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Vanish

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終わりの奇跡

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彼女が私と出会ったこと。それはいわゆる“奇跡”だったのでしょう。

私が戦争から帰ってきた頃には、愛した妻と子供も、両親も死んでいました。家があったところには瓦礫と死体が山積され腐乱臭が酷く、そこを直し再びそこで暮らそうとは思えませんでした。いいや、そもそも私は生きようとは思えませんでした。愛する全てを投げ打って國の為に戦に出て、敗戦して残ったものがこれだけ。これならもういっそ、死んでしまった方が楽なのではないかと。

私はゆく宛もなく亡霊のようにさ迷い続けました。物も食べず水浴びもせず、爛れた傷口からはうじが湧き始めました。それでも構わず、ただ1人で静かに眠る事の出来る場所を探し求めて。
1匹の友達が出来ました。名も知らぬ小さな鼠でした。私が夜に草に倒れ目を閉じると、私に湧いたうじや崩れ落ちた肉を食べるのです。私を食らうその鼠は私のそばをチョロチョロと歩いて回っていました。

ある時、開けた草地を見つけました。どれだけ歩いたのか、ここがどこかも分からないがきっと恐らくどこかの山の中なのでしょう。その草地は高い木に覆われており、人気もなく空気の綺麗なところでした。
その中央に1つ大きめの石があったので、それを墓石にでも見立てようと思い、その近くに腰を下ろして目を閉じました。異臭と虫と汚れた肌は自分でも嫌気がさしますが、それでももう死ぬのでいいだろうと思いました。

ふと、昔のことを思い出しました。思えば最初から良い人生では無かったと。決して裕福ではない家庭の末弟で、家族と言うよりも召使いのような、そんな。恋人は兄に奪われ、やっと見つけた最愛の人とも結局は戦争で離れ離れ。肉親も兄弟も妻も戦の火に焼かれ、天涯孤独となってしまった。楽しいこともなくは無かったが思い出せるようなことは無く、あまりに味気なくて笑ってしまいました。雫が溢れました。
バカみたいだ、と。気が狂ったように笑いました。もしかしたらもう狂っていたのかもしれませんが。

2日後、もう動く事が出来なくなりました。友達はいつの間にかどこかへ行ってしまい、烏が近くで鳴き始めました。眠くて眠くて仕方がなくて、目を閉じようとした、その時でした。辺りの木々の隙間から、私と同じような風貌の女性が1人、フラフラと歩いてきました。きっと理由は私と同じ、死に場所を探していたのでしょう。彼女も私のことを見つけ、何も気にすることなく私の隣に座りました。

ちらりと彼女を見ます。やせ細り、傷はないものの薄汚れ、虫が湧きお世辞にも綺麗だとは言えないものでもす。ですが彼女はたしかに美しかった。痩せた頬も細い首も骨ばった指も憂いを帯びたその瞳も、その全てが美しかった。

「あなたも」

私はそう、音をこぼした。
彼女はこちらに視線を向け世界に蓋をして、私と同様に地にふせてすぅと息をした。
私も、世界に蓋をした。
最期の世界に、彼女を焼き付けたまま。

それだけで、全てが伝わったような気がします。
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