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500年後の世界でスローライフ
探索 1
しおりを挟むシルフィードは朝食の片付けをしながら昼食のサンドイッチの準備をした後、外出用の服に着替えるため寝室に足を運んだ。外にいる魔物によっては戦闘になることが予想されるため、以前にミューゼリアから買ってもらった魔術師用のローブやブーツを含めた戦闘服一式に着替える。ブーツの紐を厳重に締めて隠し、ナイフケースをベルトに取り付ければ、龍災で旅をしていたころに戻ったようだ。パーティメンバーたちの誕生日祝いの中には、戦闘服の類もあったものの、どうしても使い慣れている物を手に取ってしまうのは、人として仕方ない面も大きいだろう。
着替えた後は倉庫から持ってきたマジックバッグの中に、昼食用のサンドイッチが入った籠と水筒、素材採取用の魔導瓶と手袋、コンパス、解毒と治癒の複数のポーション、というような探索に必要と思われるものを他にも次々詰め込んで、最後に忘れ物がないかもう一度確認した後、玄関を出る。
「…ふあ――――。聞いてはいましたけど、これはまた随分と深そうな森です……。私も龍災の際は国中色々なところを旅しましたけど、どちらかと言えば人里が多かったですし…」
シルフィードはまさに大自然、と言わんばかりな周りを見て、思わず間抜けなため息をつく。
塔の周囲2メートル程は不自然なほど綺麗に整地された地面が見えているが、そこから先はぽつぽつと生える巨大な広葉樹と、まだ伸びかけの木々と、名前もわからない草花が生い茂っている。
目を閉じて五感を研ぎ澄ませれば、自然の中特有の水と豊かな大地のにおい。生き物の鳴き声と足音。木立の隙間を吹き抜ける風。木々の隙間から差し込む木漏れ日。
それらが肌で感じられ、その全てがシルフィードの心を躍動させる。
「…ふふ。何だか少し怖いような、でも好奇心をくすぐられるような、不思議な気持ちになりますね。
さて、あまり長居しても仕方ないですし。そろそろ行って来るとします。留守番はお願いしますね」
そう言いながら、玄関の取っ手のすぐ上の部分。薄い四角い板でやや盛り上がっている場所に掌をあてて、魔力を流す。ミューゼリアの解説によると、登録された者の魔力を感じて鍵がかかるらしい。
「あらためて思いますけど、王城でしか使われていないような、原理もよくわからない魔道具をこれでもかと使ってますよね…。塔の外壁の方は、隠蔽や同化といった効果も付与されていて、そこにあると認識している人じゃないと、見つけられないとか……。…本当にどれだけの素材やお金、人件費が使われたのやら…。…いやもう、考えない考えない。これ以上考えても、誰も幸せにならない。…うん。そう、そう」
シルフィードは思考の海に沈みかける自分を奮い立たせ、言い聞かせるかのように首を強く振った。
「よし、では気を取り直して。出発進行です」
その声にはかなり力が入っていたが、半ば自棄に近いものであったことは、本人のみが知るところである。
さて、元気よく出発したのは良いものの、当然ながら人の出入りが一切ない森の中に足を踏み入れたところで、進むべき道などない。もしこれがシーフ系のスキルを持つ冒険者であれば、魔物や動物たちの獣道を痕跡から推測して進むといったことが可能であっただろうが、常人であれば到底無理な話だ。
そのためシルフィードはひとまず自分の目の前の草を風の初級魔術で刈りながら、北の方角へと進んでいく。かなり力技であることは重々承知しているが、もともと魔力量は多いし、足の踏み場をある程度確保しつつ歩かなければ、不意の戦闘で後れを取ることにつながるからである。
「ついでに歩いてきた方向の目印と、久しぶりの魔術の確認にもなりますしね。やっぱり5年以上使っていないと、威力も術式構築のスピードも落ちている。今一度訓練しなおさないと」
そうつぶやきながら、何度目かの風属性初級魔術「ウィンド・カッター」を進路方向に放って草を刈ったとき。
「っ!!」
咄嗟に身体強化魔術ををかけて後ろに飛びのくと、その足元に爪の先ほどの大きさの丸い種が、猛烈なスピードで飛んでくる。
飛んできた方向を見上げると、ユラユラと細い枝をうごめかせて、全長1メートルほどの丸い緑の塊が、木の枝に巻き付いているのが分かった。
丸い緑の塊はシルフィードが自分の存在に気が付いたことを悟ったのか、激しく全身を揺らして身体の大きさを倍にすると、全ての小枝を細かく振動させ、無数の種を飛ばしてくる。
「障壁!!」
しかしその攻撃を予想していたシルフィードは、自身の周りにドーム状の障壁を展開する。その構築スピードは尋常ではなく、彼女が言葉を言い終わる前に青紫色に輝く障壁が体全体を包み込んでいた。
かつてシルフィード・ヘイスティングスが『聖壁の賢者』と呼ばれた由来の一つである障壁は、物理攻撃にも属性攻撃にも高い防御力を発揮し、並の相手であればどのような攻撃であろうと無効化する。
それは丸い緑の塊にも言えたことで、怒涛の速さで打ち出された種はしかし、すべて障壁にはじかれ地面に落下した。
丸い緑の塊は渾身の攻撃がすべて無に帰した事実に驚愕するかのように、体をよじらせ停止する。
その隙を見逃すシルフィードではなく、「ウィンド・カッター」で多数の風の刃をつくり敵の枝を落とし、身動きできなくなったところで地属性中級魔術「アース・アロー」を唱え、数本の矢をその体に命中させて仕留める。
致命傷を受けたそれは最後に弱弱しく体を震わせ、ごうっと重みのある音を立てて、地面に落下した。
シルフィードはその様子を見ても決して気を抜かず、一時警戒を続けていたが、魔術を放っても特に動きを見せないことから警戒を解き、緑の丸い塊へと近づく。
「…ふう。久しぶりの戦闘で緊張しました。油断もあったとはいえ、こんな近くにモンスターがいたのに気が付かなかったなんて、要反省ですね。障壁のスピードも3割落ちていましたし」
言いながら、モンスターの死骸を淡々とナイフを使って解体していく。
今回倒したのは、植物のヤドリギに見た目そっくりな植物系モンスター「ニセヤドリギ」である。その見た目から発見が遅れることこそあれど、純粋な攻撃力も防御力も機動力も低いため、慣れれば比較的倒しやすい。…ただし。
「ありました。こっちの黄緑色のが魔石で、隣の毒々しい紫の袋に麻痺毒を蓄えてるんですよね。おかげで種が身体にあたると弾けて、麻痺させられるっていう。私は障壁があるので問題ないですけど、魔術なしで戦う人にとっては煩わしそうな相手ですよね」
シルフィードは手袋をはめて、魔導瓶に麻痺毒が蓄えられた袋を入れる。この袋と魔石がニセヤドリギから採取できる素材であり、種の方は本体から離れた時点で急激に劣化が進むため利用できないものの、袋の中の麻痺毒は加工することで猟をする際の毒として利用できる。
また毒を以って毒を制すというように、錬金術をつかうことで解毒ポーションの材料として使うこともできる。
「錬金術は学院である程度修めているので、薬草を見つけたら作ってみるのもよいですね」
シルフィードはまた新たな目標を見つけて胸を躍らせつつ、ポーションの材料とするなら、もう少し多く倒したいと考えるのだった。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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