7 / 10
500年後の世界でスローライフ
探索 2
しおりを挟むその後、時折ニセヤドリギに襲われ戦闘を行いつつ、順調に探索を進めていたシルフィードだったが、昼を過ぎても森を抜け出すことができず、そろそろ昼食を摂るのに良い、ある程度視界を確保できる場所を探したくなった。
「と、なると……、この場所がどれくらい広い森かもわかりませんし、属性魔術だと私は中級までしか使えないので少し難しそうですね。パーティだったら本職の魔術師かシーフ系冒険者に頼めばいいんですけど、今言ってもしょうがないですし。――久しぶりなので結構緊張しますけど、ここは使うしかないですね」
シルフィードはそう言って軽く目を閉じ、深く息を吸って意識を切り替える。「コレ」を使う時は、いつだって気合を入れる必要があるのだ。
体の中に意識を向けて、魔力を強く強く練り上げる。自分の「心」と向き合って、今何をすべきなのか、何をしたいのかを明確化し、魔力に感情を上乗せする。
やがて彼女の周囲は可視化した魔力によって淡い光を放ち始め、空気が渦を巻いてゆく。
『この地に息づく精霊たちよ。我、シルフィード・ヘイスティングスにその力を与えよ。大地と風の精霊たちよ。日の光が満ちる安息の地へ、我を導け』
たっぷりと魔力を帯びた声が波動となって辺りに木霊し、精霊たちを目覚めさせる。その場の空気が揺れ動き、彼女に使役された精霊たちは主の願いを実行するべく、一斉に方々へと散っていった。
この世界には人間たちによって体系化された「魔術」と呼ばれる超常の力の他に、極めて少数の限られた者たちしか扱うことができない「魔法」が存在する。
シルフィードが扱う「精霊魔法」はその一つであり、彼女はかつてそれと障壁魔術を駆使することで莫大な戦果を挙げた。シルフィードは自分の親の顔を知らないため、精霊魔法に関してはほとんど独学と言っても良かったが、大昔には代々精霊魔法を受け継ぐ部族もあったとされる。遺跡などから見つかる古文書にもその詳細が記されていない謎に包まれて部族であるが、伝説によれば、その部族の者たちの瞳の色は、シルフィードと同じロイヤルパープルだったそうだ。
もしかしたら自分のルーツにはその部族が関係しているのかもしれないと考えつつ、方々へと散った精霊たちからの知らせを受け取っていたシルフィードは、やがて目的の場所を見つける。
「ここから北西の方向に小高い丘あり、と。そこそこの魔力をこめたわりに、得られた情報は少なかったですね。まあ、これに関しては仕方ありませんが」
言葉は残念そうではあるが、あらかじめ予想されたことだったのか、彼女の声の響きはいつもと変わらない。
精霊魔法による探索で周囲の地形と魔物の有無をある程度把握できたシルフィードは、体に身体強化魔術をかけ、風属性初級魔術「エアリアル」で空気の膜をつくり、木々の間をすべるように移動した。
たどり着いたのは、まばらに草が生え岩肌がむき出しになった岩山だった。山と言っても大した高さはなく、せいぜい頂上付近が他の木々の高さから頭一つ抜き出るくらいだろうか。それでも森の中よりは圧倒的に視界がいいし、頂上から周囲の様子を確認できそうであったため、シルフィードは風属性中級魔術「フライ」を唱え、ふわりと地上から浮かび上がり、頂上付近で特に傾斜が緩やかな場所へと降下する。
「よし。ここなら魔物が来ても逃げやすそうですし、見晴らしもとても良いですね。昼食をいつもよりおいしく頂けそうです」
機嫌よくなったシルフィードはすぐに手を洗い、岩山の頂上からの眺望を目に楽しみながら、食事をした。
空腹を満たし一息ついた後、改めて周囲の地理を確認していく。常人では数百メートル先の木々を見分けることはできないが、身体強化魔術を応用し目に集中して術をかけると、視力を底上げすることができる。また水属性魔術で超透明の氷のレンズを生成し簡易的な望遠鏡をつくるやり方を、彼女は旅の中で仲間の魔術師に教えてもらっていた(教えることになった本人は、大変不服そうだったが)。
「……ふむふむ。ミューゼリア様の話では山間の谷という話でしたけど、厳密には南にある二つの山の谷の出口付近のようですね。あのあたりから扇状に森が広がっていると。
魔導塔はどちらかというと扇の西側に位置していて、北西にかけて森が大きく広がっていますね。
逆に北東の方は途中で森が途切れて草原になっている、と」
シルフィードは自分が見た光景を、絵としてスケッチブックに描いて簡易的な地図をつくっていく。高等学院で美術は専攻していなかったために、完全に素人のお絵描きといった出来だが、本人は至って真剣に、それでいて熱中して絵を描いていく。
その後時間をかけて絵を完成させつつ、風属性中級魔術「フライ」で上空に浮かび上がり地形を調べた結果、山の谷の方から扇の東側にかけて川が流れていることも分かった。
ポーションの材料として必要な薬草の類は川辺に群生していることが多く、また川辺というのは多くの動物たちが集う場所であるから、錬金術の素材と新鮮な食材を得るためにぜひ行きたい場所である。
しかし今日は何だかんだとすでに多くの時間を使ってしまったし、西の空を見上げると暗い雲が近づいてきている。ここライトリーフ王国では天候は西から変わり始めることが多いため、もうすぐ雨になるだろう。
「今日一日で結構な情報が手に入りましたし、続きは明日ですかね。雨がふらなければ川辺まで行けるんですけど……。洗濯物も干したいですし…。…って、なんか私、思っていた以上にこの状況になじんできてますね。昨日まではあんなに憂鬱だったのに」
自分で自分の適応能力の高さに驚く。一番の要因は大切な人たちの思いを受け止めて前の向く気になったことだろうが、案外この気ままで誰かのために過ごすことの無い生活というものを、己自信が望んでいたのかもしれない。
シルフィードはそう考えて新しく発見した自分の一面に戸惑いつつ、先ほどよりも明るさを増したように感じる木漏れ日の中を歩いていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。
再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。
妻を一途に想い続ける夫と、
その想いを一ミリも知らない妻。
――攻防戦の幕が、いま上がる。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない
ちぱ
恋愛
異世界に転生した元大学生のセレナは、病弱な伯爵令嬢として第二の人生を歩むことに。
もう目立ちたくない。結婚も社交もごめん。
ひっそりスローライフを送るはずが──なぜか王太子の夢に出ていたらしく、彼の執着対象に!?
平穏を望むモブ令嬢の、溺愛され系異世界ライフ。
小説家になろうにも投稿しています。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』
みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」
皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。
(これは"愛することのない"の亜種?)
前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。
エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。
それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。
速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──?
シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。
どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの?
※小説家になろう様でも掲載しています
※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました
※毎朝7時に更新していく予定です→2月15日からはランダム更新となります。ご了承ください
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる