村人Aは勇者パーティーに入りたい! ~圧倒的モブが史上最高の案内人を目指します~

凛 捺也

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第九章 王都公認 案内人適性試験 最終試験 準決勝編

99.準決勝に向けて⑦

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 日付が変わり、準決勝前日の早朝になった。

「ふわぁ。結局昨日は一睡もできなかった……」

 目元に隈ができたナヴィは気分転換で街をぶらついていた。繁華街の様に賑わっていた夜の様子とは打って変わって早朝の街には人通りはほとんどなく、通りにはナヴィ以外誰も歩いていなかった。

 あたしがエンフィーから聞いたブランの話で頭がいっぱいだったのもそうだけど、サテラちゃんの新スタイルの模索もしてたらもう日が昇ってた……。

「まぁ準決勝は明日なんだしこのくらいしないとね……それよりたまには一人でこうやって早朝の街を歩くのもいいわねぇ」

 太陽の光を全身で受け止めようとするかのように体を伸ばすナヴィ。

「よし、今日も頑張りますか!」

 身体を伸ばし終え、振り返りハンナとエンフィーと泊っていた宿に戻ろうとした瞬間、ナヴィの目の前を見覚えのある子どもが通りかかった。


「え、ねぇ、あなたちょっと待って」

「ひっ!」

「ねぇ、あなたダリウス君……だったよね?」

「あ、あなたは確かサテラの……」

 あたしが今声をかけた時の反応。あれは確実にブランだと思った怖がり方よね……。

「あの、僕、練習しないといけないんで、それじゃ」

 そのままそそくさとナヴィの前を去ろうとするダリウスをナヴィは腕を掴んで止めた。

「待ってダリウス君! え!?」

 なに……この細い腕。

「は、離してください、痛いです」

「あ、ご、ごめん」

 ダリウスは腕をぶんと大きく振りナヴィの手を払った。

「ねぇ、ダリウス君。昨日ご飯は食べたの?」

「あ、あなたには関係ありません」

 あの細い腕……それに腕を掴んだ時の痛がり方。この子の精神はもう。

「……辛かったのね」

「え……?」

 ダリウスはナヴィの思いもしなかったの言葉に驚きナヴィの方をゆっくり見る。

「ナヴィさん。僕……僕……」

 ナヴィはダリウスの両肩を持ち首を横に振った。

「いいのよ何も言わなくて。昨日もほとんど眠れなかったんでしょう? 無理しないで。ブランの言う事は信じちゃダメ」

「ナヴィさん、僕昨日はもう死にたいって」

 大粒の涙を流しながらナヴィに体を委ねようとした瞬間、ナヴィの背後からブランの姿が見えた。

「ひっ! ブ、ブランさん。ブランさんは八時に特訓場所に来るはずじゃ……」

「君がちゃんと練習してるか気になってね。そう思って早起きして見たらこれだ。ここでナヴィと何をしてる」

「あ、あの、ぼ、僕は」

 口をパクパクと開け閉めはされるものの恐怖からか言葉が出てこないダリウスの姿を見たナヴィがブランの目の前に立ちダリウスを庇った。

「ブラン。あなたこの子をどこまで追い詰める気なの? もうこんなことやめなさい」

「ふふ、何を言っているんだ。君こそ僕の大事なパートナーを自分の優勝の欲しさの為だけに洗脳しないでもらえるかな」

「せ、洗脳!? あたしはそんなつもりじゃ……」

「そうでもしなきゃこんな朝早くにお互いのパートナーを連れずに密会なんてしないだろ。こんなの反則と言っても過言ではない。今からスーザンさんにでも報告しに行こうかな」

「……構いません」

「は、今なんて?」

「構いません」

「このまま失格になるんだぞ」

「はい。それでも冒険者の命を守る事も上級ガイドの役目です。あたしはこの試験で失格になったとしてもこの子のことは守ります」

「な、ナヴィさん」

「ふ、綺麗ごとだ。対戦相手のパートナーだぞ? そんなことをして何になる」

「自分の気持ちを押し殺してまで勝利が欲しいと思えるほどあたしは人間できてないから」

「ふふふ。こんなのがパートナーだと第一王女様もさぞ気を使って大変なんだろうな!」
「ダリウス行くぞ……」

「……はい」

 その言葉を聞いたダリウスが何かにとりつかれたかのように目の色を変え、ふらふらとブランに向かい歩いて行く。

「ダリウス君! もういいのよ! だめ、これ以上はやめて。あたしが守るから!」

「ナヴィさん」

「おいダリウス。早く来い。また昨日みたいにされてぇか」

「ブランさん」

 お互いの掛け声に反応し頭を抱えるダリウス。

「ダリウス。強くなりたいんだろ? 出来損ないのお前が強くなるためには俺の言う事だけ聞いてればいいんだ。そうだろ?」

「……」

「ダリウス君聞いちゃだめ!」

「部外者は黙ってな。これはパートナー同士の信頼関係を築くための時間だ」

 ブランがダリウスに近づき肩を強く掴んだ。

「痛い。ブランさん痛いです」

「いいかダリウス。お前は優秀な冒険者のお兄さんとは違い出来損ないなんだ。お前が優勝するくらい強くなれば家族も、そしてお兄さんも認めてくれる。俺はその為の手伝いがしたいんだよ」

「……待ってブラン。もしかしてそのお兄さんって」

「ブランさん……それは!!」

 ブランを止めようとするダリウス。しかしそれをものともせず話を続ける。

「あぁ、ナヴィ、君の憧れだった『白銀の剣聖 テリウス』だよ。名前も似てるだろ」

「まさか……そんな」
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