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第九章 ルミーヴィアへの旅編
第185話 初弟子(レネ視点)
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宿屋にアルノが入ってきたときは驚いた。それは彼が変わってしまっていたからではない。彼の周りが変わっていたのだ。
彼と一緒にいたのは教会の烏の他のメンバーではなく、彼よりも一回り年下の少年と少女──そして、甘いマスクの優しそうな男性。
少女の方はおそらく手紙にあったマリーちゃんだろう。不安そうな表情を浮かべているのを見て少し心配になるが……まあ、こんなのが自分の師匠だと知ったら不安にもなるか。
彼女は記念すべきアタシの初弟子になる子だ。アタシにとって、弟子とは大きな意味をもつ。
アタシは王都の教会でシスター候補として育てられた。王都の教会にはいつもたくさんの人が回復魔法をかけてもらうためにいろいろな場所からやってくる。
シスターになる条件として回復魔法を使えなければならないため、全てのシスターは回復魔法を使えるのだが、その中でも王都のシスターは特別だ。回復魔法の腕が抜群によく、そのためだけに遠くから病体に鞭打ってやってくる人もなかにはいる。
だから王都の教会ではシスター候補を育成して、より効果の強い回復魔法を使える人材を選りすぐる。常に周りと競わされて、落ちこぼれだと判断されれば追い出される。だからアタシは毎日毎日必死に回復魔法を練習した。
元から才能があったのか、他の子と比べると中の上くらいでしばらくは追い出されることはないと思っていた。
ある日、アタシは廊下を歩いている司教様たちの会話を偶然聴いてしまった。
「今日も馬鹿みたいに朝から晩まで働いてやんの、いくら頑張ってもシスターにはお金はほとんど入らないのにな! ほんと、いい金儲けの道具だぜ。まあ本人たちは回復魔法を自分にもかけてるから働きすぎてる自覚すらないかもしれないがな!」
「おいおい、言ってやるなよ。あいつらのおかげで俺らは美味い酒が飲めるんだからさ」
誰もいないと思っているのか、ギャハハと大きな笑い声をたてながら柱の陰に隠れているアタシの横を通り過ぎていく。いつも厳格な司教様たちは裏でシスターたちを嘲けり笑っていたのだ。
それからアタシは信者に回復魔法をかけているシスターに本当にお金が入っていないのか、たまに回復魔法を教えにきてくれるときを見計らって訊いてみた。
司教様の話は本当だったようで、アタシにはキラキラしているように見えていたシスターの生活も実際は働きづめらしく、魅力的とは到底思えなかった。
神に仕える身だからお金はちょっとでいいの──話を聴いたシスターはそう言っていたが、それなら司教様だってお金はちょっとでいいはずだ。
来る日も来る日も回復魔法を必死に練習してやっとシスターになったというのに、働きの対価である信者から入ったお金は司教様へと渡り、シスターたちは報われないまま司教様たちだけが甘い汁を吸っている──アタシはこの構造が許せなかった。
しかし、だからといって何の権力もないただの小娘のアタシには何もできなかった。
アタシは次の日、教会から追い出されるために精神を病んでしまったふりをした。計画通り、アタシはすぐに教会から放り出された。
毎日同じことの繰り返すのといつ追い出されるか分からない恐怖で、精神が荒んでしまう子はたくさんいたから、大して確かめもされなかった。
そこからアタシは冒険者になった。王都にはたくさんパーティを組んでいない冒険者がわんさかいたから、幸いにも教会で渡された小銭が尽きる前にパーティを組めた。
アタシはしばらく教会に対抗する術を考えてようやく思いついた。今、腕のいい回復魔法使いはみんな教会に属している。
教会以外の回復魔法の使い手が増えれば、少しはあいつらの懐も寂しくなるはずだ。そして質の高い回復魔法は教会の専売特許ではないと民衆が分かれば、教会に行く人も回復魔法を上達させるために教会に入る子どもたちも減るだろう。
最終的に教会に入る子どもを減らすためには、他に回復魔法を学べる場所が必要になる。現在、私塾という形で大人数を抱えていて知名度もあるのはSランク冒険者のレオンとサラの二人のところだけ。
Sランクとまではいかなくとも、人を集めようとすると教える側にはある程度の知名度は必要だ。だからとりあえずアタシはパーティのランクを上げていく必要がある。もちろん回復魔法の腕も、だ。
せめて現役で活躍しているシスターくらいにはならないと、アタシに回復魔法を習いたいと思う人はいないだろう。
だから、アルノからの手紙を読んだときはすごく嬉しかった。ずっと走り続けてきて、やっとここまで来れたんだと思った。
