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第六章 レオンの剣術道場編
第92話 レオンの剣術道場 其の三
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ヨーゼフさんに案内されながら、道場の長い廊下を歩く。うちの道場とは比べものにならない広さで、一つ一つの部屋が驚くほど大きかった。きっとたくさんの人が入れるように造ったのだろうが、実際に満員になるほど人が入ることはあるのだろうか。
魔法学校のように迷路のような複雑さはないが、これは単純に距離があって移動に時間がかかりそうだと思った。今、俺が歩いている廊下だって、うちの道場の横幅よりも長く見える。
廊下から中は見えなかったが、前を通った部屋から掛け声が聞こえてきて、気圧されていた。「一、二……」と声を揃えたものや、何を言っているのか聞き取れないほどたくさんの声──色んな種類の掛け声があったが、どれもとにかく声が大きいのだ。
いくつか長い廊下を渡って、やっとレオンさんとのご対面である。この部屋でレオンさんは待っているらしい。
緊張して速くなる鼓動を抑えるために深呼吸をする。それにしてもレオンさんは本当にどんな人なんだろうか。
ヨーゼフさんやすれ違った他のお弟子さんもすごい筋肉だったから、やはり筋骨隆々なのだろう。剣を振るのに筋肉は欠かせないし。
怖い人じゃないといいな……あといきなり勝負を仕掛けてくるのもやめてほしい。でもあの集団をまとめているということはきっと威厳のある人なんだろう。
「こちらです」
ヨーゼフさんが扉を開けるや否や、中から人が飛び出してくる。
「コルネく~ん、待ってたよぉ」
顔を少し上気させながら、俺のことを待っていたと告げるやや小柄なおじいさん。その頬は緩みきっており、元気のいいただの好々爺のようにしか見えない。
ここにレオンさんがいると言ったヨーゼフさんの言葉を疑いそうになるが……部屋の中には他に誰もいないし、きっとこれはそういうことなんだろう。
レオンさんが襲われて別人が成り代わっているという可能性も考えたが、Sランク冒険者であるレオンさんなら返り討ちにしてしまうだろう。
「ほら、座って座って。ジュースが好きって聞いてたから買うてみたんじゃ。今持ってくるから」
俺が現実を受け入れ始めていたところで、レオンさんはそう言って奥に消える。すっかりレオンさんのペースに呑まれてしまっている。
とりあえず言われるがままに、ゆったりとした長椅子の端に腰掛ける。
「孫……」
斜め後ろで椅子の横に立っているヨーゼフさんが何か呟いた気がしたが、よく聞こえなかった。おそらく俺に言ったことではないはずだから、気にしなくともいいだろう。
「はい、口に合えばええんじゃが」
気が付くと目の前でレオンさんがジュースの入ったグラスをテーブルに置いていた。うちで飲んでいるのとは違う色だから違う果実から絞ったものなんだろう。
レオンさんも同じものを飲んでいるので大丈夫だろうと思い、口をつける──美味しい。すっきりとした酸味にほどよい甘み。何の果物なのかは分からないが、飲みやすくて美味しいと思った。
「気に入ってもらえてよかったのう」
そう目の前の好々爺は笑っていた。その笑顔は気迫もなく、ただの元気な気のいいおじいさんにしか見えない。本当にこの人は師匠と同じくらい強いのだろうか。
魔法学校のように迷路のような複雑さはないが、これは単純に距離があって移動に時間がかかりそうだと思った。今、俺が歩いている廊下だって、うちの道場の横幅よりも長く見える。
廊下から中は見えなかったが、前を通った部屋から掛け声が聞こえてきて、気圧されていた。「一、二……」と声を揃えたものや、何を言っているのか聞き取れないほどたくさんの声──色んな種類の掛け声があったが、どれもとにかく声が大きいのだ。
いくつか長い廊下を渡って、やっとレオンさんとのご対面である。この部屋でレオンさんは待っているらしい。
緊張して速くなる鼓動を抑えるために深呼吸をする。それにしてもレオンさんは本当にどんな人なんだろうか。
ヨーゼフさんやすれ違った他のお弟子さんもすごい筋肉だったから、やはり筋骨隆々なのだろう。剣を振るのに筋肉は欠かせないし。
怖い人じゃないといいな……あといきなり勝負を仕掛けてくるのもやめてほしい。でもあの集団をまとめているということはきっと威厳のある人なんだろう。
「こちらです」
ヨーゼフさんが扉を開けるや否や、中から人が飛び出してくる。
「コルネく~ん、待ってたよぉ」
顔を少し上気させながら、俺のことを待っていたと告げるやや小柄なおじいさん。その頬は緩みきっており、元気のいいただの好々爺のようにしか見えない。
ここにレオンさんがいると言ったヨーゼフさんの言葉を疑いそうになるが……部屋の中には他に誰もいないし、きっとこれはそういうことなんだろう。
レオンさんが襲われて別人が成り代わっているという可能性も考えたが、Sランク冒険者であるレオンさんなら返り討ちにしてしまうだろう。
「ほら、座って座って。ジュースが好きって聞いてたから買うてみたんじゃ。今持ってくるから」
俺が現実を受け入れ始めていたところで、レオンさんはそう言って奥に消える。すっかりレオンさんのペースに呑まれてしまっている。
とりあえず言われるがままに、ゆったりとした長椅子の端に腰掛ける。
「孫……」
斜め後ろで椅子の横に立っているヨーゼフさんが何か呟いた気がしたが、よく聞こえなかった。おそらく俺に言ったことではないはずだから、気にしなくともいいだろう。
「はい、口に合えばええんじゃが」
気が付くと目の前でレオンさんがジュースの入ったグラスをテーブルに置いていた。うちで飲んでいるのとは違う色だから違う果実から絞ったものなんだろう。
レオンさんも同じものを飲んでいるので大丈夫だろうと思い、口をつける──美味しい。すっきりとした酸味にほどよい甘み。何の果物なのかは分からないが、飲みやすくて美味しいと思った。
「気に入ってもらえてよかったのう」
そう目の前の好々爺は笑っていた。その笑顔は気迫もなく、ただの元気な気のいいおじいさんにしか見えない。本当にこの人は師匠と同じくらい強いのだろうか。
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