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第1章 すっごく嫌だけど我慢して一緒に住んであげる

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 翌日、スカーレットは早朝からコウスケを探した。見つけたのは昼過ぎ、人通りの多い場所だ。いつもならすぐに強襲するが、今日は隠れてコウスケが人通りの少ない場所に行くのを待つ。

 眠たそうな顔をしたコウスケは地区の裏通りに入る。
 ここはかつて街の中心になるような住宅街だったが、今は住民たちの高齢化が進み古い建物が立ち並ぶ人通りも少ない場所だ。
 腰にさした母からもらった剣に目をやってコウスケの前に出る。

「あ? クソガキなんのようだ?」
「な、なんのようって……決まってるじゃない」

 手の振るえがとまらない。

「ああ、俺を殺りにきたのか」
「そ、そうよ」

 心臓の鼓動も止まらない。身体中から汗も激しく流れている。

「ちょっと待っててくれ。今日はカジノに行くっていう大事な予定があるんだ」
「ふ、ふ、ふざけないでよ……今日は本気なんだから」
「なんでえいつもは本気じゃなかったのか?」
「今日は特にってことよ」

 コウスケはいつものようにひょうひょうと話す。
 それがスカーレットをさらに動揺させる。

「ところで今日も汚ねえかっこしてんな。俺が昨日買ってやった服はどうしたんだ?」
「ア、ア、アンタに買ってもらったもんなんか着るわけ……キャ!」

 柄を抜こうとしたそのとき、コウスケは懐にさしてある剣を奪いとられた。
 

「へへへ」

 勝ち誇ったかのように笑いながら、コウスケは鞘の上から剣を握りつぶす。
 スカーレットはそれを呆然と眺めることしかできなかった。

「おめえ、虐待されてるよな」
「なに言ってんの? そんな分け……」
「だってお前、今日あざだらけじゃねえか」
「これはママとの剣術の稽古……」
「稽古でこんな怪我はしねえよ」
「……」
「で、この剣で俺刺してこいってでも言われたんだろ」

 スカーレットは沈黙し、うつむく。

「自分で俺を殺りにくるなら分かるぜ。でもどんな恨みがあっても自分の子供を人殺しにしようなんて普通の親がするかねえ」

 うつむいたままコウスケの顔を伺った。

「今日はそんなおめえに良い儲け話があんのよ。子供を虐待してる親ってのは罪人だわな。だから俺が自警団としておめえのお袋をしょっぴいでやる」

 いつもと違い気を使っているとすぐに分かるたどたどしい作り笑いを浮かべている。

「しょっぴがれた後の生活も心配すんな。孤児や浮浪児の保護も自警団の仕事だから、俺も少しだけ教会に顔がきくんだよ。そんな中でもとびきり良い教会をみつくろって紹介してやらあ!」

 声色もそのせいかぎこちない。

「飯がメチャクチャ美味い教会とかあるぞ。あと王家や有力諸侯に顔が利いて良い職を斡旋してくれる教会もある。そこにいきゃ今より断然いい生活が待っている」

 なにも知らずに善人ぶるコウスケに心の底から強い怒りが込み上げてきた。

「どうだ? お前は素晴らしい人生を歩めて、俺も罪人を捕まえた報奨金がもらえる。お互いに得のある――」
「ふざけるな!」

 背負っている木剣を手に取る。。

「ママは虐待なんかしてない!」

 いつも以上に強烈な剣撃をコウスケに放った。

「ママはクズでノロマな私のために毎日剣術を教えてくれてるんだ!」

 頭上、顔面、肩、腰、モモ、身体中のありとあらゆる部分に剣撃を打ち込んだ。

「ママは魔族の軍の中でも親衛隊に入れるかも知れないほどの凄腕の剣士だったんだ!」

 打ち込む度ににぶい大きな音がする。
 血もあたりに沢山飛び散る。

「それなのにアンタに戦場で乱暴されて私ができてしまったせいで人生が滅茶苦茶になったんだ!」

 不思議なのはコウスケだ。いつもの様に助けを求めて逃げ回ることなどせずに、なにもしゃべらず正面から打たれ続けている。

「アンタが! アンタが皆悪いんだ!」

 そして悲しそうな目でスカーレットを見つめ続けている。
 そのことがよりスカーレットを逆上させて、剣撃はどんどん激しくなっていった。

「はあ、はあ、ハア……」

 打ちつかれて手を止めたその時、コウスケの身体が地面に崩れ落ちた。

「え? 嘘?」

 恐る恐るコウスケの顔を伺う。
 瞳孔が開いている。
 心臓にも手をあてる。
 動いていない。
 
 殺した……。そう確証した瞬間に押しつぶされそうな恐怖と罪悪感に襲われた。

「あ……ああ……」

 耐え切れずこの場から逃げ去った。
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