せっかくアタシに習いたいと言ってくれた初弟子──絶対に立派に育てて見せる。心の中でそう固く誓った。
彼と一緒にいたのは教会の烏の他のメンバーではなく、彼よりも一回り年下の少年と少女──そして、甘いマスクの優しそうな男性。
少女の方はおそらく手紙にあったマリーちゃんだろう。不安そうな表情を浮かべているのを見て少し心配になるが……まあ、こんなのが自分の師匠だと知ったら不安にもなるか。
彼女は記念すべきアタシの初弟子になる子だ。アタシにとって、弟子とは大きな意味をもつ。
アタシは王都の教会でシスター候補として育てられた。王都の教会にはいつもたくさんの人が回復魔法をかけてもらうためにいろいろな場所からやってくる。
シスターになる条件として回復魔法を使えなければならないため、全てのシスターは回復魔法を使えるのだが、その中でも王都のシスターは特別だ。回復魔法の腕が抜群によく、そのためだけに遠くから病体に鞭打ってやってくる人もなかにはいる。
だから王都の教会ではシスター候補を育成して、より効果の強い回復魔法を使える人材を選りすぐる。常に周りと競わされて、落ちこぼれだと判断されれば追い出される。だからアタシは毎日毎日必死に回復魔法を練習した。
元から才能があったのか、他の子と比べると中の上くらいでしばらくは追い出されることはないと思っていた。
ある日、アタシは廊下を歩いている司教様たちの会話を偶然聴いてしまった。
「今日も馬鹿みたいに朝から晩まで働いてやんの、いくら頑張ってもシスターにはお金はほとんど入らないのにな! ほんと、いい金儲けの道具だぜ。まあ本人たちは回復魔法を自分にもかけてるから働きすぎてる自覚すらないかもしれないがな!」
「おいおい、言ってやるなよ。あいつらのおかげで俺らは美味い酒が飲めるんだからさ」
誰もいないと思っているのか、ギャハハと大きな笑い声をたてながら柱の陰に隠れているアタシの横を通り過ぎていく。いつも厳格な司教様たちは裏でシスターたちを嘲けり笑っていたのだ。
それからアタシは信者に回復魔法をかけているシスターに本当にお金が入っていないのか、たまに回復魔法を教えにきてくれるときを見計らって訊いてみた。
司教様の話は本当だったようで、アタシにはキラキラしているように見えていたシスターの生活も実際は働きづめらしく、魅力的とは到底思えなかった。
神に仕える身だからお金はちょっとでいいの──話を聴いたシスターはそう言っていたが、それなら司教様だってお金はちょっとでいいはずだ。
来る日も来る日も回復魔法を必死に練習してやっとシスターになったというのに、働きの対価である信者から入ったお金は司教様へと渡り、シスターたちは報われないまま司教様たちだけが甘い汁を吸っている──アタシはこの構造が許せなかった。
しかし、だからといって何の権力もないただの小娘のアタシには何もできなかった。
アタシは次の日、教会から追い出されるために精神を病んでしまったふりをした。計画通り、アタシはすぐに教会から放り出された。
毎日同じことの繰り返すのといつ追い出されるか分からない恐怖で、精神が荒んでしまう子はたくさんいたから、大して確かめもされなかった。
そこからアタシは冒険者になった。王都にはたくさんパーティを組んでいない冒険者がわんさかいたから、幸いにも教会で渡された小銭が尽きる前にパーティを組めた。
アタシはしばらく教会に対抗する術を考えてようやく思いついた。今、腕のいい回復魔法使いはみんな教会に属している。
教会以外の回復魔法の使い手が増えれば、少しはあいつらの懐も寂しくなるはずだ。そして質の高い回復魔法は教会の専売特許ではないと民衆が分かれば、教会に行く人も回復魔法を上達させるために教会に入る子どもたちも減るだろう。
最終的に教会に入る子どもを減らすためには、他に回復魔法を学べる場所が必要になる。現在、私塾という形で大人数を抱えていて知名度もあるのはSランク冒険者のレオンとサラの二人のところだけ。
Sランクとまではいかなくとも、人を集めようとすると教える側にはある程度の知名度は必要だ。だからとりあえずアタシはパーティのランクを上げていく必要がある。もちろん回復魔法の腕も、だ。
せめて現役で活躍しているシスターくらいにはならないと、アタシに回復魔法を習いたいと思う人はいないだろう。
だから、アルノからの手紙を読んだときはすごく嬉しかった。ずっと走り続けてきて、やっとここまで来れたんだと思った。
せっかくアタシに習いたいと言ってくれた初弟子──絶対に立派に育てて見せる。心の中でそう固く誓った。
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