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第九章 ルミーヴィアへの旅編
第180話 ニザヘナにて
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マリーに回復魔法をかけてもらいながら、やってきた削り氷を三人で一つずつ食べた。三人同時に食べていたので、さっきは兄さんで今度は俺といったようにひっきりなしにマリーにかけてもらうことになってしまい申し訳なかったが、マリーは「今は食べるものないし、別に」と言っていたのでその言葉に甘えることにした。
その後でいくつか追加で食べたところで、みんなそれ以上は食べられなくなってしまったため、お店を出ることにした。
「ふぅ……美味しかった」
そう言って満足そうにお腹をさする師匠は、本当に幸せそうだ。もう旅の目的を完遂したかのようなほっこりとした雰囲気になっているが、まだルミーヴィアには着いていない。
だからといってどうせ今日はこれ以上は進めないのだ──ならば、この街をめいっぱい楽しむしかないだろうということで、観光をすることとなった。
とはいえあまり観る場所はなく、街の中心にそびえる鐘撞き堂に上がって鐘が鳴るのを見て、それから古びた教会の壁に描かれた絵を見て、宿をとった。
空には赤みがさしているが、まだ外は明るく夕食までには時間がある。宿屋の部屋で兄さんと何をしてすごそうかと話していると、突然扉が叩かれる。
「コルネくん、暇してない?」
静かな部屋にいきなり飛び込んできた音に一瞬ビクッとするが、扉の向こうからは少しくぐもった緊張感のない師匠の声が聞こえてくる。
鍵を開けると師匠がいつぞやのカードゲームを持って立っていた。アクスウィルに行ったときに持っていた四つのスートが描かれた一般的なものだ。
この微妙にできてしまった空き時間にピッタリのアイテム──師匠が背負っていた小さめの鞄にいったい何が入っているんだろうと思っていたが、まさかそんなものが入ってるとは思わなかった。
俺も相当浮かれていたと自覚しているが、やっぱり師匠の方が俺よりもこの旅を楽しみにしていたんだと改めて思った。
「マリーさんも誘ってみんなでやろうよ、こういうゲームは人数が多ければ多いほど盛り上がるからね」
たしかに三人だとイマイチ盛り上がりに欠けるゲームはかなりある。四人で出来るとなると楽しみだ。
「俺は鍵閉めてから行くから、コルネは先にロンド様と行っといて」と兄さんが部屋の奥に消えていったので、師匠と先にマリーの部屋へ向かうことにした。きっと兄さんもすぐに来るだろう。
* * *
ベリーづくしのスイーツはどれもとても美味しかった。まさかこんな甘くて美味しいものが食べられるなんて思ってもいなかった。
そして高い鐘撞き堂からいい景色を見たり、いくつかお店に入ってみたりして──すっごく楽しい時間だった。
こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。だから、ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに──そう願ってしまう。
分かっている。どんな旅だって必ず終わりは来るし、私はルミーヴィアで回復魔法を極めなければいけない。これはその出立のための旅。
アルノさんに紹介状はもう書いてもらっているし、そのためにみんなに付いてきてもらったのに、やっぱりやめました、なんて口が裂けても言えるはずがない。
何より自分で決めたことじゃないか。ここでやめるわけにはいかない。
でも──レネさんは性格がきついってアルノさんは言ってたし、ルミーヴィアに行けばひたすらに厳しい修行の日々が待っていて、一切楽しみはないかもしれない。
だから、この旅を楽しもう。いずれ──明日か明後日には終わる旅だと分かっていても、今この瞬間を全力で楽しもう。
そこまで考えたところで、コン、コン、というノックの音に現実に呼び戻される。
「マリーさん、カードゲームやらない?」
ロンド様の声が扉越しにする。アルノさんやコルネも側にいるらしく、二人の喋り声も一緒に聞こえてくる。
「もちろんやります!」
何かを振りきるように私はそう答え、扉を開ける。
その後でいくつか追加で食べたところで、みんなそれ以上は食べられなくなってしまったため、お店を出ることにした。
「ふぅ……美味しかった」
そう言って満足そうにお腹をさする師匠は、本当に幸せそうだ。もう旅の目的を完遂したかのようなほっこりとした雰囲気になっているが、まだルミーヴィアには着いていない。
だからといってどうせ今日はこれ以上は進めないのだ──ならば、この街をめいっぱい楽しむしかないだろうということで、観光をすることとなった。
とはいえあまり観る場所はなく、街の中心にそびえる鐘撞き堂に上がって鐘が鳴るのを見て、それから古びた教会の壁に描かれた絵を見て、宿をとった。
空には赤みがさしているが、まだ外は明るく夕食までには時間がある。宿屋の部屋で兄さんと何をしてすごそうかと話していると、突然扉が叩かれる。
「コルネくん、暇してない?」
静かな部屋にいきなり飛び込んできた音に一瞬ビクッとするが、扉の向こうからは少しくぐもった緊張感のない師匠の声が聞こえてくる。
鍵を開けると師匠がいつぞやのカードゲームを持って立っていた。アクスウィルに行ったときに持っていた四つのスートが描かれた一般的なものだ。
この微妙にできてしまった空き時間にピッタリのアイテム──師匠が背負っていた小さめの鞄にいったい何が入っているんだろうと思っていたが、まさかそんなものが入ってるとは思わなかった。
俺も相当浮かれていたと自覚しているが、やっぱり師匠の方が俺よりもこの旅を楽しみにしていたんだと改めて思った。
「マリーさんも誘ってみんなでやろうよ、こういうゲームは人数が多ければ多いほど盛り上がるからね」
たしかに三人だとイマイチ盛り上がりに欠けるゲームはかなりある。四人で出来るとなると楽しみだ。
「俺は鍵閉めてから行くから、コルネは先にロンド様と行っといて」と兄さんが部屋の奥に消えていったので、師匠と先にマリーの部屋へ向かうことにした。きっと兄さんもすぐに来るだろう。
* * *
ベリーづくしのスイーツはどれもとても美味しかった。まさかこんな甘くて美味しいものが食べられるなんて思ってもいなかった。
そして高い鐘撞き堂からいい景色を見たり、いくつかお店に入ってみたりして──すっごく楽しい時間だった。
こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。だから、ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに──そう願ってしまう。
分かっている。どんな旅だって必ず終わりは来るし、私はルミーヴィアで回復魔法を極めなければいけない。これはその出立のための旅。
アルノさんに紹介状はもう書いてもらっているし、そのためにみんなに付いてきてもらったのに、やっぱりやめました、なんて口が裂けても言えるはずがない。
何より自分で決めたことじゃないか。ここでやめるわけにはいかない。
でも──レネさんは性格がきついってアルノさんは言ってたし、ルミーヴィアに行けばひたすらに厳しい修行の日々が待っていて、一切楽しみはないかもしれない。
だから、この旅を楽しもう。いずれ──明日か明後日には終わる旅だと分かっていても、今この瞬間を全力で楽しもう。
そこまで考えたところで、コン、コン、というノックの音に現実に呼び戻される。
「マリーさん、カードゲームやらない?」
ロンド様の声が扉越しにする。アルノさんやコルネも側にいるらしく、二人の喋り声も一緒に聞こえてくる。
「もちろんやります!」
何かを振りきるように私はそう答え、扉を開ける。
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