500年眠りについた元賢者がスローライフを送っていたら、公爵閣下に気に入られた件について

ペンギン

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500年後の世界でスローライフ

探索 2

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 その後、時折ニセヤドリギに襲われ戦闘を行いつつ、順調に探索を進めていたシルフィードだったが、昼を過ぎても森を抜け出すことができず、そろそろ昼食を摂るのに良い、ある程度視界を確保できる場所を探したくなった。



「と、なると……、この場所がどれくらい広い森かもわかりませんし、属性魔術だと私は中級までしか使えないので少し難しそうですね。パーティだったら本職の魔術師かシーフ系冒険者に頼めばいいんですけど、今言ってもしょうがないですし。――久しぶりなので結構緊張しますけど、ここは使うしかないですね」



 シルフィードはそう言って軽く目を閉じ、深く息を吸って意識を切り替える。「コレ」を使う時は、いつだって気合を入れる必要があるのだ。

 体の中に意識を向けて、魔力を強く強く練り上げる。自分の「心」と向き合って、今何をすべきなのか、何をしたいのかを明確化し、魔力に感情を上乗せする。
 やがて彼女の周囲は可視化した魔力によって淡い光を放ち始め、空気が渦を巻いてゆく。



『この地に息づく精霊たちよ。我、シルフィード・ヘイスティングスにその力を与えよ。大地と風の精霊たちよ。日の光が満ちる安息の地へ、我を導け』



 たっぷりと魔力を帯びた声が波動となって辺りに木霊し、精霊たちを目覚めさせる。その場の空気が揺れ動き、彼女に使役された精霊たちは主の願いを実行するべく、一斉に方々へと散っていった。



 この世界には人間たちによって体系化された「魔術」と呼ばれる超常の力の他に、極めて少数の限られた者たちしか扱うことができない「魔法」が存在する。
 シルフィードが扱う「精霊魔法」はその一つであり、彼女はかつてそれと障壁魔術を駆使することで莫大な戦果を挙げた。シルフィードは自分の親の顔を知らないため、精霊魔法に関してはほとんど独学と言っても良かったが、大昔には代々精霊魔法を受け継ぐ部族もあったとされる。遺跡などから見つかる古文書にもその詳細が記されていない謎に包まれて部族であるが、伝説によれば、その部族の者たちの瞳の色は、シルフィードと同じロイヤルパープルだったそうだ。
 もしかしたら自分のルーツにはその部族が関係しているのかもしれないと考えつつ、方々へと散った精霊たちからの知らせを受け取っていたシルフィードは、やがて目的の場所を見つける。



「ここから北西の方向に小高い丘あり、と。そこそこの魔力をこめたわりに、得られた情報は少なかったですね。まあ、これに関しては仕方ありませんが」



 言葉は残念そうではあるが、あらかじめ予想されたことだったのか、彼女の声の響きはいつもと変わらない。
 精霊魔法による探索で周囲の地形と魔物の有無をある程度把握できたシルフィードは、体に身体強化魔術をかけ、風属性初級魔術「エアリアル」で空気の膜をつくり、木々の間をすべるように移動した。







 たどり着いたのは、まばらに草が生え岩肌がむき出しになった岩山だった。山と言っても大した高さはなく、せいぜい頂上付近が他の木々の高さから頭一つ抜き出るくらいだろうか。それでも森の中よりは圧倒的に視界がいいし、頂上から周囲の様子を確認できそうであったため、シルフィードは風属性中級魔術「フライ」を唱え、ふわりと地上から浮かび上がり、頂上付近で特に傾斜が緩やかな場所へと降下する。



「よし。ここなら魔物が来ても逃げやすそうですし、見晴らしもとても良いですね。昼食をいつもよりおいしく頂けそうです」



 機嫌よくなったシルフィードはすぐに手を洗い、岩山の頂上からの眺望を目に楽しみながら、食事をした。



 空腹を満たし一息ついた後、改めて周囲の地理を確認していく。常人では数百メートル先の木々を見分けることはできないが、身体強化魔術を応用し目に集中して術をかけると、視力を底上げすることができる。また水属性魔術で超透明の氷のレンズを生成し簡易的な望遠鏡をつくるやり方を、彼女は旅の中で仲間の魔術師に教えてもらっていた(教えることになった本人は、大変不服そうだったが)。



「……ふむふむ。ミューゼリア様の話では山間の谷という話でしたけど、厳密には南にある二つの山の谷の出口付近のようですね。あのあたりから扇状に森が広がっていると。
魔導塔はどちらかというと扇の西側に位置していて、北西にかけて森が大きく広がっていますね。
逆に北東の方は途中で森が途切れて草原になっている、と」



 シルフィードは自分が見た光景を、絵としてスケッチブックに描いて簡易的な地図をつくっていく。高等学院で美術は専攻していなかったために、完全に素人のお絵描きといった出来だが、本人は至って真剣に、それでいて熱中して絵を描いていく。

 その後時間をかけて絵を完成させつつ、風属性中級魔術「フライ」で上空に浮かび上がり地形を調べた結果、山の谷の方から扇の東側にかけて川が流れていることも分かった。

 ポーションの材料として必要な薬草の類は川辺に群生していることが多く、また川辺というのは多くの動物たちが集う場所であるから、錬金術の素材と新鮮な食材を得るためにぜひ行きたい場所である。
 しかし今日は何だかんだとすでに多くの時間を使ってしまったし、西の空を見上げると暗い雲が近づいてきている。ここライトリーフ王国では天候は西から変わり始めることが多いため、もうすぐ雨になるだろう。



「今日一日で結構な情報が手に入りましたし、続きは明日ですかね。雨がふらなければ川辺まで行けるんですけど……。洗濯物も干したいですし…。…って、なんか私、思っていた以上にこの状況になじんできてますね。昨日まではあんなに憂鬱だったのに」



 自分で自分の適応能力の高さに驚く。一番の要因は大切な人たちの思いを受け止めて前の向く気になったことだろうが、案外この気ままで誰かのために過ごすことの無い生活というものを、己自信が望んでいたのかもしれない。


 シルフィードはそう考えて新しく発見した自分の一面に戸惑いつつ、先ほどよりも明るさを増したように感じる木漏れ日の中を歩いていくのだった。

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