、くすんだ青がサファイアのように神秘的に光る瞳へ。口角も上がり、いつでも仕事に行けますと言わんばかりの顔に一瞬で変わった。もちろん、誰に聞いても九分九厘、彼女のことは美女というだろう。
トニーの手をぎゅっと握り顔を近づけ、餌を待つ犬のように今か今かと返答を待っていた。
きっとこれからあの本に言われた通り、異世界での大冒険に違いないわ! そうよ、絶対にそう! そしてきっとテリウス様達と一緒に冒険して……。
あぁ素晴らしいは異世界! きっとここからナミ、いえここではナヴィかしら。勇者伝記ならぬ『ナヴィ伝記』の始まりよ!
「おーナヴィ。気合を入れてくれたのかね、わしは嬉しいぞ。どんな仕事でもしっかりと誇りを持って全うしてくれるとわしは思っていたぞ」
「もちろんよ! 当たり前だわ、なんでもするわよ!それで私の仕事って?」
瞳を輝かせながら早口かつ食いつき気味でうんうんと聞くナヴィ。隣ではエンフィーが笑いをこらえるので必死というような勢いで小刻みに震えていた。
「お、お姉ちゃん頑張ってね……ぷっ」
「ん? 何かしらぁエンフィー、お姉ちゃんが行っちゃうのが寂しいのぉ?」
腰を少しかがめエンフィーに憐れみの目を向ける。
トニーがパンッと手を叩く。
「はいそこまで。ナヴィ、では仕事の確認をしていくぞい。まずは机にしまってある椅子に座るんじゃ」
「はーい! まずはじっくり説明って感じね!」
ナヴィはこの間もエンフィーが小刻みに震え続けているのが気になったが、先を急ぎたい気持ちが勝り、気にせず話を聞くことにした。
「では言ってみなさい〈冒険者様ですね。こんにちは。〉さん、はい!」
「〈冒険者様ですね。こんにちは。〉ん?」
「次〈南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう。〉はい!」
「〈南の方角に少し進むと『始まりの遺跡』というダンジョンがありますがいかかでしょう。〉え?」
「最後は笑顔で手をゆっくり振り見送る。はい!」
ナヴィはトニーの言うとおりに笑顔で手を振った。
「ばっちりじゃ! さすがわしの孫娘!」
口をぽかんと開けたナヴィは数秒後に口を開いた。
「え、のみ?」
「のみじゃ」
「えっ、待って、ちょっと待って、もしかして、私の仕事って冒険者じゃなくて……」
奥で小刻みに震えていたエンフィーがこらえていた笑いを一気に爆発させ、小屋中に笑い声が響き渡立った。
「あはははははは、あは、あははははははは、ほんとお姉ちゃん最高! さすが私のお姉ちゃん!」
トニーはとほほと苦笑いをし頭を抱える。
大爆笑の波が収まり、一息ついてナヴィの目の前にずんずんとやって来るエンフィー。
「冒険者ぁ? 何夢見てるのナヴィお姉ちゃん。お姉ちゃんの仕事は
『駆け出し冒険者に、最初のダンジョンの情報を与える村人A』
よ! ぷぷっ。頑張ってね!」
エンフィーはナヴィに勝るとも劣らない容姿で、誰もが魅了されるであろう完璧に作られた笑顔で言い放った。
「え、あたしの異世界ライフ、これから始まる大冒険、テリウス様との出会い、全部ないってこと……」
そんな、そんなああああああああああああ。
「そういうことじゃ、どんな仕事でも誇りを持って全うする。当たり前と言っていたじゃろ」
「そーそ、まぁ私はまだ仕事はできないけど、お姉ちゃんのサポートくらいはするわ! 必要ないくらい簡単だと思うけどね」
その瞬間、玄関に付いているベルがカランカランと鳴り響いた。
「すみませーん!」
「さぁ来たぞナヴィ。しっかりと仕事を全うするんじゃぞ」
「頑張ってね! ナヴィお姉ちゃん! ぷっ」
「なんで……どうして……」
「あ、あのう、僕駆け出し冒険者で、ダンジョンの場所を……」
その時、ナヴィの方から大きく息を吸う音が聞こえた。
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※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
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