パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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第十章 Aランク昇格編

第212話 Aランク昇格への挑戦 其の六

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 帰ることに決めた次の日から二日かけてラムハまで帰ってきた。Bランクのクエストの報酬で手元にお金があったため馬車を使うという手もあるにはあったが、馬車でも自分で走っても同じ二日かかるので、使わないことにした。

 最近はクエストに行ってなくて体が鈍っていたからちょうどいい運動になった。ヘルガさんは四日連続で走ることになってしまったが、普段道場から動かない分こういうのもいいだろうと言っていた。四日連続はさすがにメンタルが強いと思った。

 走っているうちはクエストに行かないといけない義務感のようなものからも解放されて、宿屋でぼーっとしていた頃が嘘みたいに元気になっていた。

「ただいま帰りました!」
「帰りました、ロンド様」

 ヘルガさんが鍵を開けてさっと中に入るとすぐに師匠が出てくる。

「えっ、コルネくんも!? 二人ともおかえり!」

師匠は俺が帰ってくることを知らない。手紙を出そうにも手紙より先に俺たちが着いてしまうから意味がないのだ。やはり久しぶりに師匠の顔を見ると安心するな。

 しかし師匠のことだから、いきなり俺が帰ってきたらてっきり大はしゃぎすると思っていたのだが、今は少し気まずそうにしているような──なぜだろうか。

 たくさん喋ると思っていた師匠が黙ってしまい謎の間が生まれるたところで、ヘルガさんが鞄から帰りがけにニザヘナで買ってきたベリーを取り出す。

「荷物を置いたらとりあえずお茶にしましょうか。これもありますし」

 * * *

 お茶を飲みながら新鮮なニザヘナベリーを三人で食べる。

「なーんだ、諦めて帰ってきたわけじゃなかったのか」

 一度帰ることにしたと師匠に告げると、いつもの師匠に戻った。どうやら、俺がAランクへの昇格を諦めて帰ってきたと思っていたらしい。

 たしかにそれだと先ほどの師匠の反応に合点がいく。諦めて帰ってきたところに「帰ってきてくれて嬉しい!」と言われたら、ただ気持ちを率直に伝えただけだと分かっていても
、諦めたことを肯定されているように感じて複雑だ。

「今日から何日くらいこっちにいる予定なんだい? あんまり長くいても間に合わなくなってしまうだろ?」
「せっかく帰ったんだから二日くらいはいるつもりでしたけど、具体的にはまだ決まってないですね」

 帰れるという嬉しさと走っている間はヘルガさんと話していたことで、昨日と今日では考えられていなかった。

「これからも定期的に帰るのか、これっきりなのかによっても違ってくるでしょう。コルネくんはどうしたいですか?」
「定期的に帰りたいです」

 ターニュに戻ってまた討伐を始めても、また同じようにだんだんすり減っていってしまうだけだ。遠い未来ではなくて近いところに心の支えのようなものがあった方がいい。

「二日滞在するとしたら行き帰りも含めて六日かかるからなあ。十日間向こうで討伐をするとしたら、十六日分だから八体倒しておかないとペースが保てない。一日おきに休むとして一日に二体倒せたらすんなり出来るかもしれないけど、そこら辺はモンスターによりけりだからなぁ……」
「でしたら帰る分を賄えるところまではクエストを続けて、そこまでやったら帰るようにしてはどうでしょう。そうすればたくさん狩れば早く帰れるというモチベーションにもつながりますし──」
「──そうすると終盤がカツカツになるんじゃない? 最後に行き詰まる可能性もあるし、やっぱりある程度は余裕を持たせといた方が安心できるでしょ」
「たしかにギリギリではまずいですね。では、最低の日数を決めておいて──」

 俺が自分で考えなくちゃいけないことなのに、二人が代わりに議論を交わし始めた。二人の勢いについていけなくて話に入ることもできず、俺は「たしかに」とか「なるほど」とか頭の中で相槌を打つことしかできない。

 そこは申し訳ないと思いながらも、こうやって目の前で俺のことについて真剣に話し合ってくれているのを見ると応援してくれているんだなと改めて感じる。

 向こうに戻ったらその応援を裏切らないように頑張らなくては。
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