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第十三章 ブラッディフェスト 序章

245.託す思い

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 こいつらいつの間にあたしの額に。



「コノクソ!!」



「こっちももう魔力は殆ど残ってねぇ。ここで決めさせてもらう」



「ギャ!」



 クオードはダリアの眉間に檄を突き刺し、ウルカヌスの炎を体に流し込んだ。



「燃えろ」



「ギヤァァァァァァァァ!!!」



 ダリアの全身に豪炎が走り、赤褐色の鱗は墨が燃え切ったような灰色へと変わっていった。



「がはっがはっ、あ、あぁ、あつい、熱い」



 そして燃え切った龍鱗は一枚、また一枚と剥がれ落ち、人の姿へと戻っていった。



「死ぬのが怖いか? ダリア」



 四つん這いになっていたダリアの前にクオードが立ち、人の姿へと変わったダリアを見下ろした。



「は、は、はぁ、はぁ?」



 何言ってんだこいつ。



 ばっかじゃねぇ―の。



 あたしが死ぬ?



 そんなわけないでしょ。



 四聖神官ディノール様の従者が一人ダリア様だぞ。



 ブラッディフェストのまだ序章に過ぎないこんなところなんかで。



「終わってたまるかよぉぉォォォ!!」



 ダリアは残っているすべての力を振り絞り、もう一度龍の姿へと変身しようと咆哮する



「!? こいつ……ん」



「ア、あれ……」



「おい、クオード! あれは……」



 クオードの全身に炎の姿で纏わりついていたウルカヌスがダリアの異変に気付く。



「あぁ、あれは。もう」



「なんで、なんでドラゴンの姿に……か、体が」



 途中まで変身しかけていた龍の形態からみるみるうちにまた人間の姿へと戻っていった。



「……ダリア。お前鱗のこと知らねぇのか」



「はっ? 鱗」



 その場で力尽き倒れたダリアが首だけをクオードの方に向ける。



「俺もヴィオネットに聞いただけだが、ドラゴン属の死。それは鱗がすべて剥がれ落ちた時」



「鱗が、全て……?」



「そうだ。さっきの俺の攻撃でほとんどの鱗を失ったお前にはもうその鱗は残っていない」



「……」



「お前の足元を見てみろ」



「足元。これはあたしの……」



「お前が最後の変身しようとしたときに落ちたぞ」



「う……そ」



 あれ、なんか、瞼が重い。



 視界が暗い。



 さっきまで感じていたアギルの魔力も感じない。



「お前が受け取ったそのドラゴン属の力はお前には適応しきれていなかった。だから簡単に剥がれ落ちた」



「ははは、そんなルールがあったんだね」



 ダリアの動けない姿を憐みの目で見つめるクオード。



「……」



「おいクオード、止めは刺さないのか?」



 精霊の姿へと戻ったウルカヌスがクオードに問いかけた。



「いいや、もうそれをする必要はない」

「この子はもうここで……」



「ディノール様」



 今になって気づいたよ。



 こういうこともあって背中を向けてでも伝えろって言ってたんだね。



 アギルと一緒に最後までディノール様の隣にいようと思ってたけど。



 ここで終わりか。



 半龍属としてのあたしの人生は短かかったし、とてもいい人生とはいえなかったけど。



 それでも、ディノール様に拾われてからの二年間は。本当に幸せだったなぁ。



「おい。ダリア」



 だから、最後の最後まで。



 この残り少ない命を賭けて。



 こいつを。



「……ごめんね。おじさん。」



「!?」

「どうしたウルカヌス!」



「クオード。こいつから離れろ!!」

「は!?」



 横たわっていたダリアの身体が赤く膨れ上がり、一気に膨張し始めた。



「ウソだろ!?」



「一緒に死んで」



 ダリアがその言葉を放った瞬間。ダリアの身体が破裂し大爆発を起こした。





 その一帯から数キロ離れた戦線では。



「おらぁぁぁぁ!!」



「ギャァァァ!」



「ふん!!」



「ギャ!」



「よし、何とか耐えきれてるぞ」

「あぁどうにかなりそうだな」



 二人の冒険者が魔物との戦いで一息ついた瞬間だった。



「「!?」」



「何だ今の音」

「おい、あっちの方で爆発が起きてなかったか!?」

「あぁ、俺も聞こえたが、あっちの方はまさか……」



「クオードさんが幹部と戦っているって」

「まじかよ」



「それにあの爆発はレミアちゃんの作った地雷の爆破とは違う」

「ってことは……」



「とりあえず行ってみよう。道中の敵を倒しながら行けばまだ間に合うかもしれない」

「俺はここで食い止める。お前だけ様子見に行ってくれ」

「分かった」



「かなりの大爆発だったが、あの近くにもしクオードさんがいたら……ひとたまりもないんじゃないか?」



 一人の冒険者が固唾を飲み、爆発の起きた北側へと向かい走り始めた。





 そして数分後。



「たしかここらへんで爆発が……あ、いた!? クオードさん!」



 爆発に巻き込まれていたはずのクオードが爆破痕の残る草むらで座り込んでいた。



「あ、応援か? ちと遅かったな」



「すみません。それより先ほどの爆発は……?」



「あぁ、配下の一人と戦ってな。その断末魔だ」



「断末魔……? それより、爆発の大きさの割にはあまり怪我をしてないですねクオードさん」



「俺の精霊が即座にそれに気づいて炎で守ってくれたんだ」



「流石ですね。スピリットマスターの力は」



「俺がすごいわけじゃねぇよ俺は守られただけだ」



「何言ってんすか、今座り込んでんのも精霊に大量の魔力を突っ込んだせいでしょ」



「あ、ははは、情けねぇな」



「それより、緑が美しかったこの原っぱも、焼き焦げて見る影もないですね」



「あぁ、だが生は勝ちとることはできた。ただ侵攻という意味では負けたのかもしれないな」



「はい? どういう意味でしょうか?」



「守らねぇといけねぇのは命だけじゃねぇってことだ」



「……なるほど。そうですねここも俺達が守っていかないと、ですね」



「あぁ……ん?」



 この鱗は……。



 クオードは足元に落ちていた一枚の龍鱗を手に取った。



「クオードさん?」



 ドラゴン属は死に際にその意志を一枚の龍鱗に託してこの地を去る。だったかヴィオネット。



 こいつにもそれなりの理由と覚悟があったっつーことか。



 一度強くその龍鱗を握るクオード。



「よし、次に行くぞ」



 クオードはひょいっと身軽そうに立ち上がった。



「え、ちょっ、もう少し休んでからじゃないと……」



「もたもたしてらんねぇよ、本当の戦争はこっからなんだ」



 ヴィオネットももう向かってるはず。急がなきゃな。

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