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第十章 Aランク昇格編
第223話 トレトのダンジョン
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ステーキをお腹いっぱい食べてぐっすり眠った次の日、俺たちはダンジョンへと向かう。
街の外でぽっかりと大きな口を開けているダンジョンの入り口の前には、受付のような場所があり、たくさんの観光客と思しき人が並んでいた。
待っている間に「ダンジョンの中で何があっても自分の責任です」という誓約書を書いていると、前方から「キャー」とか「ドキドキした~」とかのんきな声が聞こえてくる。
本当にドキドキしたときは「キャー」みたいなかわいい悲鳴ではなくて「ぎゃああああ」とか「おああああああああ」といった本物の悲鳴が出るものだ。
ほとんどの人が少し入っただけで出てくるので、人の多さに対して列の進みは早く、そんなに待つことなく俺たちの番がくる。
書いておいた誓約書を受付で提出し、入場料を払う。高価な魔力結晶が採れるダンジョンなのだからそれなりにするのかと思いきや、この入場料が意外と高くなく、貴族などでなくとも出してもいいかなと思えるくらいなのだ。だからこんなに多くの人がきているのかと納得した。
ここのモンスターを狩れるのはほんの一握りの強いパーティだけだから、入場料を高くしてもそうそう来ることはない。それならば一般向けのアトラクションにして少額ずつ取っていこうという考えなのだろう。ほとんどの人がダンジョンの魔力結晶はほとんど減らず、金だけを落としていく──巧いやり方だと思った。
入場料を支払った俺と師匠がダンジョンに足を踏み入れると、他の人が入ったときと同様にそれを嗅ぎつけたであろうモンスターが通路の奥からこちらに向かってくる。
さてやるか、と剣を構えると、隣の師匠がモンスターから目を離さずに言う。
「ここは僕がやるから、あとでゆっくりと腕試ししようか。ここだと次のお客さんの邪魔になるから」
そう言うと、師匠は剣を素早く抜き、近づいてきたモンスターを雷の魔法剣で斬りつけ、流れるような動きでとどめを刺す。一瞬の出来事で、気が付いたら倒されたモンスターがサラサラと灰になっており、その後に師匠がどの魔法剣でどう斬ったかという情報が遅れて入ってきたような感覚だ。
今のモンスターだってこちらに向かってくるスピード一つとっても、決して弱くはないはずだ。それをこういとも簡単に……
「すげえええ! 何が起こったんだ!?」
「暗くてよく見えなかったが、さっき入ったばかりってことは一瞬で倒したのか!? 一体何者なんだ?」
ダンジョンの外で並んでいた人たちが俄かにざわつきだす。師匠の強さをよく知っているつもりの俺でも驚いたんだから驚かないはずがない。
「きっと凄腕の冒険者だぜ!」
「でも有名どころで二人のパーティなんてあったか?」
「なかった気がするな……ってことは王国騎士団か!?」
「なるほど、同僚とダンジョンに来たってわけか!」
外で勝手に騒がれているが、騒ぎのもとになった当の本人は上機嫌で魔力結晶を拾って袋に入れている。背中を向けているから、師匠の弛みきった顔はおそらく見えていないだろうが。
「とりあえず腕試しはそこの角を曲がってからにしようか。見えるところで闘ってると入りづらいだろうし」
たしかに見えるところでバタバタしていたら、気になってしまうだろう。俺たちは魔法の炎だけが照らす薄暗いダンジョンの奥へと進んでいくのだった。
街の外でぽっかりと大きな口を開けているダンジョンの入り口の前には、受付のような場所があり、たくさんの観光客と思しき人が並んでいた。
待っている間に「ダンジョンの中で何があっても自分の責任です」という誓約書を書いていると、前方から「キャー」とか「ドキドキした~」とかのんきな声が聞こえてくる。
本当にドキドキしたときは「キャー」みたいなかわいい悲鳴ではなくて「ぎゃああああ」とか「おああああああああ」といった本物の悲鳴が出るものだ。
ほとんどの人が少し入っただけで出てくるので、人の多さに対して列の進みは早く、そんなに待つことなく俺たちの番がくる。
書いておいた誓約書を受付で提出し、入場料を払う。高価な魔力結晶が採れるダンジョンなのだからそれなりにするのかと思いきや、この入場料が意外と高くなく、貴族などでなくとも出してもいいかなと思えるくらいなのだ。だからこんなに多くの人がきているのかと納得した。
ここのモンスターを狩れるのはほんの一握りの強いパーティだけだから、入場料を高くしてもそうそう来ることはない。それならば一般向けのアトラクションにして少額ずつ取っていこうという考えなのだろう。ほとんどの人がダンジョンの魔力結晶はほとんど減らず、金だけを落としていく──巧いやり方だと思った。
入場料を支払った俺と師匠がダンジョンに足を踏み入れると、他の人が入ったときと同様にそれを嗅ぎつけたであろうモンスターが通路の奥からこちらに向かってくる。
さてやるか、と剣を構えると、隣の師匠がモンスターから目を離さずに言う。
「ここは僕がやるから、あとでゆっくりと腕試ししようか。ここだと次のお客さんの邪魔になるから」
そう言うと、師匠は剣を素早く抜き、近づいてきたモンスターを雷の魔法剣で斬りつけ、流れるような動きでとどめを刺す。一瞬の出来事で、気が付いたら倒されたモンスターがサラサラと灰になっており、その後に師匠がどの魔法剣でどう斬ったかという情報が遅れて入ってきたような感覚だ。
今のモンスターだってこちらに向かってくるスピード一つとっても、決して弱くはないはずだ。それをこういとも簡単に……
「すげえええ! 何が起こったんだ!?」
「暗くてよく見えなかったが、さっき入ったばかりってことは一瞬で倒したのか!? 一体何者なんだ?」
ダンジョンの外で並んでいた人たちが俄かにざわつきだす。師匠の強さをよく知っているつもりの俺でも驚いたんだから驚かないはずがない。
「きっと凄腕の冒険者だぜ!」
「でも有名どころで二人のパーティなんてあったか?」
「なかった気がするな……ってことは王国騎士団か!?」
「なるほど、同僚とダンジョンに来たってわけか!」
外で勝手に騒がれているが、騒ぎのもとになった当の本人は上機嫌で魔力結晶を拾って袋に入れている。背中を向けているから、師匠の弛みきった顔はおそらく見えていないだろうが。
「とりあえず腕試しはそこの角を曲がってからにしようか。見えるところで闘ってると入りづらいだろうし」
たしかに見えるところでバタバタしていたら、気になってしまうだろう。俺たちは魔法の炎だけが照らす薄暗いダンジョンの奥へと進んでいくのだった。
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追記:2025/09/20
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