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Vanish

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ごみ捨て

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青空に手を伸ばした。
雲ひとつなくて、ここはド田舎だから遮るビルも電線も何も無い、汚れも穢れも邪魔するものも何も無い綺麗な青。まるで映画のワンシーンみたいだ、なんてふっと笑みを零して、腕を下ろす。
どれだけ青い空があって、吸い込まれそうだとか綺麗だとか、手が届いたらなぁとか思っても実際に手を伸ばす人なんてそうそういない。いるとすれば僕のような変人かそういうのが大好きなメルヘン少女とか、厨二病とか自分大好きなナルシストとかそういうヤツらくらいだろう。

何も無いところに手を伸ばして何かを掴もうとしても、何も掴めるわけがないのだから。本当に欲しいものなんて、手に入るはずがないのだから。


家に帰り、ベッドに身を投げた。目を開けば見慣れた天井があって、他に目を移せば自分のために用意された枕とか机とかカバンとかタンスとかが目に入る。
自分の居場所。
なのに、何故か息が詰まるのだ。まるで鍵の空いた檻に入れられた鳥のようで。

狭苦しくて息が詰まって、広がる空に逃げたくて、身を起こして窓を開けた。広がる空を見れば多少その息苦しさは消えるけど、居場所のないその不安定な空が怖くて、
結局窓を閉じてしまった。

定住することが怖くて、そのくせ定住できないのが怖い、なんて。馬鹿らしいよな。





すぅと息が通る、なんて最後に経験したのはいつだったか。気づいたのは小学校3年で、それくらいからもう鬱屈していたから……まぁそんなものか。

およそ5年間。吸える空気の半分だけを吸って生きてきたような気がする。余ったその5年の半分の空気はどこに行ったのだろう?僕の元へ還元される日は、来るのだろうか?

きっと、ゴミ箱に捨てられてしまったのだろうな。



そう考えると、ゴミ箱には僕のものが沢山詰まっていて、まるで宝石箱だ。
母の作ったお弁当も買ってもらったノートも上履きも教科書も体操着も吸える空気も学校での居場所も、きれいな左腕も男に穢されていない男の子の体も、僕自身も。

僕がそれに含まれてしまったからゴミ箱になってしまったけれど、僕がいなければそれはきっと素敵だったのだ。



気づけばまた、ゴミ箱に自分の欠片を捨てていた。ゴミ箱も、もういっぱいになったんだし捨てなきゃな。

口の端をきつく縛って、腰を浮かす。

ゴミが溢れないように、他に逃げないように袋のはしをきつく縛って外に出た。




僕はゴミを捨てに来た。だからマンションの屋上に立っている。



ゴミを捨てることは普通のことだ。
そこに違和感も疑問も、意味もないよ。
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